仁義なき
「凍った槍」の部族から反撃の大部隊が出発したことなど露知らず、僕らはダンジョンの掘削に勤しんでいた。
「キュキュ」 親方が足元でなにかいいたそうだ。 「ん」
どうやら仕事を回してくれといってるらしい。前回の防衛戦で、ただ見ているだけなのが悔しかったそうだ。
「そうは言っても、今はまだ荒削りしてる最中だから、親方の出番はないしねー」
「キュキュキュー」
「わかったわかったよ、そうだ以前に考案した湖までの安全なルートの確保をお願いしようかな」
「キュ!」 「ん!」
まだ「設置」が開放されてなくて、どうにかして外の湖から安全に水を汲んでこれないか考えたんだ。
「じゃあ、親方達3体で、小部屋の通路の出口から扇型に3本のモグラ穴を90mほど掘って。モグラ塚は15mに一つ作ってね」
「キュキュ」 「ん」
親方達は張り切って穴を掘りに向かった。モグラ穴を掘ったからといって地上がダンジョンエリアになるわけじゃない。でも穴の中は小さいながらもコアの支配地域だ。そこから地上を覗えるモグラ塚は、やっぱり小さいながらも出口ではあるはず。ならそれぞれのモグラ塚から半径10m以内なら、コアが眷属達をコントロールできることになる。
この扇状のコントロールエリア内に、群体を散開させておき、バッタより大きいものが近づいてきたらモグラ塚に逃げ込むように命令をだしておく。地上にいる群体が何を見たかはわからなくても、モグラ穴に逃げ込んできたらコアとリンクが繋がるから状況が把握できるはずなんだ。
当初はこうやって真っ直ぐに湖まで索敵ゾーンを延ばして、安全なときに水を汲みにいく作戦だったんだけどね。水場が設置できたから、後回しにしてました。
「というわけでコア、群体を1つ召喚して、索敵ゾーンに均等に配布しておいて。1割は親方達への報酬にしてあげて」 「ん」
そういえばケンとチョビの怪我は治ったのかな?
「コア、ケンとチョビは全快した?」 「んん」
まだか。ダンジョンの中は回復が早いとか、魔素を取り込んで瞬時に治るとかじゃないんだね。
前回の防衛戦でもアグーとウィングが怪我してたし、どうにかできるなら対処しとかないと。
「コア、眷属のHPを回復する設置物のリストをお願い」 「ん」
お、打てば響くような反応の速さ、さては先に準備しといたね。
「さすがコアだね」 「ん♪」
設置物:癒しシリーズ
癒しの泉:飲むとHPが5回復する、ただし1日に一度しか効果がない。 1000 DP
癒しのハーブ畑:ここで3時間寝るとHPが5回復する。たまに薬草が採集できる。 750 DP
癒しのリンゴの木:一年中熟れた実が6個生る。食べるとHPが5回復する。
もいだ実は1日たつとまた生える。 500 DP
癒しの毒リンゴの木:一見すると癒しのリンゴの木に見える。ただし6個の実のうち、
5割はHP5回復で、5割は毒である。 300 DP
・・・最後のは癒しじゃないんじゃあ・・・ああ、でもケン達なら確実に毒入りは食べないか。判別方法があるなら癒しのリンゴとして使えるね。コスト安いし。
しかし安いといっても今の僕らにはちょっと届かないね。
「残念だけど先送りだね。DP溜まったら優先で設置しよう」 「ん」
小部屋と縦貫トンネルの整備はだいたい終わったね。小部屋の4隅の安全地帯だけ泥場を残して、より罠を踏みやすいようにしてみた。誰でも無意識の内に泥に踏み入りたいとは思わないからね。両脇の木の扉は
完全にフェイクドアだ。開けても壁があるだけ。
真ん中の扉を開けると、新しく広くなった縦貫トンネルがある。横幅1・5m、高さ1・5mは、普通のダンジョンの廊下と比べると半分のサイズだけど、手掘りだとこれが限界です。大型種が突っ込んでこれないから、今の防衛力なら逆にこのサイズがちょうど良いとも言えるね。
小部屋から10mほど奥にトンネルを進むと十字路になってる。左右はすぐに横長の待機部屋になっていて、十字路から見るだけでは部屋の隅に隠れた奇襲部隊は見えないようにできている。予備の武器もトンネルからでは見えない場所に配置済みだ。
コアルームも少し改装してみた。トンネルとの境に木の扉を設置、さらに入って左側を木の柵で区切って、反時計周りに移動するように誘導通路っぽく改造した。あと正面通路は木の柵と扉で封鎖しておこう。
こっちは罠も少ないし、侵入されるとすぐコアルームだから危ないしね。脱出用の出口は巣穴の奥に3箇所
あるから大丈夫でしょう。
「コア、設置よろしくね」 「ん」 「う?」
「え?どうかした?」
見るとコアルームの柵はできあがっていたけど、通路を封鎖する扉ができていない。
「・・・・あ!」
ダンジョン内を索敵したらしいコアが何かを発見した。
「ダンジョン内に侵入者?でも見た感じ何もきてないようだけど・・・あ、モグラ穴か!」 「ん」
バッタを追いかけてモグラ塚を踏み潰すと、それもダンジョンへの侵入扱いになるみたいだ。警報の代わりにはなったけど、設置をインターセプトされるのは問題だね。
「それより何がきたんだろう?鹿かなにか?」 「んん・・・あ!!」
群体とリンクをとったコアから情報が送られてくる。
「ワタリがいっぱい?」
「おいらここにいるっすよ」
群体の認識力だとスノーゴブリンは全部ワタリに見えるのか。
「数は?」 「ん」
「番の番が番って2進数かよ!」
バッタにとっては単体か番かしか認識しないらしい。それでも8体はいることがわかっただけでもありがたい。
「紅い角つきがいるって、なんか偉いのがきてるの?」
「ああ、それ族長っすね。敵の血で塗り固めた長槍が目印で、「串刺しギャラドォ」とか呼ばれてるっす」
「串刺しブラド?」
「ギャラドォ」
「ギャランドゥ?」
「余裕あるっすね、族長でてきたとすると、全軍出撃っすよ、きっと」
ワタリとボケツッコミしてるうちに、少し落ち着けた。
まさか「凍った槍」が部族の残存戦力を結集して報復にくるとは予想してなかったよ。スノーゴブリンって思ったより武闘派なんだね。新顔に良いようにされて黙ってたら漢が廃るとか言い出しそうだ。族長の面子に対する重きを読み違えたかー。
とにかく来ちゃったものはしかたないね。族長を倒せば、この闘争も終わるはず。
「タマとったるぞー」 「ん?」
DPの推移
現在値:224 DP
召喚:群体1 -5
設置扉:丈夫な木の扉 -5
設置柵:丈夫な木の柵 -5
設置扉と柵:キャンセル
残り 209 DP




