シャフトvsカレイドスコープ
『あらあら、あと10分で準備期間が終了するわね、みんな用意はできたかしら?』
「管理人さん」の10分前コールがあったけど、僕らの準備はまだ終わっていない・・・
「ていうか、ほとんど出来上がってないんだけど、大丈夫なんでしょうね?」
マリアが横から口を挟んでくるけど、今はそれに構っている時間さえ惜しい・・
「コア、中心のシャフトは石造りで、他の箇所は地面そのままでいくから記憶しておいて」
「ん」
「シャフトは直径3mの円筒形で、総延長距離108m、斜度45度で設置(360)」
「・・・らじゃー」
「9m毎に左右互い違いに横道を設置、3mx9mx3mの通路(10)を合計で12本」
「・・ん」
「シャフトとの境は頑丈な石の両扉(15)で全部横道へ内開きで12箇所を設置」
「ん」
「さらにその1・5m奥に同じ扉を12箇所設置」
「ん」
「それから・・・」
僕らのダンジョン構築を脇で眺めていたボンさんが、ポツリと呟いた。
「すさまじい速さだな・・・」
「なによ、あれぐらいボンでもできるでしょ?」
「いや無理だろう・・俺ならもう3回ぐらいマスターの指示に疑問を挟むか、突っ込みを入れているはずだ・・」
「何よそれ、アタシの指示が悪いってわけ?」
「いや、マスターの指示は、ある意味俺に放り投げだから、やり易い面もある・・・彼らのはそれとはまったくの別次元の速さだな・・」
「・・・良くわからないんだけど、何が違うのよ・・」
「まずマスター側の指示が、無駄と思えるほど細かく設定されている・・」
「それって逆に時間とるんじゃないの?」
「ところが、ダンジョンコア側から疑問が飛ばないから、結果的には処理が速くなる・・」
「なるほどねぇ」
「さらにダンジョンコアがマスターの意図を汲んで、迷いなく指示を実行している・・・」
「それってボンが処理速度が遅いだけなんじゃないの?」
「ぐっ・・確かに彼女の演算速度はトップクラスだが、それだけじゃなく、マスターの構築の意図を理解しているからこそできる事だと思う・・・」
「・・・どこらへんが?」
「つまり、今さっき、通路に12枚の扉をつくってたよな?」
「え?ああ、12箇所って最後に言ってたから、そうかも・・・」
「そこで俺なら『12枚全部同じでいいのか?』とか『石造りで両開きだと15ポイントもかかるぞ』とかマスターに聞き返すと思う・・・」
「・・まあそうね、それでアタシが『じゃあ、木造でもいいわ』って言いそうね」
「さらに、そのすぐ奥に半マス(1・5m)しか間を空けないで、同じ扉を12箇所つくれっていわれたら、『おい、正気か?』って突っ込むよな・・」
「・・ちょっとムカつくけど、まあ、そうね・・それでアタシは『あ、ごめん、15mの間違い』って言うと・・・ねえ、ちょっとその指示、間違ってないの?意味ないじゃない!」
「な、そうなると思うだろ・・ところが彼らの間にはそれが無いんだ・・そして開いた先に再び立ち塞がる扉にも意味があるとわかってるんだよ・・・」
「どういうこと? 階段もないシャフトの途中に枝道があって、扉を開けてもすぐに扉が・・・って、ああ、なんとなく想像ついたわ・・・」
「だろ? 彼らのやりとりは、その理解にかかるタイムラグがない、もしくは非常に短いんだ・・・」
「・・なるほどね、ボンの言いたい事が少しわかったわ。そしてもう1つわかったことがある・・」
「それは?」
「あのルーキーが、えげつない性格してるってことよ」
「・・・シャフトの底には15mx15mx6mのラウンドスクエアの大部屋(144)を3m沈下させて設置」
「ん」
「・・・ボンさん!双子姉妹の眷属に、道程の秘蹟を使ってくる術者っていそうですか?」
「おっと、どうかな・・可能性は低いと思うけど・・」
「了解です、そこのケアは今回は省いときますね」
「そうだな、全てに対処するのは無理だから、絞って正解だと思うぞ・・」
「コア、踏んだら・・・」
「どうやら、間に合いそうね・・・ボン、アタシ達も準備始めるわよ!」
「了解、マスター・・お手柔らかにな・・」
「ふっ、冷熱のぶっかけうどん姉妹なんか、アタシのゴブリン兵団の敵じゃないわ!」
「今回は頼りになる味方もいることだしな・・・」
マリアとボンは、隣で一心不乱にダンジョン構築の仕上げをしているダンジョンマスターとそのコアを見ながら頷いた。
その頃の双子姉妹
「どう?テスラ、これで抜けはなさそう?」
『マスター、侵攻部隊の指揮官の「ま」が抜けています』
『イスカ、黙って・・』
「イスカには聞いてない・・」
『聞かれなくても答える、それが優れた参謀の素質です』
「そして出しゃばり参謀は、早死にするわよね・・」
『・・周囲の警戒に行って参ります~』
「・・・双子でもテスラとイスカは、まったく性格が違うのよね・・」
『マスターそれはお互い様です』
『イスカ、それは思っていても言ってはダメ・・』
「・・・訂正するわ・・根っこは一緒よね、貴女達・・」
今回のビルドバトル用のダンジョンは、中央のラストステージルーム(180)を囲むように6つの大部屋が繋がっている形式をとった。部屋のサイズは規格を統一して、15mx15mx6m(120)、大型眷属も不自由なく暴れられる広さがある。
大部屋同士は通路(10)x16で複数に繋がっていて、ぐるっと一周もできるような形だ。それぞれの出口は頑丈な石の両扉(15)x18で区切ってある。侵攻側が支配地域を拡大できるので、それを奪還し易いように配置してみた。
マリアの眷属はゴブリン一択なので、支配地域に守りとしておくのは雑魚になるはずだ。そこをこちらの精鋭でスイープしていく。大部屋は、こちらの眷属に有利な地形に変換しておくので、まず雑魚に遅れをとることはない。
注意すべきはユニーク・ゴブリンだが、1体までならなんとかなる。支配地域の抑えに置いた雑魚を消耗させることで、マリアのDPを削っていくしかない。あとはフレアの無双を待つだけだ・・
『マスター、この防衛用ダンジョンは、侵入担当がマリア嬢の想定で構築されていますが、そうでなかった場合はいかがいたしましょうか?』
「彼のデータはほとんどないから、対処しようがないのが現実・・」
『なるほど・・戦力的に亜人が多そうでしたし、最低限の対応はできそうではあるのですが・・』
「何をしでかすかわからない・・でしょ?」
『はい、ダンジョンバトルの戦績を見ると、マリア嬢の他にオババ様にも勝利しています。誕生して半年の新人マスターとしては破格であるかと・・』
「まあ、マリアはあれでハメ技専門なところがあるし、オババはマスター不在だから、奇跡ってほどでもないんだけど・・」
『なめてかかれば、あの者達の二の舞ですね』
『イスカ!』
「ルーキーの潜在能力より、こっちの方がよほど心配だわ・・」
傍を見れば、騒ぎ疲れた妹が、眷属を枕に高鼾をかいていた・・・
「むにゃむにゃ、DP残ってないかも・・、むにゃ」




