以前、犬を飼っていました
『それでは参加したダンジョンマスターとダンジョンコアは、一度こちらに集合してくださいね、うふふふ』
「管理人さん」のアナウンスと共に、仮想空間に会議用ホールが出現した。
僕らは、未だに妹に説教をしているマリアとロザリオを、引き剥がすようにして会議ホールへと向かった。
「ごめんなさいです、ごめんなさいです・・」
「・・どこがいけなかったのだ・・戦術に間違いはなかったはずなのに・・なぜ・・」
後ろを振り向くと、双子姉妹はまだ再起動に時間が掛かりそうだった・・
「マリア、ちょっとやり過ぎてないか?」
「なに言ってるのよ、えぐい罠で心を折ったのはアンタじゃない、アタシは最後に少しだけ止めを刺しただけよ・・」
『ああ、どっちもどっちだな・・』
『うんうん』
僕らは先に会議ホールで、反省会を始めていた。
『あらあら、今回はバトルの勝利おめでとうございます』
「ありがとうございます」
「まあ、当然よね」
『お二人には委託金の5000ポイントの返還と、報奨金5000ポイントが授与されますよ、うふふふ』
合計1万ポイントの加算となると、殆どがダンジョン・クレジットへの預金になるね。
『ぷひゅっ』
あ、コアがまた何か噴出して倒れたよ・・
「ねえ、アンタのダンジョンコア、大丈夫なの?・・」
「いつものことなので、あお向けにして涼しいところで休んでいれば、平気です」
『彼女の唯一の弱点かもな・・』
ただし、ここだと付き添っていてくれるメンバーがいないから、早くダンジョンに戻りたいのは確かだった。
『あらあら、仮想ダンジョンからの眷属の引き上げは大丈夫かしら?』
「うちは、全員、リアルからの転送なんで、自動でもどってくるはずですけど?」
「アタシのとこも、最後に残ったのはエンペラーだけだから、自動帰還ね」
途中で倒れた眷族は、すでに各自の本拠地に転送されているはずだ。
「へえ、激戦だったんですね・・」
留守番に使っていたゴブリン達も、戦いに狩り出したみたいだ。
『いや、なんというか、うちのマスターが張り込みすぎた・・』
「なによ、どうせいつも仮想召喚した眷属はそのままじゃない。だったら捧げても一緒でしょ」
全部、サクったのか・・・
『だが、こういう機会に経験を積んだ眷属を増やしておくと、彼らのように自力で特殊進化するかもしれないぞ・・』
「確かにそうね・・・ちょっとボン、なんで全部サクリファイスしちゃったのよ!」
『俺か・・俺のせいなのか?・・』
「当たり前でしょ、ダンジョンマスターのフォローをするのが、ダンジョンコアの仕事よね?」
『それは、そうなんだが・・・』
ボンさん、そこで納得しちゃダメです・・
そしてそこの二人、親方をどちらが撫でるかでもめない様に・・
「ちょっと、少しは遠慮しないさいよ、アンタはいつも一緒にいるでしょ」
「それとこれとは別だ、戦友と語り合う時間はなにより大切なものなのだからな」
「戦友とかいって、今回、アンタ、見てただけらしいじゃない!」
「くっ、そ、それは・・」
「キュキュー@@」
まずいな、親方だけに負担が掛かりすぎる・・
『すまない、うちのマスターがいつも迷惑かけて・・』
「いえ、覚悟はしていたから、それは良いんですけど、できればうちのダンジョンでやってもらえると、他のメンバーにも分担できるので・・」
『あらあら、では、ここと貴方のダンジョンを繋げましょうか?双子姉妹はまだこないみたいですし』
「あ、ならそうしてください」
『はい、できました、うふふ』
すると、会議ホールの奥に扉が現れて、それが開くと、そこは懐かしいオークの丘の中腹だった。
そこには何故かテントが二つ設営されていて、中から見た目はそっくりな6人の冒険者が驚いたように顔を出していた。
「リーダー、リーダー、なんか来たよ!」
「敵襲か?」
「空間系だな・・ディメンジョン・ドアか?」
「どちらかというと、マジック・シェルター系だな・・扉が固定されている・・」
「あ、扉が開くよ・・」
「警戒を解くな・・何がでてくるかわからんぞ」
ああ、彼らも焼肉パーティー以降、ほったらかしだったね・・
「驚かして、すいません・・ただいま、戻りました・・」
「キュキュ!」
「あああ、お帰り!」x6
その声を聞きつけたのか、下層からメンバーの皆が駆けつけてきた。
「おかえりっす、バトルは勝ったっすよね?」
「ギャギャ(ロザリオさんが、死に戻りしなかったので、大丈夫だろうって話はしてたんですよ)」
「ギュギュ」x3
「オイラはまだ、目が回ってるだよ・・」
「皆、ご苦労様、バトルは無事に勝てたよ」
「キュキュ」
歓声が上がる中、事情がわからない冒険者達が、ひそひそ話をしていた。
「リーダー、バトルって何?」
「カヌーの櫂だっけ?」
「それはパドル」
「障害のことだな・・」
「それはハードル」
「・・模擬戦か何かかな?」
「それはバトル・・・って、それそれ」
さすがにダンジョンバトルのことまでは、冒険者には知られていないらしい・・・僕から教えるわけにもいかないから、彼らには勝手な想像をしておいてもらおう・・
「・・ノーミン、冒険者さん達は、何か待ってるの?・・」
「・・ヘラの情報をどこまで渡すか、勝手に決められなかっただよ・・」
ああ、そうか、ナーガ族の隠れ里の話をしないといけなかったんだ・・バトルですっかり忘れてた・・
「・・ヘラと相談しないと拙そうだから、もう少し待ってもらえるかな?・・」
「・・ここが気にいってるようだで、問題ないと思うだ・・」
居つかれても困るんだけどね・・
「・・じゃあ明日の朝にでもアポイントとっておいて・・今晩は宴会だけど、さすがにそこに招待はできないし・・」
「・・あちらのマスターも来るだでな・・人族も眷属化できれば良いだが・・」
「・・眷属化できたら承諾しそうなの?彼ら・・」
「・・まず間違いないだ・・」
それって冒険者としてどうなんだろう・・
とにかく、彼らには明日、会うことにしてテントで待機してもらった。
そして仮想ルームの扉は、地下墓地の階段入り口に再接続してもらって、メンバーを移動させた。
最初は、うちのダンジョンで宴会という話もあったのだけど、ボンさんが直接参加できないので、仮想ルームを拡大してもらって、そこにうちの接待用メンバーが参加する形になった・・
『あらあら、モフモフでいっぱいね、うふふ』
「管理人さん」も心なしか嬉しそうだ・・
『もちろん、私は犬派ですよ、うふふふ』




