絶対運命共同体
「よってこの勝負、『下弦の弓月』の勝利といたす!」
「虎」の長老が、勝ち名乗りを上げてくれて、ワシらの勝利が確定した。
「うそだ、何かの間違いだ・・俺が負けるわけ・・・そうか!カジャめ、最初から奴らとグルだったな・・」
自分の敗北を受け入れられない「鮫」のジョージャが、ぶつぶつ呟きながら近づいて来た。
「おい『鮫』の、お前も一家を構える漢なら、潔く負けを認めちゃどうだい・・」
リュウジャの言葉に、過敏に反応して、飛び掛ってきた。
「俺はまだ、負けちゃいねえ!お前ら!裏切ったカジャもろとも、こいつら全員、殺せ!!」
懐に忍ばせておいた毒刃付きの小刀を振りかざして、リョウジャに切りかかったジョージャであったが、後ろ回し尾っぽのカウンター攻撃を受けて、壁際まで吹き飛ばされた・・・
そして、ジョージャの掛け声に応じた配下は一人もいなかった。
彼らもまた、ジョージャを頭とは認めなくなっていたのだ・・・
長老の指示で、牢屋に連行されるジョージャの瞳からは、すでに戦う気力も失われていた。
それを見送るリュウジャが、呟く・・
「だから言ったろ・・あんた、背中が乾いているぜ・・・」
僕が再度、ハクジャに遠話を飛ばしたときには、「小竜会」の意思も固まっていた。
「じゃあ、リザードマン側は、全部こちらに任せてくれるで良いんだね?」
『はい、マスター様。ワシも準会員として「小竜会」に席を置くことを許されました、ジャー』
準会員というのは、長老の予備人員のことで、幹部として会に出席することが許されるらしい。
なんでも今回の騒動で、長老の席にも1つ追加で空席ができたので、幹部から正式な手順を踏んで、昇格をする儀式をするらしい。それまでは暫定で準会員扱いになるとのことだ。
ハクジャが、そのまま長老に出世できるかは、微妙らしいが、昔馴染みの「龍」の幹部が、長老に昇格するのは間違いないのだとか・・
それなら「小竜会」とのコネも問題ないだろうから、ハクジャの去就には固執しないですむね。
『今回、無断でアエン殿を賭けの対象にして勝負をしたこと、お詫びいたしますです、ジャー・・』
「それはもう良いよ。送り出したときに、ハクジャの判断で全て動かして良いって、言っておいたでしょ?その判断に間違いは無かったのだし、結果も上々なんだから、謝ることなんてないんだよ」
『しかし、1つ間違えば・・・ジャジャ・・』
「アエンもOK出したっていうし、もうその話は御仕舞いにしよう」
『ありがとうございます・・ジャー』
「状況を整理するよ・・アエン・タングステン、ニッケルの3名は、現状ではハクジャの保護下、つまりうちのダンジョンの保護下にあるで良いね?」
『「龍」とタングステン殿には、それで許可をもらいました。別々にすると、そっちに魔女が難癖つける可能性が高いと・・・ジャー』
「その意見は僕も賛成。とにかく、氷炎の魔女の触手が、南の湖群に伸びないのが第一だからね」
『問題は、先手を取られたマンガンの脱出艇ですな、ジャジャ』
今もにらみ合いを続けている、地下水道の途中で難破した最後のドワーフの去就か・・・
「あっちは、向こうの眷属が先に確保してるからね・・・横槍を入れればこちらが悪者になるね。そして向こうはそれを待っているかんじ・・」
『アエン殿も可能なら助けて欲しいけれど、その為にマスター様に危険が及ぶなら放念してもらっても構わないからと・・ジャジャ』
アエンにしても、居候の身でわがままは言えないんだろうね・・本心を言えば、故郷を奪還してもらいたいし、沢山の仲間も救出して欲しいのだろうけれど、それを言い出したらキリがない・・・
「そうか・・向こうは大量の人質を持っていることになるのか・・・」
『アエン殿やタングステン殿に、戻ってこいと脅しをかけるやも知れませぬ・・ジャジャ』
ドワーフのクランとしては、技の継承の為に、厳選して逃したのだろうけど、アエン個人の心情は、自分達だけ落ち延びたことに納得していないかも知れないね。
「やっぱりダンジョンバトルを受けるしかないか・・」
『しかし相手は二人ですぞ、ジャー』
「うん、まあ、なんとかするよ」
『・・そうでしたな・・いつもそうしてきたのでしたな・・ジャジャ』
「ばっちこい♪」
「かしらかしらご存知かしら?」
「ああ、それは知らないな」
「かしらかしら本当かしら?」
「早く言え・・」
「姉さん、せっかち。もっと姉妹のコミュニケーションを楽しまないと・・」
「どうなると言うのだ?」
「孤独死です」
「・・・」
「じゃあ最初からいきますね!」
「お、おう」
「かしらかしらご存知かしら」
「かしらかしら何かしら?」
「・・姉さん、ぶりっ子、似合わなすぎー」
「・・・どうしろと言うのだ・・」
「場が暖まったところで、重大発表です!」
「さっきのは前座なのか・・」
「ついさっき『永遠の17才』・・・ゲフンゲフン、間違えちゃった、『管理人さん』から連絡があって、例の新入生がダンジョンバトルを受けるみたいだって」
「正気か?」
「失礼ですー、フレアはSAN値MAXですです」
「いや、お前のことじゃない・・あとお前にSAN値などない」
