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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第9章 氷炎の魔女編
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機械工作部品?

 テオがもたらした驚愕の情報に、長老会議全体が混乱した。

 「まさか、そんな馬鹿な・・」

 「だとすれば容易にはあきらめんぞ・・ジャジャ」

 「おい、何があった、俺は何も聞いてないぞ、おい!」

 「ふっ、そういうことか・・」

 「今の話は、本当なのかね?」


 タングステン殿もアエン殿に、真剣な表情で質問をしている。

 「アエンは知っていたのか?」

 「いえ、私もいま聞いたところです・・」

 「本当だな?」

 「こんな重大なことで嘘はつきませんよ」

 「それもそうか・・しかしな・・」

 「ええ、かなりマズいですね・・」


 会場の混乱を収めるために、議長の「虎」が叫んだ。

 「とにかく、一時休憩とする。再開は1時間後だ、いいな!」

 それにともない、長老達は慌しく部屋を出て行った。そして各自のクランに情報の確認と、今後の対応を知らせておくために、矢継ぎ早に伝令を送り出す。


 ワシ達も、専用の控え室に戻ったが、すぐに「龍」の来訪を受けた。

 その僅かな間に、遠話で、マスター様からの詳しい情報とこれからの指示を受けておく。


 「ハクジャ、忙しいところに悪いな」

 リュウジャは、護衛を一人だけ連れた身軽な格好で訪ねてきた。


 「いや、うちの伝令が騒ぎを起こしてすまなかった、ジャー」

 「おいおい、俺にはそんな建前はいらないぜ。うっかり周囲に聞かれたのも、そちらのマスターの指示だったんだろ?」

 やはりリュウジャにはマスター様の意図が読み取れたらしい。


 「あえて盗み聞きさせることで、情報の信憑性を増し、さらには敵対しそうな勢力には聞かせないことで、『味方にしか流さない情報』があることを暗示する・・」

 「ついでに敵対勢力に情報を流そうとする派閥がいないかを探らせているところだ、ジャー」

 アサマには「鮫」の控え室に入っていく者がいないか見張ってもらっている。


 「あのときのハクジャの驚いた顔を見れば、それが初耳だったことは誰でもわかる・・仕込みでなければ、この情報は信用できる・・・ただ、少しそちらに都合が良すぎるけどな・・」


 それはマスター様も心配していた。

 侵略者がダンジョンマスターであったなら、逃げたドワーフを追って、どれほどの戦力が送り込まれてくるか想像もつかない。

 「小竜会」が難民ドワーフを庇って戦いになれば、被害は怖ろしいほどに膨れ上がる可能性があった。

 しかし、威に屈して、ドワーフを差し出せば、「小竜会」の威信も水の底に沈むだろう・・・

 助けを求められた客人を、保身の為に売ったとなれば、親分衆の面目は丸つぶれである。


 その究極の選択を、間にワシらのダンジョンを挟むことで回避できるかも知れないのだ。

 「『小竜会』としても、お膳立てされたようで収まりが悪いのは確かだろう・・だが結局はハクジャのマスターに頼るしかないはずだ・・」


 ダンジョンマスター同士が争ってくれるなら、「小竜会」は片方に乗っかれば良い。その結果がどうなろうと、親分衆に傷はつかない。勝負は時の運なのだから・・・


 「この休憩中にほとんどの親分衆が、ハクジャに会いにくるはずだ。勝ち目がどうとか、戦力はいかほどとか、聞き出そうとするだろうが、結局は『任せるから無様な負け方だけはするな』に落ち着くだろう・・」

 いくら勝敗に拘らないとはいえ、外馬に乗ったら駄馬だったでは、目利きを疑われることになる。負けるにしても、「よくやった、惜しかったな」と肩を叩ける程度には健闘して欲しいはずだった。


 「休憩時間は1時間しかない。他の親分衆の邪魔になるだろうから、俺はこれで失礼するぜ・・」

 そういって、リュウジャは護衛と一緒に戻っていった。


 

 それからは、リュウジャの予想したとおり、入れ替わり立ち代り、長老や幹部達が来訪した。

 彼らは一様に、先の情報の信憑性を尋ね、勝負になったときの勝ち目を聞き、最後に「任せる」といって尾っぽを絡ませていった。

 ダンジョンバトルになったときの勝ち目など、ワシにはまったくわからなかったが、マスター様の戦績が、2戦2勝であることを告げると、彼らは満足してくれた。

 相手の強さは不明だが、こちらが上り調子なら、良い勝負になると思ったらしい。



 あと5分で会議が再開される頃に、「鮫」を抜かした最後の幹部が来訪した。「鰐」と名乗ったその男も、彼の所属している部族も初耳だったが、「小竜会」に出席できるのだから、それなりに有力な部族なのだろう。

 彼は、時間が押していることを恐縮しながら、他の長老達とは違う質問をしてきた。


 「ドワーフの皆さんは、納得してるんですかい?」


 確かに、それは失念していた・・

 アエン殿は、こちらに来る前に、ワシらのダンジョンにゲストとして滞在することを第一にしたい旨、話がついていた。追っ手が別のダンジョンマスターだとわかっても、その考えに変わりはなかった。


