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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第9章 氷炎の魔女編
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彼方からの手紙

 「まあ、うちのマスターは、敵陣へ侵入して制圧しつつ、コアルーム目指せばいいわけだから、準備はいらないしな・・」

 「そうやって、ボンさんが甘やかすから、ああなるんですね・・」


 女帝マリアは、すっかり動物王国の園長である。

 「おー、よしよし、よしよし」

 わしゃわしゃと全身を撫で回されながらも、チュンリーは、嫌な顔をせずに我慢していた。


 「君のとこの眷属は、我慢強いね・・」

 「ええ、あの手の扱いに慣れてますからね・・」

 まだ、しばらく正気に戻りそうもないので、打ち合わせはボンさんとだけ進めておくことにする。


 「先ほど、制圧しつつと言っていましたが、タッグマッチだと、侵入側も支配権を確保できるんですか?」

 「ああ、そうだ。一部屋毎に支配権の判定があるから、ガーディアンの配置は大事になるぞ。ほっとくとどんどん支配下に置かれて、そのエリアでは召喚ができなくなる・・」

 「それはまた面倒ですね」

 「取り返すこともできるから、相手も維持にリソースを裂くことにはなるけどな」

 「なるほど・・それは利用できそうですね」

 抜け道や隠し部屋は有効そうだった。


 「あと注意する点としては、防御側はダンジョンの構築とガーディアンの両方にリソースが必要だが、攻撃側はイントルーダーだけ出せばいいことだな」

 「イントルーダーは、攻勢用の眷属ですよね」

 「ああ、仮想召喚だから、思いっきり、使い捨て上等で呼び出すはずだ」

 「ボンさんの所でも?」

 「・・・うちは、普段から、そんな感じだよ・・・」

 「うわあ・・」

 さすが女帝、統治に私情は挟まないんだね・・


 「今回は双子の特性もあって、ヘタをすると2倍のDPで押してくるかも知れないぞ」

 「まあ、その可能性もありますよね」

 姉は理性的だから、防御ダンジョンの構築はしっかりするだろうけど、残りを全部、妹が使ってくる可能性は高いよね・・・あれ?

 「僕らはボンさんの特殊機能で、マリアを送り出せるけど、双子姉妹はどうやって攻防に別れるんですかね?」

 「そりゃあ・・・どうするんだろうな・・」


 『あらあら、呼びましたか?』

 「質問です、双子姉妹のツイン・コアは防御用ダンジョンのコアルームに固定ですよね?」

 『うふふ、そうですね』

 「だとすると、侵攻部隊のダンジョンコアは、どうするんですか?」

 姉妹の片方が居ても、ダンジョンコアがないとシングルのときの遠隔操作と同じになってしまうような気がするんだけど・・


 『あらあら、大丈夫ですよ。双子姉妹の防衛用コアルームと、侵略用スタートルームは同じですからね、うふふ』

 「「マジですか?!」」


 ちょっと待って、情報を整理しよう・・

 普通のビルドバトル・タッグマッチなら、防衛用コアルームと侵略用スタートルームにそれぞれのマスターとダンジョンコアが配置される。

 この場合は、バトルが始まると、30分後のインターバルまでお互いとの連絡がとれなくなる。僕らは、ボンさんの特殊機能で、これをクリアしたわけなんだけど、双子姉妹は、最初から同じ部屋にいることになるのか・・


 「それは、こちらのダンジョン構築の邪魔にならないのか?」

 ボンさんが抗議してくれた。

 『あらあら、心配しなくても、普通に改変禁止エリアを利用しているから大丈夫よ』

 侵略用スタートルームは4方に出口があるだけで、それ以外は確かに加工・改変はできなかったか・・するとつながってるのは天井かな?


 「その情報が最初に提示されなかった理由はなんですか?」

 『聞かれるまでは答えないのが私流だからかしら。情報戦も重要な要素ですものね、うふふ』


 確かに知らなくてもバトル自体には影響はしないか・・・逆に事前に判れば利用する手もあるし・・


 「では、それ以外に今回と一般ビルドバトルの相違点を教えてください」

 『あらあら、欲張りさんね。一般のビルドバトル・タッグマッチのルールは把握しているのよね?』

 コア知ってる?

