狂乱のマリア
「そういえば、紛争の元はなんだったの?それを聞いてないんだけど」
「確かに俺も聞いてないな・・」
そう聞かれたので、マリア達に、今回のバトルの発端から掻い摘んで話をした・・
「アンタねえ・・お人好しも、いい加減にしとかないと、そのうち死ぬわよ・・」
「まあ、それは極端だが、俺も保護を求めて来る者をすべて受け入れるのは反対だな・・身が持たん」
そういわれてみると、ダンジョンバトルの原因は、全て他所から流れてきた者を匿ったのが始まりだったね・・
「ういっす」
「オデとヘラもだ」
「えっ?私もですか?」
そういったアエンにマリアが反応した。
「あら、アエンじゃない、クランから脱出してきたのって、アンタだったんだ?」
「え?この声はマリア?なんでここに?」
「何でじゃないでしょ、アンタ達の身柄を保護する為に、ここにいるお人好しが、ダンジョンバトルやるからって、助っ人で呼び出されたのよ」
「そうなんだ・・そうそう、例の魔道具の調子はどう?」
「あー、あれは完璧ね・・さすが良い仕事してるわ・・」
「でしょでしょ、私の渾身の作だもの、苦労したんだから」
「感謝してるって、お礼に、この間のバトルでゲットした、ロゼワイン持ってくから・・」
「さすがマリア、わかってるー」
なぜか女子会が始まってしまった・・・
「・・ああなると長いから、条件はこちらで詰めておこうか・・」
「ですね・・ちなみに魔道具って何か聞いても?」
「・・特注のソフトボール用のウォーハンマー・・・」
「・・そ、そうですか・・」
マリアもアエンも何やってるんだか・・
『あらあら、では双子姉妹が勝ったときの報酬は決まったの?』
「ドワーフクランから脱出艇を使って逃げ出した4人全員の身柄の引渡しと、それ以降における本件のドワーフへの干渉の停止だな・・」
「姉さん、姉さん、あと例の魔道具ももらっちゃいましょうよ」
「そうか、そうだな・・では、特注ウォーハンマー・バットも渡してもらおうか・・」
なぜそんなものを?
「ちょっと、アンタ達、この間の大会でボロ負けしたのをバットの所為にする気?」
「う、うるさい、マリアから何か搾り取る必要があると思っただけだ・・」
「ですよ、ですよ、決して魔道具が羨ましかったわけじゃないですー」
「上等ね、このアタシから爪の垢1mgでも奪おうとする輩には、容赦しないわよ」
すでに場外戦が繰り広げられていた・・
『あらあら、ではマリアさんとお人好しさんが勝ったときの報酬は?』
「元ドワーフクラン『鍛冶場の番人』の移住希望者全員の引渡しと、それ以降の本件のドワーフたちへの
干渉の停止です」
『あらあら、マリアさんはそれで良いの?』
「元々、助っ人だし、双子のほえ面が見れれば構わないわ・・それにボーナスは相方からもらうから」
お手柔らかにお願いします・・
「それだとこちらの持ち出しが多くなりすぎるんだが・・」
「ドワーフ全部逃げ出すかもです、ピンチなのです」
案の定、双子姉妹がクレームを入れてきた。
「はあ?何、寝言いってるのよ。捕まえた雑魚ドワーフなんて反抗的なんだから眷属化できないでしょ。奴隷にするか、潰してDPに代えるしかないんだから、アタシの秘蔵の魔道具に見合うわけないじゃない・・逆にこっちが持ち出しみたいなものよね」
「しかし、数が違いすぎ・・」
「手元の雑魚ドワーフだとラチが開かないから、逃げ出した4人に拘ってるわけでしょ?だったらその4人の去就が焦点になるわけよね。それとも何、雑魚ドワーフと亡命した3人は対象から外して、にらみ合いになったという一人にだけ絞ってバトルする?こっちはそれでも良いんだけど・・」
マリアの暴走に僕が思わず待ったをいれそうになったけど、ボンさんが、静観するように、そっと合図を送ってきた。
「くっ、仕方ありませんね、その報酬を飲みましょう・・」
「姉さん、姉さん、勝てばいいんですよ、勝てば」