 「バトルに負けないように、必要な武具があったら幾らでも打ちますよ~」

 とはりきっていたから、問題ないはずだ。


 しかし、タングステン殿はどうなのだろうか・・・


 「ダンジョンマスター同士の景品になるより、大人しく故郷に戻って、穏やかに暮らしたいんじゃねえですかね?」

 「いや、しかしタングステン殿は、クランを壊滅させた魔女をことのほか憎んでおられた、ジャ。彼らに降伏することを良しとはしないだろう・・・ジャジャ」

 「そうですかねえ、口ではそう言っても、心の中まではわかりませんよねえ」


 そう、うそぶく「鰐」の目が危険な色を帯びた。


 「だから、俺らが3人まとめて送り届けてやれば、魔女も喜ぶんじゃねえですかい!」

 叫びながら、隠し持った小刀を腰だめにして突っ込んできた。


 「うらあああ、亡霊は墓場に戻るのがお似合いだぜええ」

 

 大勢の来客を機械的に捌いていたワシに、慣れという隙が生まれていた。

 ボソボソとしゃべる「鰐」に合わせて、身体を寄せていたのも迂闊だった。

 この男が刺客だったと気がついたときには、既に致命傷を受けていた・・・・



 「鰐」と名乗った男が・・



 自分の後頭部に突き立った、黒い鋼のボルトを、不思議なものが生えたとばかりに握り締めながら、「鰐」は崩れ落ちた。

 彼の護衛に成りすまして後ろで控えていた二人の刺客も、小刀を抜いて襲い掛かってきたが、不意をつかれなければ、それほど危険は感じなかった。

 椅子を振りかざして牽制している間に、アサマの射撃で倒されていった。


 「ギャギャ(ご無事ですか?)」

 「ああ、助かったよ・・しかしそのクロスボウは良く持ち込めたな・・ジャー」

 「ギャギャ(分解してアエン殿の工具箱に忍ばせておきました)」

 「なるほど、ドワーフの不思議ボックスの中身はワシらには見分けはつかないか・・ジャジャ」


 そこへ話題のアエン殿がやって来た。

 「叫び声が聞えましたけど・・・って、うわっ、死んでるじゃないですか」

 「刺客に襲われました、ジャ。どうやら無理矢理にでもアエン殿達を魔女に引き渡して、保身に走ろうとした卑怯者がいるようです、ジャー」

 「そうですか・・相手が相手ですし、仕方ないかも知れませんね・・・」


 「アエン殿はそれで納得できますか?ジャー」

 「そりゃ、嫌ですよ。魔女に何をされるかわからないし、お酒も飲めないだろうし、折角鍛冶場も新設したのに、他所に移りたくはないですよ」

 「それならよかった・・アエン殿が望む限り、我がマスター様が護ってくださいますです、ジャジャー」

 「うへへ、飲み放題ですかね・・」

 「いや、それは・・・ジャー」


 「でも3人まとめてだと、タングステンさんも危ないのでは?」

 そうだった、ワシのところに刺客が来たということは、リュウジャの所も危険だ。


 「全員、武装をして移動だ、「龍」に合流するぞ、ジャー」

 「「了解です、ジャー」」


 アエン殿の工具箱から、続々と隠し武器が取り出された。

 伸縮式の短槍、分解された短弓、棒手裏剣などなど、これだけ見るとワシらの方が凶悪な暗殺者に見えなくも無い。

 「武器はできるだけ目立たなく装備しろ、ジャー。あくまで自衛の手段として使え、ジャジャ」

 「「努力します、ジャジャ」」


 まあ、集団で殺気を撒き散らしながら移動している時点で、言い逃れできない気もするが、まずは身の安全からだ。

 準備が整うと、警戒しながらそっと、控え室を離れた・・・


 廊下には誰もいなかったが、女給仕さえも見当たらないのは不気味だ。

 「遠くで争う音がしますね・・武器は使ってないようですが・・」

 テオが得意の聞き耳で、周囲の気配を探ってくれる。音がするのは「龍」の控え室とは反対の方角だ・・


 「まずは合流しよう。状況が不明すぎる・・ジャ」

 「ですね・・確かこっちでしたか・・『龍』さん達の控え室は・・」

 テオは、会議室からの戻る方向を覚えていて、先導してくれた。


 しばらく進むと、急に立ち止まった。

 「・・前方から争う音がします・・今度は金属音が混じってます・・」

 「・・『龍』が襲われてるなら助けよう・・」

 アサマが頷くと、気配を消しながら、足早に進んでいった。

 他の者も武器を構え直すと、できるだけ足音を忍ばせて後に続く・・



 控え室を覗き込むと、そこでは「鰐」と「龍」が戦っていた。

 床には「龍」の護衛が二人、「鰐」の刺客が一人倒れている。

 「鰐」4人に囲まれて、リュウジャとタングステン殿が燭台と金槌を振り回して応戦していた。


 リュウジャはすぐにワシらに気がついたが、「鰐」に気取られるような仕草はまったくしなかった。あいかわらず度胸は満点な漢だ。

 「鰐」の刺客4人は、ワシらの奇襲であっさり制圧された。


 「助かったぜ、恩にきる」

 「水臭いぞ、お互い様だ、ジャー」

 「それにしても準備が良いな・・予想してたのか?」

 そういって刺客の連中を見た。


 「いや、ただの保険が役にたった、ジャ。ワシらにとっては敵地も一緒だったのでな、非武装ではとてもとても、ジャジャー」

 「まあ、そうか・・しかしこいつら、他の長老にどう言い訳するきなんだ?」


 「死人に口なし・・ワシらを始末すれば、自ずとマスター様とは縁が切れる、ジャー。だとしたら魔女と取引するしか方法が残らない・・・といったところか、ジャー」

 「なるほどな、そしてそれを取りまとめた親分が、『小竜会』を背負って立つという筋書きか・・・雑だねえ・・」



 「さあて、黒幕と対決しに行きますか・・あいつ等の仇はとらねえとな」

 

 護衛の二人の遺体を見るリュウジャの瞳は、暗い炎を宿していた・・・



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