皇帝陛下のご威光により
「あらあら、参加要請を受けてくれみたいよ、よかったわね」
そうか・・受けてくれたんだ・・よかったのかな?
「どうしたの?嬉しくないの?うふふ」
これから起きる騒動を考えると、少し早まったかなと・・・
そんな僕の迷いを吹き飛ばすように、もう一人の参加者が仮想ルームに接続してきた。
「待たせたわね!アタシが来たからには、もう大丈夫よ!」
ああ、いつものマリアだね・・
「うげえ、姉さん、あいつ女帝なんかひっぱりだしてきたー」
「私が言うのもなんだが・・友達は選んだ方がいいぞ・・」
ごもっともで・・・
「ちょっと、なによ、もっと喜びなさいよ。このマリア様が、わざわざ助っ人に来てあげたんだから」
「それには感謝してますよ・・よくて5分5分かなと思っていたから・・」
「ゴブゴブなら来るにきまってるでしょ、『ゴブリン使い』は伊達じゃないのよ」
駄洒落かい・・・しかも元だよね・・
「あらあら、元気がいいわね、初めまして。私が今回のバトルをジャッジする『管理人さん』です、よろしくね、うふふ」
「ふーん、聞いたこと無いけど、まあいいわ。マリアよ、よろしく」
「おい、マスター、その方は・・」
「あらあら、『市民A』君、口の軽い男の子は嫌われるわよ、気をつけなさい」
「は、はい、・・それと今は『ボン』と名乗っていますので・・」
「うふふ、『ボン』君ね、素敵な名前ね」
「ちょっと、うちの『ボン』に色目を使わないでもらえる?」
「おい、やめろって・・」
「あらあら、焼きもち?でも大丈夫よ、お姉さんはもう少し頼りがいのある人じゃないとね♪」
「・・そうなんだ・・」
「それはそれで腹が立つんですけど」
「あらあら、若いっていいわね♪」
「そろそろ、いいかな・・」
痺れをきらしたフリージアが、会話に割って入った。
「あらあら、私としたことが・・それでは、全員揃ったところで、ダンジョンバトルのルールを決めましょうか」
「アタシはまったく話を聞いてないんだけど、仕掛けたのはどっちよ?」
「委員会に裁定を依頼したのは、こちらだが、取引を受けずにバトルを宣言したのは、そちらだな」
「えっと、そうなるの?」
取引の条件が飲めないから、こちらから新たな提案をして、それがこじれたから自然とバトルで決着という話だったような・・・
「あのね・・バトルのルールは、それこそ勝敗の行方を左右する可能性があるんだから、ほいほい相手に主導権譲ってんじゃないわよ!」
「あ、でもタッグを飲んでくれたら、後の条件はこちらに任せるって、双子のお姉さんの方が・・」
「ぎくっ」
「姉さんの馬鹿、馬鹿、まぬけ、あんぽんたん、冷血、金欠、冷え性、それからえっと・・」
「言いたい放題だな・・あとで覚えてろ・・」
「ほほう・・・さすが噂の双子の魔女、新人相手に豪儀ですなあ・・」 ニヤリ
マリアが悪そうな笑みを浮かべた。
「いや、それは、2対1になる可能性も配慮してだな・・」
フリージアがおどおどしながら弁明をする。
「シャラップ!(黙りなさい!) ジャッジ、該当箇所の再生を」
「あらあら、はいどうぞ・・
『最初にいっておくが、私達は二人一緒でなければダンジョンバトルは出来ない。それ以外の条件なら、そちらの好きにしてもらって構わない』
・・ですって、うふふ」
「なるほど、なるほど、よーくわかったわ、そりゃあ新人相手にハンデなしじゃ、大人げないものね」
「マリアはガチだったけどね・・」
「アタシはいいの、マスター歴4年と11ヶ月は、まだ新人みたいなものだもの。そうあれは春の新人戦だったのよ」
「・・ボンさん、そうなんですか?・・」
「・・5年未満とはいえ、新人ではないけどな・・そういうことにしておいてくれ・・」
「・・あ、はい、了解です・・」
あいかわらず苦労しているみたいだ・・
そして女帝様は、獲物をいたぶる猫のように双子の姉を追い詰めていた。
「つまり、今回のバトル、種目もこちらで決めて構わないってことよね?」
「いや、だから、まさかマリアが助っ人にくるとは思わずにだな・・」
「ビー・クワイエット!(静粛に!) なら種目はゴブリンウォーズで良いわよね?!!」
ブブー
仮想空間にいつものブザーが響き渡った。
「あらあら、それは許可されなかったみたいね」
「なんでよ、相手が条件はなんでも構わないって言ってるんだから、問題ないはずよ!」
しかし双子姉妹はお互いの顔を見合わせて、ほっと頷いていた。
「こっちの二人にゴブリン種の眷属がいないからみたいね、うふふ」
「ああ、なるほど、前提条件が成立してないんですね」
確かに、今の僕がゴーレムウォーズを挑まれても何もできないと同じだね。
「ちょっと、おかしくない?アタシ、以前にこの双子姉妹とゴブリンウォーズしたんだけど・・」
「ああ、そうだな、あの忌まわしい戦いは、今でもトラウマになっているよ・・」
「・・ゴブリン・エンペラーが来るデス・・全てを引き連れて、やって来るデス・・」
マリア・・どれだけえげつない戦法とったんだよ・・・
「だったら、あのときのグレイシャル・ゴブリンとボルカニック・ゴブリンはどうしたのよ?」
「削除した・・」
「「はあ?」」
「リストにあっても使わないし、バトルのときに弱点になりかねないから、DPを払って削除した・・」
「あんた達・・外道ね・・」
え?禁じ手なんだ・・
「・・ゴブリンを削除する奴は、地獄に落ちればいいんだわ!」
あ、そっちね、ゴブリンじゃなきゃ気にしないのか・・
「というわけで、ゴブリンウォーズは受けられない・・」
「そこいらで、拾ってくればいいじゃない!なんなら今、出そうか?」
「あらあら、ルール条件のごり押しは、規定に反する行為にあたるけど、いいの?」
「ちっ、命拾いしたわね・・」
残念、マリアのゴブリン無双で楽勝とはいかなくなったみたいだ。
「・・ボンさん、なんで僕らのときにゴブリン・エンペラーださなかったんですか?・・」
「・・ここだけの話だけど、エンペラーは召喚コストが1500なんだよ・・」
「「・・ぶっ・・」」
「・・あのときは上限1000だったろ。だから出したくても出せなかったのさ・・」
「・・了解です・・」
「・・ちょーれあ・・」