「はっ、わかればいいのよ、わかれば」
マリアが強引な交渉術で、こちらの要望を押し通してしまった。
「助かったよ」
「これぐらい強気に出ないと、ベテラン連中には通用しないわよ、覚えておきなさい」
味方になった女帝は、頼もしかった・・
『あらあら、そろそろ良いかしら?』
「こちらは問題ない・・」
「フレアも、やる気充填120%ですです」
「僕も準備できました」
「アタシもいつでも良いわよ」
『あらあら、それではこれより・・』
「「アイス&ファイアーシスターズ」」
『と』
「「モフラーによるモフモフの為の楽園」」
『の』
「「「「ビルドバトル・タッグマッチ」」」」
『を開催いたします、うふふ』
『あらあら、それではこれより30分間のダンジョン構築時間です。時間に間に合わなくても、攻略チームは遠慮なく入り込んでくるから、気をつけてね、うふふ』
不吉な予言をして「管理人さん」はフェードアウトしていった・・・何かのフラグなんだろうか・・
「ちょっと、防衛はアンタの担当でしょ。ぼさっとしてないで、ちゃっちゃか構築しなさいよね」
「了解、その変わり侵攻部隊は任せたよ・・特殊念話が許可されなかったから、一度始まったら、連絡がとれなくなるから・・」
「ふふふ、そうでもないのよね」
マリアが悪巧みを思いついたように笑っていた。
「何か裏技が?」
それにはボンさんが答えてくれた。
「裏技というほどでもないけどな。俺の特殊機能を使うだけだから・・」
あれ?そういえばボンさんの特殊機能ってなんでしたっけ?
「ボンの特殊機能は『我家』よ」
・・・さすが庶民派・・・
「郊外に、庭付き一戸建てのマイホームを夢見るサラリーマンというわけよ」
「・・それは暗に揶揄してないか?マイホームは男の夢だろう、な?」
な?っていわれても、今はダンジョンがあるから・・・
「でしょ、地味よね、夢が」
「・・で能力はどういうものなんです?」
「『我家』の能力は、マスターの立っている場所を中心とした30坪の土地を、俺の支配下のダンジョンと同じに扱えるというものだ」
「それ、すごくないですか?」
「まあね、アタシのダンジョンコアだしね、それぐらい出来て当然よね」
さっきまで盛大にディスっていたような・・・
「ただし、ふらふら遠出するマスターに直接的な危険が降りかかるというデメリットがある・・・」
ああ、マリアだと忠告を無視して、危ないところに行きまくりだろうね・・
「なによ、せっかく離れても能力が使えるんだから、活用しないと宝の持ち腐れでしょ」
「転送もできるんですか?」
「ああ、呼び戻すのは一瞬だな。それで座標も失われるから、再度送り出すことは出来ないけど・・」
そうか、あくまでマリアが移動した先に、飛び地ができるというわけか・・
「で、ボンをそっちのコアルームに残して、侵入部隊はアタシが率いて突入するわ。これで条件は双子と一緒ね」
なるほど、普通ならマリアはボンさんと一緒に、双子の防衛用ダンジョンに出現するはずだけど、この方法ならマリアだけ入り込めばいいわけか・・
「ボンから侵攻状況は伝えられるし、謎解きの相談とかもできるしね」
「ビルドバトル・タッグマッチは、ダミーコアは使わないかわりに、マスターやダンジョンコアには危害は加わらないシステムになっているから、単独でも安全だしな・・」
それを考えれば、タッグの相棒をマリアに頼んで正解だったのかも・・
「そうよ、恩にきなさいよね。なんだったら待ち時間の間にボーナスの一部を前渡をしてくれてもいいのよ・・・新しいメンバーが増えたそうじゃない・・・」
マリアがそわそわし始めた。
ボンさんが処置なしというふうに肩を竦めているので、仕方なくリアルDPを支払ってウィンターウルフのチュンリーを仮想打ち合わせルームに転送した。これはバトルとは別の扱いになる。
純白のモフモフを見たマリアの狂乱は、想像した以上だった・・・
「ばーさーかー」