 「ふるふる」

 「え?マスター候補生と正式に契約を結んだときに、短期集中で教え込まれなかったか?」

 「しょぼーん」

 「あ、すまん、雇用試験期間で戻されてたっけか・・」

 「どよーん」

 コアがすごい落ち込んでる・・


 「あ、あ、でも、今のマスターは正式契約だろ?ならその際に・・・」

 「「ぐふっ!」」


 「ボン、そこの清貧マスターはドMハードモードなんだから、アタシ達の常識は通用しないの・・ねぇー、うちの子になれば、もっと贅沢できるのにねぇー」

 くっ、ブルジョアめ・・・ 


 『あらあら、そんな「コア」さんに、ピッタリな贈り物があるのよ』

 「ぷれぜんと?」

 『そう、私の前任者が、貴女にって』

 「・・ひめ?・・」

 『データチップの読み込み方は判るわね?』

 その言葉とともに、コアの頭上に金色の羽が1つ舞い降りてきた。その羽をコアが掴むと、小さな水晶の欠片に変わる。

 それをコアが胸元に押し付けると、水晶の破片は、そのまま吸い込まれるように消えてしまった・・


 コアは、そのままの姿勢で目をつむったまま、微動だにしない。どうやら大量のデータを読み込んでいるようだ・・

 「彼女の演算速度でこれだけかかるとなると、かなりの量だと思うが・・」

 「コアが動けないと、ダンジョンが構築できないんですけど・・」

 「それまずくないか・・」

 罠か、運営の罠なのか?


 そうこうするうちに、コアが瞳をひらいた・・そこには一滴ひとしずくの涙が光っていた・・


 「もしかして、『姫』から何かメッセージがあったの?」

 「こくり」

 「・・そうか・・それでデータの中身は?」

 「ばとるれぽーと」

 「え?それって過去のデータ全部かい?」

 「たぶん」

 「おいおい、そのデータは閲覧ランクBだから、引き出すのに1件ずつDPがかかる代物なんだがな・・」

 

 『あらあら、きっと貴女達が先輩マスターに苛められないように用意したのね』

 各種ダンジョンバトルのルールと注意事項も併記されていて、今の僕らにはとてもありがたかった。



 けれど・・あの「姫」が、僕らにバトルを推奨するようなデータを送ってきたことに違和感があった・・


 そっとコアを見ると、小さく頷いた。


 どうやら、さらに何か意図が隠されているらしい・・・



 『あらあら、せっかくの前任者の心づくしを無駄にしてもいいのかしら?もう15分も残っていないわよ』

 そうだった、今はこのバトルに全力を注がないと。アエン達との約束を守らないとね。


 シングルとタッグの違いは、30分後のインターバルで、攻撃と守備の担当を交代できること。両陣営共に攻略に失敗したなら、支配した敵陣営の部屋の数で勝敗が決まることぐらいだった。

 「これ、無駄な空部屋は作らない方が良いってことですよね?」

 ボンさんに聞いてみたんだけど、答えは違うところからきた。


 「アタシが攻略に失敗するわけないでしょ!そんなセコいことは気にしないで、アンタは好きなようにダンジョンをつくればいいのよ」

 マリアがモフモフを堪能したらしく、戦闘モードに戻っていた。

 チュンリーはぐったりしていたけれども・・・


 「キツイことを言ってるようだが、うちのマスターは君達のダンジョン構築力には一目置いているんだよ。そうでなければ、より負担の大きい防御役を任せたりはしないからな・・」

 「ちょっと、勝手な注釈つけないでよね。アタシは楽な方を選んだだけなんだからね」

 なるほど・・ツンデレだ・・


 「いいから、とっととダンジョン作りなさいよ!」

 



  その頃のアイス&ファイアーシスターズ


 「姉さん、姉さん、まだですか?もういいですか?始めちゃいますか?」

 「あと15分は侵入禁止です。大人しく待っていなさい・・」

 「でもでも、フレアはもう我慢できないんですー」

 「だったらメンバーの選択でも・・って、なんで、もうすでに部屋にあふれるほどの眷属を召喚しているのですか・・」

 「だってだって、ドカン・バキンで終わるんですから、この子達で十分ですよー」

 「普通は相手のダンジョンに対応した眷属を小出しにするものです・・」

 「つまり、敵の意表をついちゃったわけですね、イヒョー」


 『マスター、今のは意表とイヒョーを掛けた駄洒落ですか?』

 『イスカ・・黙って・・』

 『しかしテスラ、いつものマスターなら、あそこは「うひょー」と言います』

 『だからイスカ黙って・・』


 「空間が遮断されているのに、我慢もなにもないでしょう。できるものならやってみなさい・・」

 『マスター、その煽りは危険です』

 「よっしゃー、姉さんの許可がでたから、フレア、いっきまーす!」

 火炎属性系の眷属が、一斉に出口に向かってブレスを吹く動作をし始めた。


 「ちょっと、馬鹿、止めなさい!」

 『イスカは警告しました・・』

 「責任回避してないで、止めさせなさい!」

 『もう遅いかと・・』

 『大丈夫です、マスター。こちらで制御できています・・』

 「助かったわ、テスラ・・そのまま時間まで凍結しておいて・・」

 『努力します・・』


 「ちょ、なんでダンジョンコアが命令を聞かないんですか?下克上ってやつですか?」

 『緊急回避です・・』

 『マスターは下克上されるほど、高い地位にいませんし』

 『イスカ・・黙って・・』




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