なんとなくクリスタル
「こちらタコ壷スナイパーっす。2体目のサラマンダー・ソルジャーっぽいのが落下してきたっす」
『司令部了解、これで5体目かな・・』
「ギャギャ(イカ壷スナイパーです。ファイアー・バット2体が抜けています)」
『ああ、そうだね、司令部了解』
「半分ぐらい倒したっすかね?」
『4割ぐらいかな・・思ったより戦力を削れたけど、そろそろ対応してくるはずだから、警戒は怠らずにね』
「ういっす、大丈夫っすよ、ここは最前線っす。気を抜くと味方の砲弾で木っ端微塵になるっすから」
「ギャギャ(耳がちょっと痛いです)」
ワタリとアズサは、シャフトの底の大部屋で、壁に掘った横穴の中で待機していた。
落下のダメージを耐えた敵に止めを刺す役だ。ファイアーバットの様な飛行モンスターを狙撃する仕事もある。
ただ、この部屋は大変危険なのだ・・なぜなら転落してきた岩石砲弾が、次々と降ってくるからである。バトル開始からインターバルまでの30分間で、落下してくる数は、実に180発。延々と野戦砲が打ち込まれる、塹壕のようなものだ・・
振動と、轟音で神経は削られ、土煙で視界は悪くなる。その中でじっと穴に潜んで、落ちてくる敵を待ち受けるのは、辛い任務に違いなかった。
「オイラ、この戦いが終わったら・・水浴びして、冷えたエールを一気に飲み干すっす」
「ギャギャ(おつまみは、フライドポテトと枝豆がいいな・・)」
・・・なんだろう、この微妙なフラグ・・・
死亡フラグには足りないけど、全員が無事に乾杯は出来なさそうな、ぬるいフラグが立ったような気がする・・・
マリア侵攻部隊
「なんか敵が全然出てこないんだけど、やる気あるの?冷やし中華の方」
『既に3つの大部屋と4つの廊下を支配領域に置いたが、戦闘は最初の1回だけだったな・・』
「これってあれ?リソースは全部、妹に回して、姉はせこく引きこもりっていう作戦?」
『どうかな、こちらの防衛機能は順調に働いている感じだぞ・・偏っている風には思えないが・・』
「なら、一点豪華主義で、ラスボスだけ、すごいのがいるのかしら。それならそれで倒しがいがあるけどね」
現在はまだ、ダンジョンの全体像は掴めていない。最初の大部屋の3つの出口のうち、正面はT字路の廊下に、左右はL字の廊下に繋がっていて、結局は2つの大部屋に収束していた。それらの大部屋はさらに奥に扉が続いていたが、左右に広がる方向の壁には出口はなかった。
『3つの大部屋は3点に綺麗に並んでいるし、廊下のつながりから見て奥にも対称形で3部屋あるはずだ』
「ボンの予想は大抵外れるからねー」
『おいおい、まあ直にわかることだからいいが・・右から行くのか、左から行くのか?』
「じゃあ右からかな。支配した大部屋には1体ずつ、ゴブリン出しといて」
『了解した、廊下はどうする?』
「そうね、もったいないから要らないわ」
『了解した、マスター』
「ギャギョ」
「ん?廊下の床に落とし穴のトラップ?避けられそう?」
「ギャギャ」
「そう、なら端を歩けばいいわね」
『初めての罠だな・・』
「こんなのに引っ掛かる奴、いるの?」
『まあ、あれだ、探知系の眷属がいないとか、罠は無いと油断させておいてとか・・』
「ふーん、冷麺はアタシを舐めてるわけね・・」
『それはあれだ、マスターが攻防のどちらを担当するかはわからないわけだし・・』
「へーー、まあそういうことにしておいてあげるわ・・」
マリアはかなりフラストレーションを貯めているようだった・・
ゴブリン・スカウトの扉に対する罠と鍵のチェックが終わると、すぐに押し開けた。
「ここも同じ大部屋ね。出口も正面と左壁に1つずつあるのも一緒」
『な、左右対称だったろ?』
「まだ先を確認してみないと判らないわ」
『了解、索敵ゴブリンを放つか?』
「もういらない気もするけど、どうせお留守番は必要だし、ノーマルで2体だけ出して」
『マスター、了解した。ゴブリン(R1/10)を2体召喚して、それぞれの扉の前まで移動させる・・』
召喚されたゴブリンは、大部屋に林立する氷の柱の間を、ときには倒れた柱を乗り越えながら奥へと進んでいった。
「やっぱり登攀つけないと遅いわね」
『耐寒も必要そうだぞ』
悴んだ手に息を吹きかけながら、氷を攀じ登るゴブリンが、哀愁を誘う・・・
その時、柱の影に潜んでいた何かが、ゴブリンの喉元を貫いた・・
「フィッシュ!」
『マスター、隠密系だ、気をつけろ!』
氷の柱の影から、水晶の様に透明な身体をした巨大な蜘蛛が、わさわさと姿を現した。
「スカウトは敵の発見を最優先、見つけたら牽制でいいから矢を放ちなさい!」
「「ギャギャ」」
「ゴブシロードは、迎撃して!」
「御意!」
オーガー侍は、半円陣を描いてマリアを護るゴブリン・スカウト達の、さらに前に立って水晶蜘蛛を待ち構えた。
『クリスタル・スパイダーが4体、いや5体』
足を伸ばせば2mを越えるサイズの半透明な蜘蛛が、氷柱の上から、オーガー侍に向かって飛び掛ってきた。
「奥義、燕返」
オーガー侍は、交差法によるカウンターで、水晶蜘蛛の突進力を削ぐと、そのままニノ太刀で切り伏せた。
『ん?燕返しって、そんな技だったか?・・』
時間差で飛び掛った2体が、成す術もなく切り倒されたのを見て、残りの3体の水晶蜘蛛は、3方向から同時に飛び掛った。
しかし・・・
「奥義、旋風斬・弐連!」
左右の手に、太刀と剣を構えたゴブシロードが、範囲攻撃を連続で繰り出すと、水晶蜘蛛は一撃も噛み付けないまま全てが切り落とされてしまった。
「ボン、支配領域に置けるか試して。ダメならまだ生き残りがいるはずだから」
『了解した・・・支配領域化終了・・あれで全部みたいだな・・』
「ふーん・・まあ、スカウトの矢が通らないぐらいに装甲は硬いみたいだったから、普通なら損害ぐらいはでるのかしら」
『透明な身体による隠密は完璧だったから、かなりやっかいな相手だと思うぞ・・』
「まあ、うちの一本釣り戦法なら、ちょろいもんよ」
『ゴブシロードの戦闘力が並じゃないからな・・』
「さあ、どんどん行くわよ!」
『ちょっと待った』
「なによ、勝ってカブトの雄がいた、とか聞き飽きたんだけど・・」
『それを言うなら、「兜の緒を締めよ」だ・・そんなことより、支配領域の上書きをされたぞ』
「どこ?!」
『2つ目の大部屋だ、左側の方だな・・』
「留守番ゴブリンは?」
『逃げ出す暇もなく倒された・・ただ、最後にメッセージを残している・・』
「聞かせて・・」
『再生する・・・「ギャギョギャ!(敵が!半魚人が3体!マスターー!)」・・以上だ』
「そう・・ゴブ二百三郎の仇は必ず討って上げる・・」
『ああ、ただ、死んだのはゴブ二百次郎だけどな・・』
「・・・どうせ、すぐに三郎も逝くでしょ」
『酷いな、おい!』
「さあ、ゴブ二百次郎三郎の弔い合戦よ!」




