八竜は八卦に通じ八門を護るなり
「とぅっとぅるー」
『はい、こちらロザリオ。感度良好だ』
「こちら本部、敵勢力がダンジョンマスターと判明。交渉が終了するまで現状維持できそう?」
『主殿、それは本当か?この5ヶ月間で3度目の遭遇とか、頻度が高いにもほどがあるだろうに』
「いや、僕にいわれても・・・」
『いやいや、原因があるとしたら主殿に起因するとしか思えん』
「僕の特技は精霊を呼び寄せ易いだけで、ダンジョンマスターを呼ぶわけじゃないから」
『あれか・・ダンジョンマスターも実は、上位精霊に分類されるとか・・』
「そんなわけないだろ・・・ないよね?」
「こくこく」
よかった、コアのお墨付きがでたよ・・・
「とにかく24時間で状況が決定すると思うから、脱出艇の監視だけお願いするね。戦闘を向こうから仕掛けてくることはないはずだから」
『食料は、ミコト達の分だけ現地調達すればいいから大丈夫だが・・・そちらに戻らなくて平気か?』
「ダンジョンバトルになったら、仮想召喚すると思うから、どこにいても一緒だよ」
『そうだったな・・では24時間の監視体制に移る・・通信終わり』
「変化があったら連絡するね・・通信終了」
次はハクジャだ。
「とぅっとぅるー」
『・・・マスター様、できれば他の者に・・』
あっと、ハクジャは忙しそうだね・・・手があいてそうなのは・・テオかな。
「とぅっとぅるーるーるー」
『はいはい、テオです』
「今、どんな感じ?」
『会議の出席者が全員揃ったので、大広間で円卓を囲んで睨み合いしてますね』
「こっちからはハクジャとアエンが座ってるの?」
『はい、そうです。あと護衛としてアサマさんがハクジャさんの後ろに立ってます・・』
あえて、異種族の護衛を立てたのか・・ハクジャも押せ押せだね。
「ざっとでいいから、今までの状況を話してくれるかな」
『了解です・・・ここに着いたのは・・・』
時は少し遡る・・・
ハクジャ一行がたどり着いたのは、三日月湖から東南東に2日ほどの場所にある、大きな湖の畔であった。その中央には小高い島が1つ浮かんでいて、その上に木造の館が建っていた。
「あれが、『小竜会』の会合のある、八竜館です、ジャー」
ハクジャが指し示した館は、確かに八角形をしていた。
「リザードマンが木造建築で、あそこまで凝ったものを建てられるとは知りませんでした」
アエンが、かなり驚いたように呟いた。
「なに、もう遙か昔の技術で、すでに失伝しておるのジャ。補修を繰り返して維持するのが精一杯らしい、ジャー」
「鉄筋で立て直して良いなら、引き受けますよ、人足さえ貸していただければ・・」
「実際に崩壊したら頼むやもしれんが、それまでは伝統継承派がうんとは言わぬじゃろう・・ジャー」
「確かに、それも大事なことですね」
そう答えはしたが、アエンにとって態々耐久性の低い木造で、重要な建築物を建てる意味は理解できなかった。
そんな話をしていると、一行の元に、島から一艘の渡し舟が近づいてきた。
それには2人のフロストリザードマンが、揃いの鎧を着て操船していて、船の上から誰何してきた。
「どちらさんで?ジャジャ」
「『下弦の弓月』族長のハクジャと申す。『小竜会』からの呼び出しを受けて参上した。案内を頼む、ジャー」
「おお、聞いておりやす、ジャー。して、他の方々は随行者でよろしいですかい?ジャジャ」
リザードマン5人は問題ないが、残りのドワーフ娘とスノーゴブリンとエルフを訝しげに見ている。
「この二人はワシの護衛ジャ。こちらは同じく招待されたドワーフのアエン殿だ、粗相のないようにな、ジャー」
「こいつは不調法を・・お乗りくだせえ、島までお送りしやす、ジャー」
全員が乗り込むと、渡し舟はゆっくりと方向転換して、湖の中央へと向かっていった。
やがて島の桟橋につくと、迎えのリザードマンの女給仕が並んでいるのが見えた。
「あとは、あの者達が案内しやす、ジャー」
「ああ、ご苦労だったね、ジャジャ」
ハクジャはそういって、渡し守の頭に、そっと荒巻紅鮭を手渡した・・
「・・おっとこいつは受け取れませんぜ・・・」
「なに、これから贔屓にさせてもらうかも知れないんだ・・ただの挨拶がわりさ、ジャー」
「そうですかい・・それじゃあ遠慮なく・・」
渡し守は、満更でもない顔をして、贈り物を鎧の内側に隠しながら、囁いた。
「・・鮫の旦那以外は、皆さんお揃いですぜ・・山の民は2名いらっしゃいましたかね、ジャジャ・・」
ハクジャは黙って頷くと、他の仲間に合図して館に向かって歩き出した。
八竜館では、まず控え室のような部屋に通された。
ここが、滞在中のハクジャ一行の居間になるそうだ。
「ハクジャ様とアエン様は奥に個室がご用意してございます、シャ。ただし他の方々は皆さんで大部屋1つを使っていただきます、シャ」
女給仕は、そう言うと、人数分のお茶を用意してから、立ち去った。用があるときは、卓上の鈴を鳴らしてくれれば、給仕の誰かが顔をだすらしい。
周囲に自分達しか居なくなったのを確かめてから、アサマが発言した。
「ギャギャ(ここは安全なのか?)」
「一応、部族会議の為の中立地帯に指定されてはいる、ジャー」
「ギャギャ(過去に血が流れたことは?)」
「ワシの知っているだけで、3度ほど・・ジャジャ」
「ギャギャ(まったく安心できない情報だな・・)」
「もともと武闘派のリザードマンの間で起きた紛争の手打ちをするために作られた組織だ、ジャ。立場と面目を失った親分衆が、隠し持った槍を振り回す可能性は十分にある、ジャー」
「野蛮ですね、エルフの長老会議はもっと洗練されていると聞きましたが、テオさん、どうなんですか?」
アエンが、「小竜会」をばっさり切って、テオにエルフの話を振ってきた。
「ああっと、エルフの長老会議は、延々と議論を続けて、疲労で脱落した家の意見から順に却下していきますね」
「なんです、その我慢比べみたいな会議は」
「あと、お腹が減ったり喉が乾いたりして、飲食すると、毒殺される危険があります・・」
「「嫌過ぎる・・・」」
そこへ女給仕が先触れに現れた。
「『不凍湖の竜』の族長様が、お見えですが、いかがいたしますか?シャ」
「おおそうか・・・うむ、通してくれ、ジャー」
そう言いながら、ハクジャは仲間に目配せをした。「小竜会」の所属する勢力で、唯一、味方になってくれそうな昔馴染みの話は、道中で説明してあった。
その彼が向こうから尋ねてくるという。
しばらく待つと、3人の人物が部屋に案内されて入って来た・・
一人は族長であるリュウジャ、さらにその背後に控えるのは護衛の戦士であろう。そして最後に入ってきたのは、厳つい顔つきをした老齢のドワーフだった。
「タングステンさん!」
「おお、アエン、無事だったか、わっはっは」
感動の再会を、豪快に笑い飛ばしたのは、元「鍛冶場の番人」クランの特級鍛冶師だった・・