「えへへ、褒められちゃったりー」
「・・耐えろ、私の理性・・」
「燃えろ、フレアの小宇宙!」
「・・・ダメかもしれん・・・」
「・・・それで、本当にバトルを受ける気なのだな」
「えー、だって姉さんがそうなるように苛めてたじゃない、いたいけな新入生を」
「こちらに有利になるようにプレッシャーはかけたが、まさか逸れドワーフごときに肩入れして、バトルを承諾するとは思わなかった・・」
「だったら最初から『ドワーフを引き渡せばチャラにしてやっから、泣き見る前に御免なさいしな』って言ってあげれば良かったのに」
「どこのレディース総長だ、それは・・」
「え?似てなかった?昔の姉さん・・・」
「ストップ、風評被害が酷いことになりそうなので、それ以上は禁止だ」
「とにかく受けるんでしょ?バトル」
「まあ、あちらがやる気ならな・・」
「えへへ、漲ってきましたよー、ひっさびさのダンジョンバトルだーー」
「しかし・・自暴自棄になるようなタイプには見えなかったが・・」
ダンジョンバトル委員会仮想ステージにて
「あらあら、本当に良いの?あの双子姉妹、ああ見えて強いのよ?」
「ええ、僕が納得できる結末は、バトルをしないと得られないですから」
「うふふ、男の子ね♪ お姉さん、嫌いじゃないわよ、そういう無謀な正義感」
「そんなんじゃないですよ・・」
「いくら気に入っても、審判役は公平にお願いしますよ、お姉さま」
「あ、フレアは少しハンデあげてもいいかなー、弱いものいじめは趣味だけど、少しは歯応えも、ね?」 「あらあら、もちろんジャッジはちゃんとやりますよ、心の中で応援するだけだから」
それありなんだ・・・
「最初にいっておくが、私達は二人一緒でなければダンジョンバトルは出来ない。それ以外の条件なら、そちらの好きにしてもらって構わない」
「それって、二人で一人分ってことですか?」
「いや、こちらはダンジョンマスターが二人でコアも二つだ、ただし、そのコアがくっついているのだ」
「はあ?」
「あのね、あのね、フレア達のコアは、『ツイン・コア』って言うんだよ。コア同士がお互いの周りを周回している双子惑星なのだー」
「ゆえにコアルームも台座も1つしかなく、切り離して活動できないのだ」
「二人で1つ、ばろろーむなのだよ、わかったかな?」
いやいや、よくわからないけれども、ダンジョンコアってなんでもありなんだな。
「えっへん」
そこ、コアが胸張るところ?
「あらあら、どうしましょう。同じポイントで戦っても、司令官が二人いる方が断然有利ですし」
いくらコアの処理速度が速くても、2正面作戦をとられると、片方の状況判断と対応は後手に回らざるをえないよね。しかも牽制や囮作戦も2倍できるわけで・・・
「あらあら、そしたら貴方も応援を頼んだら?」
「え?そんなこと出来るんですか?」
「うふふ、もちろんよ。タッグを組んだり、3対3で戦ったりもするわよ。エキビジョンが多いけれど」
なんかプロレスみたいな大会でもあるんだろうか・・
「まあ、それが妥当でしょう。新人にそんなマスター仲間がいればですが・・」
「急造ペアで、フレア達、ボンバーペアに勝てると思うなよ」
「ストップ、それもアイス入ってないですよね・・」
「あらあら、もちろんお友達ぐらい居るわよね?」
「「ぷいっ」」
「あらあら、拗ねた二人も可愛いらしいわね♪」
ダンジョンマスターの知り合いなんて二人しか居ないし、そのどちらも癖が強すぎる・・・
でも、もしどちらか選べと言われたなら・・・
「マスター、委員会からダンジョンバトルへの参加要請が来てるがどうする?」
「なによ、ボン。またどっかのバトルジャンキーが相手を探し回ってるの?」
「いや、タッグパートナーの依頼らしい」
「へー、珍しいわね、エキビジョンじゃないんでしょ?」
「ああ、まだ条件は確定してないらしいが、ちゃんとしたバトルだそうだ」
「ふうん、それならこっちの利益もねじ込めそうね・・でもリアルでタッグなんて、あの双子姉妹みたいなことやるのがまだ存在するんだ・・」
「相手は、その双子姉妹だ・・」
「受けたの、どこの馬鹿よ・・」
「つい先日、うちが負けた相手だよ」
「あの馬鹿、また絡まれたんだ! まあ、ポケット膨らませた中学生が、夜道を歩いていたら、怖いお兄さんに声かけられても仕方ないか」
「最初に声掛けたのは、マリアだしな」
「アタシは良いのよ!世の中の厳しさを教えてあげたんだから」
「教わったのは、こっちだったけどな」
「うぐぐぐ」
「それで、どうする?受けるのか?」
「えー、勝ち目薄くない?あいつらゴブリンウォーズは嫌がるだろうし・・」
「確かにな、一度、騙して填め殺ししたら、涙目だったな」
「今とくにDPも困ってないしなー」
「なら断るか・・『新しいモフモフメンバーと一緒にお待ちしてます』てコメント欄に書いてあったが・・」
「行くわよ!」
「え?」
「一度は戦ってライバルと認めた相手が、助けを求めているのよ。いかないでどうするのよ!」
「ああ、まあ、王道ではあるか・・」
「待ってなさい!アンタを倒すのは、このアタシなんだからね!」
「うちのマスターはツンデレが似合うんだよな・・」




