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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第9章 氷炎の魔女編
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涙の数だけ水割りをください

 「改めてご挨拶申し上げます。私はポッキー山脈に居を構えるドワーフクラン『鍛冶場の番人』に所属していた、1級鍛冶師の『アエン』と申します。この度は危難を救っていただいて大変感謝しております」


 水面で立ち話もなんなんで、謎のドワーフ娘さんにはゲスト認定して、フィッシュボーンの一室に上陸してもらった。

 樽は一人用の脱出艇だったらしく、他には同乗者はいなかった。


 多人数で圧迫面接も良くないので、僕とコア以外には、ベニジャとハクジャだけが同席することになった。

 ベニジャが簡易テーブルに各自の飲み物を並べ終わると、すぐに自己紹介を始めた・・


 「初めまして、僕がこのダンジョンのマスターです」

 「こあこあ」

 「ハクジャと申しまして、以前はここで『下弦の弓月』を率いておりました、ジャー」

 「その孫のベニジャだぜ、ジャジャ」


 ハクジャに昔のクランの名前を出してもらったのは、このドワーフ娘が、避難先として「下弦の弓月」を選んでいた可能性を考慮した。出てみたらダンジョンに乗っ取られていてビックリという不安を少しでも和らげようとした結果である。

 しかしその配慮はほとんど意味がなかった。


 なぜなら彼女は、ここがもっと昔の領域支配者の支配下にあると思っていたからだ・・・


 ドワーフの引きこもり度は半端なかった・・・



 「400年ほど前に更新されたデータによりますと、この付近の地底湖は、全てある一人の方が支配されていたことになっています・・」

 「この周辺を一人でっていうのも驚くけど、400年に一度しかデータを更新しないのもどうかと思うんだけど・・」

 「緊急脱出艇を実際に使用する事態になるとは、誰も考えもしていませんでしたので・・」

 まあ、まさかの備えは、往々にしていざって時には役に立たないよね。


 「それで、脱出できたのは、貴女一人なんですか?」

 「いえ、他に5機の起動が確認されています。ただ、途中で敵に捕獲された脱出艇もあると思われるので、実際に何人、逃げ延びたかは・・・」

 「なるほど・・・もし脱出に成功していたら、他の方もあの地底湖に?」

 「それが、400年の間に地下水路も形状を変えていて、途中からマニュアル運転に変えたので、近くには居るとは思うのですが・・・」


 そりゃ、400年も経てばね。しかも実際そこで生活している勢力がいるわけだから、埋めたり掘ったり繋げたりするでしょう・・

 「1つ気になることがあるんですが・・」

 「はい、なんでしょうか?」

 僕はアエンさんの目を見ながら、聞きにくい事を尋ねてみた。


 「先ほど、クラン『鍛冶場の番人』に所属して『いた』とおっしゃいまいしたが・・・」

 「・・はい、既にクランは消滅しております・・」

 「・・原因を聞いても良いですか?」


 アエンさんは、少し迷いをみせて、落ち着くためか、目の前の緑茶を飲んだ。


 ・・・ん?緑茶?


 「ぶうううう、まっずうううう」


 「あ、青汁は苦手だったみたいだぜ、ジャジャー」

 「ふむ、これは慣れると癖になるのだがな、ジャー」

 ベニジャとハクジャは平気な顔をして自分の分を飲み干していた。

 「あ、大頭、いらないならアタイがもらうぜ、ジャジャ」

 「ワシなぞ、これを飲みだしてから見違えるように・・・ジャー」


 「なんですか、これ、すっごい口の中が、めっさ、苦い!」

 本当に辛そうなので、お詫びにエールを変換してあげた。ドワーフなら水よりこっちの方がいいでしょ。

 テーブルの上にエールの入った瓶とゴブレットを出してあげたけど、アエンさんは豪快に瓶から一気飲みした。

 「あれ、10ℓ入りだよね・・」

 「マスター様、ドワーフに酒の常識は通用しませんです、ジャー」


 あっという間に飲み干すと、景気良く殻の瓶をテーブルの上に打ち付けて、アエンさんが叫んだ。


 「う~~ん、美味しい!もう一杯!!」

 満面の笑顔のアエンさんは、どう見ても1杯で終わらす気はなさそうだった・・・


 それから数分後・・・


 「そこへまさかのフレイム・サラマンダーの襲撃ですよ!対冷気装備で方陣を組んでいたエリート・ファランクス部隊が、あっと間に崩壊して・・・」

 「あの脱出艇は、古代魔法帝国の遺産で、現在は生産不可能なんです。え?外装ですか?酒樽の擬装は後付けです。先々代のスミスマスターが、『溺れるなら酒樽の中がいいよな』って言って、あの形に・・でも地下倉庫に並べてあっても違和感なかったから、敵の目を欺くことができたんですよ!先々代は間違ってなんかいません!」


 まさかの絡み酒からのマシンガントークだった。

 「ドワーフなのに酒に弱すぎる・・・」

 「いえ、マスター様、それなりには飲んでいるかと、ジャジャ」

 テーブルの上には、空になったエールと蜂蜜酒の瓶が、無数に転がっていた。


 「新手のダンジョン攻略法かも知れないね・・・」

 「ぴーんち!」


 DPに負担がかかるようなら変換しなければ済む話なのだが、酔っ払いの理不尽な要求を跳ね除けるには、かなりの精神力を必要とするのだ。

 しかも続々ともたらされる情報は、それなりに重用だし役立つので、止めるタイミングが難しかった。


 ざっと得られた情報を整理すると・・


 ・クランを襲撃したのは「氷炎の魔女」とよばれる伝説の精霊魔法使いだったらしい。

 ・奇襲によってクランリーダーが倒されて、居住地の支配権が塗り替えられた。

 ・「鍛冶場の番人」はその名の通りに、古代魔法帝国の時代から続く、魔法の炉を護ってきた。

 ・その為に、居住地のあちこちに、今は失われた技術を使用したマジックアイテムが存在した。

 ・アエンは、その古代魔法帝国の遺産の研究と補修を主に担当していた。

 ・研究に没頭していたせいで、恋人も作る暇がなかった・・・


 最後はいらないね・・・


 「マスター、お替り~~」



 


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