モードはハードで
初志貫徹で、転生後のクラスはダンジョンマスターに決めた。
他の2つは適性があるだけで他の職業に就くことも、他から転職してくることもできるみたいだけど、ダンジョンマスターは変更は利かないらしい。
「種族は変更できるんですか?」
というか人間以外に強制されると怖いので予防線を張ってみた。
「来世の世界には人族の他に亜人や獣人、竜人、魔人など一通り揃っておるから、普通は転生種族も選択できるんじゃが、お主にはそのポイントもないのう」
「ぐぐ」
「さらに転生先の土地もある程度選べるんじゃが、それも劣悪な環境にランダムかのう」
「ぐぐぐ」
「さらにさらに初期ダンジョンポイントが業壱につき10ポイント配分されるんじゃが、お主は0か・・」
「ちょっと待ったああああ」
あまりの過酷さにタイムをかけた僕を、神様はドヤ顔で見据えると
「だから言ったじゃろ?特殊クラスで難易度特Aじゃと」
と、やれやれだぜのポーズをとっている。だが、ここであきらめたら試合は終了である。最後の1秒まで喰らいつく覚悟が必要なんだ。
「裏技でなんとかなりませんか?」
「チートは無しじゃ、タグにも書いてあるじゃろう」
「では前借で!」
「借金はないとはいえ収入のあてもない者に金を貸すわけにはいかんのう」
「ぐぬぬ」
このままではロマンあふれるダンジョンマスターへの道が閉ざされてしまう。かといって初期ポイント0でランダム転移では、ツンドラ平原でスコップ片手に凍死している未来が見え隠れしてるし・・・
「そういえば僕の他にダンジョンマスターに転生した人もいるわけですよね?それだけシステムが決まっているなら」
カルマの交換レートがでてきたときに確信したけど、転生できるのはカルマ0の特権というわけでなく、さらには転生後のクラスとしてダンジョンマスターも選択できるみたいだ。まあ出現率は超レアなんだろうけど。
「確かに業が高いにもかかわらず輪廻を選んだ者もおるし、その中には課金アイテムリストを端からポチっていったツワモノのもおったかのう」
なにそれ、うらめしい、いや羨ましい。こっちは砂漠で水魔法なしで脱水症状になりながら、吹き寄せる砂を素手で掻い出してるのに、向こうは南国リゾートアイランドで高級ホテル並みのコアルーム生活ですか。
許せませんね、格差是正を要求します。
「というわけでなんとかポイントください!」
「お主、ワシが思考を読み取れるからといって、いろいろ飛ばし過ぎじゃろう・・・うーーむアレしか方法がないかのう・・・」
「ではそれで!」
「がっつき過ぎじゃろう、いくらなんでも内容ぐらい聞かんでいいのか?」
「神様を信用してますので。それと多分他に方法がないんでしょうし」
「後悔せぬのか、茨の道がさらに険しくなるのだぞ?」
神様の表情がこのときだけ峻厳さを取り戻したような気がした。でも僕には他に選択する余地がなかった。まあダンジョンマスターをあきらめるという道もあるにはあるんだけど、それは選びたくないんだ。
「お願いします」
頭を下げて願いを唱える僕を、神様は駄々をこねる孫を見るお祖父さんのような表情で見つめていた。
「良いじゃろう、お主の願い聞き届よう」
喜びの笑顔を向ける僕に、しかし神様は釘を刺すことも忘れない。
「じゃが贔屓はできん。種族は人間のまま、初期ポイントは100ポイント、転移場所は中央大陸の亜寒帯で森林の中じゃ。そしてペナルティーというか交換条件としてモードがイージーからハードになる」
「え?それってシステム機能が制限されるってことですか?他のマスターより1段階・・・」
「いんや、2段階じゃよ」
「なんですとー」
「普通はイージーモードで始まるんじゃが、業が悪業に偏っているものは試練としてノーマルモードで開始するのじゃ」
「いやいやいや、おかしいでしょう。なぜマイナスカルマの人より扱いが下なんですか?虐めですか?パワハラってやつですか?」
つかみかからんばかりの勢いで抗議する僕に対して、神様は静かに黄色い札を差し出した。
「3枚溜まると次の転生は蟲じゃぞ」
「おうふ」
静かになった僕を諭すように神様は語り始める。
「先にも言った通りに他に方法がないのじゃ。ノーマルモードでは初期ポイントが10の北極圏スタートになりかねん」
「ちなみにですけど、ハードの上ってあるんですか?」
こうなったら行くとこまで逝って初期ボーナスを限界までもらうのも手かなと考えたんだけど、神様は難しい顔で答えてくれた。
「ハードの上はヘルモードじゃな。ヘルなら初期ポイント10000に転移場所は自由選択、ハウスキーパー用のパペットが6体はオプションでつくのう」
「ではそれ「じゃがしかし!開始時にコアはデーモンロードに占有されていて、それを倒さない限りマスター権限は一切使用できないのじゃ」・・・はどれくらいの強さなんでしょうか?」
「うーむ、まあ魔王の四天王の上から2番目ぐらいの奴かのう」
「ああ、それ戦ったらダメなやつですね。実力はあるのに面倒だから四天王主席はやる気のあるのにまかせて楽してるけど、戦闘力はへたすると魔王以上ってタイプ」
「そうそうそんな感じじゃな」
「何その無理ゲー」
「ヘルモードじゃし」
「しょぼーーん」
神様は、うなだれる僕を励ますように声をかけてくれる。
「常人なら挫折してしまいかねない険しい道じゃが、お主なら案外楽しみながら進んでしまうような気がするのじゃ」
結局、僕はハードモードでダンジョンマスターに転生することになった。ダンジョンマスターを選択した場合には新生児に転生するわけではなく、かといって前世の肉体はもうないわけで、あちらの世界でよく似た体格の人族に再構成されるらしい。
神様に促されて水盆の水面に顔を映すと、ゆっくりと意識がなくなっていくのがわかる・・・
ひどく遠くから神様の声が聞こえたような気がした・・・
「・・・よ、目が覚めたら、まずコアを探し当てて手を触れるのじゃ・・・障害があるやも・・・健やかに・・・」
やっと転生しました。