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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第1章 サバイバル編
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検察側の

 ダンジョンがある森の中の丘から、北東に5kmほど離れた小高い岩山の麓に、スノーゴブリンの居住地がある。そこに住む部族の名は「凍った槍」と名乗り、全盛期には戦士級30名、非戦闘員30名を擁する中堅クラスの部族であった。


 スノーゴブリンは、寒冷地に対応して身体も大きく、頑強で寒さに強くなったゴブリン種である。

 原種より生き延びやすくなった為に、繁殖率も低めになり、また劣悪な環境で餌の量も少ない為に、個体数は多くない。なので総勢60名の部族はスノーゴブリンの中では一目置かれており、この周辺地域では肩で風切る武闘派集団だったのである。


 族長は「串刺しギャラドォ」という異名を持ち、通常の槍より二周りも大きい朱塗りの長槍を振り回す剛の者だ。また彼には「霜柱のジャーク」と呼ばれる祈祷師が知恵袋としてついている。ジャークが策を練り、ギャラドォが敵を串刺しにすることで、部族の支配領域を広げてきたのだ。だが、今、それが何者かの手によって覆されようとしていた。


 「ジャーク!ジャークはおらんのか!誰かジャークをここへ連れて来い!」


 不機嫌さを隠そうともせずに怒鳴る族長の声に、周りの女ゴブリン達は怯えるばかりで、誰も動こうとはしない。だがせまい居住地で大声をだせば、どこにいようとも聞こえるわけで、ほどなく白髪で年老いたスノーゴブリンが姿を現した。

 短髪の白髪を「歳を経てなお大地を持ち上げる霜柱のよう」と評された部族一の賢者であった。

 

 「族長、いかがなされたな」

 「いかがも何も、奴らはなぜ戻ってこない!」


 すでに先の行方不明になった狩猟隊の捜索の為に、新たに1部隊を送り出してから1日が経とうとしていた。

 一日ぐらい、と思うかも知れないが、スノーゴブリンの足で半日も歩けば15kmは踏破してしまう。この居住地から10kmが支配領域の限界で、奴らがそれを踏み越えていくとは考えにくい。捜索が難航しているとしても、一度は戻ってきていなければおかしいほどの時間が過ぎているのだ。


 「なぜと問われれば、戻れない状況に陥ったのでは?としかお答えできませんな」

 「だからそれはどういった状況なのだ!」

 「さて、ワシも千里眼は使えませんので、手強い敵に襲われたのか、フローズン・ドライアドにでも誘惑されたのか・・・」


 族長の剣幕にも恐れずに、飄々と祈祷師は答える。それを聞いてさらに苛立ちを募らせる族長。

 「ええい、戯言はいい!とにかくとっとと対抗策を考えろ。このままでは他の部族につけ込まれるぞ」

 「それではこの先どうすればいいかを占ってみましょうかな」

 そう言って、祈祷師は自分のねぐらに篭ってしまう。あとには周りの部下達に当り散らす族長だけが残された。

 

 立ち並ぶ岩を柱に利用して建てた天幕の一つが祈祷師の個人のねぐらだ。1人で占有しているのは族長と祈祷師だけで、他の者は5・6人で一つの天幕に住んでいる。


 焚き火の中に狼と猪の骨をくべて、その骨に入るヒビの具合で吉凶を占う獣骨占いをしながら、祈祷師は別なことに思考をめぐらせていた。


 「さてさて、捜索隊も帰還しないとなると、一大事じゃのう。先の狩猟隊と含めて13人の男衆がやられてしもうたらしい。しかも誰一人逃げ切れずに・・・そんなことが起こりうるのか・・・」


 狼の大腿骨が火の中ではぜた。


 「灰色狼の巨大な群でも流れてきたか。だがそんな前兆はこの周辺にはなかった。しかも狩人達がそれぞれついていたのじゃから、誰かを囮にしてでも全滅は避けたであろう・・・」


 猪の肋骨が火の中ではぜた。


 「他の部族、またはアイス・オークの連中が、うちを狙い打ちににして勢力を削りにきている・・ありえなくはないが、ここまで見事に痕跡を残さずできるものか?・・・」


 焚き火はいつしか消えていた。


 「そうなると手引きした者がいることになる。疑わしいのは素性の知れなかった、あの新参者か。あやつが最初の狩猟隊を待ち伏せ場所に誘導し、次の捜索隊も口車に乗せて油断を誘ったに違いないわい」


 祈祷師は、的外れだがある意味ニアピンの推測を、占いの結果として族長に進言した。

 「なるほど、奴が裏切ったか。流れ者に情けをかけたのが徒に成るとはな。このまま引き下がっては我が部族の名折れ、舐められたらこの家業はお仕舞いよ」

 「では出陣で?」

 「決まってるだろうが。裏切り者とそれを送り込んだ奴らは全員、この朱槍の新たな血糊にしてやるぜ」


 族長の号令で戦士達は戦の仕度にとりかかる。

 「ジャークは残って周囲の部族に睨みをきかせておけ。いちおう戦士2人と狩人1人は残してやる。女共の面倒も頼むぜ」

 「承知しました。ではワシの代わりに使い魔のホワイトリザードをお連れください。お役に立つはずです」

 「おう、やつは鼻も効くし、裏切り者を追うにはありがてえ。借りてくぜ」

 「ご武運を」

 「野郎ども、出立だ!」 「「「 へいっ! 」」」

 復讐に燃える族長に率いられた「凍った槍」の強襲部隊は、狩猟隊の痕跡を辿って進軍していった。


 その頃ダンジョンでは

 「誰かに冤罪をかけられた気がするっす!」

 「いや状況証拠は十分だよね」

 「無罪を主張するっす」

 「事後従犯だし、執行猶予もつかないと思うよ」

 「裁判長!意義ありっす!」

 「んん」

 「却下だって」

 「とほほ」

 

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