幻のモフモフ仮面
ビスコ村、ジャスティス教会、邪神教徒討伐本部にて。
重い荷物を背負った、6人の騎士が、本部に戻ってきた。出迎えた司祭も、その陣容の損害の多さに驚きの声をあげた。
「まさか、他の方々は戦死されたのですか?」
沈痛な面持ちで、隊長が答えた。
「制圧部隊、24名中、帰還6名です・・・」
「なんと・・・それで目的は果たされたのですか?」
「邪神教徒16名の死亡を確認、先の1名と王都の2名を合わせて、19名全てを排除しました・・」
「そうですか、亡くなった騎士の方々も、それを聞けば安心して女神に召されることでしょう・・」
「かの者達の穢れを祓い、女神の御許へ送る儀式をお願いいたします・・」
「もちろんですとも、さあ、ご遺体はこちらでお預かりしたします。皆様は奥でお休みくだされ」
その指示で、後方の騎士5人が、2体ずつの僚友の遺体を背中から降ろした。
疲労困憊した騎士達は、鎧も脱がずにその場でへたり込んでしまった。
「見習い侍祭に、飲み水と、手洗い用の桶に水をはって持って来させなさい。綺麗な布も多めに、いいですね!」
「はい!」
「それと、護衛兵は、ご遺体を安置室へ。決して疎かに扱ってはなりませぬよ!」
「はっ!」
てきぱきと仕事を進める司祭に、騎士隊長が尋ねた。
「他の隊長はそろっているかな?」
「はい、皆様、奥の会議室で報告をお待ちです。ですが、そのお身体では・・」
「いや、何よりも優先すべきことだ、まず結果を伝えておかなければ・・」
「では、介助の者をつけます。誰か、司祭補以上で手の空いているものはおりますか?」
呼ばれて、若い女性の司祭補が現れた。
「お呼びでしょうか?司祭様」
「この方を介助して会議室へお連れしなさい。必要なら回復呪文を掛けながらで構いませんので」
「承知いたしました。騎士様、こちらへどうぞ・・」
女性に肩を借りることに居心地の悪さを覚えながらも、ふらつく足取りで、騎士隊長は奥へと向かった。
本部の会議室では、同格の騎士隊長2人が、結果の報告を待っていた。
「手ひどくやられたようだな」
「それで首尾はいかがかな?」
席に着くなり矢継ぎ早に質問された。
「邪神教徒は殲滅した。こちらの被害は、死亡16、負傷8だ・・」
それを聞いて2人は黙祷を捧げた。
しばらくして目を開けると、帰還した隊長に声をかける。
「生還率が4割を切ったか・・それほど手強かったのか・・」
「奴らを殲滅した証拠は?」
「女神にお伺いをたてた。この北の地に逃げ込んだ、『バエルの後翅』を名乗る邪神教徒集団は、一人残らず、死亡した・・・間違いない」
「ふむ、では例の奴らの聖地とやらには調査に入ったのか?」
「その件だが、協力者の情報提供により、現在はダンジョン化しているのが確認されている」
「なに?ダンジョンだと!奴らに取り込まれているのか?」
「だとしたら、欠片も残さず浄化するしかありませんね・・」
「その必要は無い。かのダンジョンは、侵入しようとした邪神教徒と戦闘になり、これを撃破していた。邪神とは相反する者たちだ」
「偽装かもしれんぞ。密かに生存者をかくまっているかもしれん」
「それもない。なぜならあのダンジョンには御使いが居られたからだ」
「まさか、女神の御使いがあのような場所に降臨されるはずが・・・」
「かの者、白銀の鎧を身に纏いて、白き獣をあやつるべし・・・伝承にある通りのお姿だった・・」
どこか遠くを見つめる隊長に、他の二人は顔を見合わせてから肩を竦めた。
「あの地は祝福されている・・・」
ビスコ村の鍛冶屋
「兄さんただ今!」x5
スミス家の鍛冶場に六つ子の5人の声が綺麗にハモッた。
声を掛けられた長男は、作業の手を休めずに、声だけで挨拶をする。
「おかえり、その元気さだと、何かいいことあったようだな」
「ああ、治療の目途がたったよ」
「枝豆沢山もらってきたよ」
「モフモフいっぱいいたよ」
「釈放されたよ」
「そして没収された」
「皆が無事ならなんでもいいさ」
「だね!」x5
「で、ここから2日、いや担架運びながらだと3日ぐらいの場所に連れて行かないと治療できないんだ。丈夫で安定した担架が欲しいんだけど、兄さんつくれる?」
「長時間揺られているとなると、輿に寝かせて運ぶしかないか・・」
出来上がりを想像しながら、長男は工程を考えた・・・
「ああ、4時間もあれば出来そうだ」
「よかった、急ぎの仕事がなければお願いしたいんだけど・・・」
「他ならぬ家族の為だ、任せておけ」
「兄さん、ありがとう!お土産に枝豆あるから休憩時に食べてね」
「冷えたエールと一緒に食べれば、堪んないよ」
「プチプチっと出して、ハムハムっと食べて、ゴクゴクっと・・・くぁ~~、早く晩御飯にしようよ」
「明日の早朝に出発だからな、飲みすぎるなよ!」
「大丈夫!と言い切れない自分がここにいる・・」
5人はがやがやと自分達の部屋に戻っていった。
それを見送りながら、長男は考えていた。
「3日も離れた場所に医者なんか居たっけかな?」
ビスコ村、酒場「酔いどれモズクガニ」
「親爺さん、戻ったぜ」
ギルドへの方向を終えて、ビビアン達は食事をしに、いつもの酒場に入っていた。
「おう、4人揃って戻ってこれたかよ」
「当たり前だろ、俺達を誰だと思ってるんだよ」
「ダンジョンに鴨られた、うっかり4人組だろ?」
「それは言いっこなしだぜ・・・」
4人は、飯や酒にがっつきながら、酒場のマスターに冒険の様子を話して行く。
「そういや、この店も3日ほど閉めてたんだってな?」
村に戻って聞いた噂をスタッチは話題にした。
「ああ、例の邪神教徒が、村の中でも悪さしててな。留守番の聖堂騎士団の連中が集団食中毒起こしたり、金物研ぎ屋のジャックが、簀巻きにされて商売物奪われたりしたんだ。それで大事をとってうちも3日ばかり暖簾を下ろしたよ」
「聞いたさね、教会の料理人が最初から奴らの仲間だったって・・・酷い話だね」
「ふん、聖堂騎士団を名乗るなら、下働きの身元の確認ぐらいちゃんとしておきなさいよ」
「お嬢ちゃんの言うことももっともなんだが、何か腹のたつことでもあったのか?」
「親爺さん!それを言ったら駄目だ・・」
「ちょっと聞いてよ、あいつら人を馬鹿にして、うんぬんかんぬん・・・」
「あああ、また始まったよ、ギルドでも受付嬢に怒られるまで語っていたからなー」
「ここでも長そうさね」
「酒もはいっているしな・・」
ハスキーはふと、ビビアンの鬱憤話をあしらっている酒場のマスターの足元に目をやった。いつものサンダルではなく、ごついブーツを履いていて、それは長い距離を走破したように、乾いた土で汚れていた。
『休みの間に珍しい食材でも狩りにいったのか?』
そこへトイレに行っていたソニアが戻ってきて、ハスキーにそっと囁いた。
「・・・はの字、トイレに奇妙な草を編んだ狐のお面が飾ってあったんだけど、どう思う?・・」
「・・・受付嬢が言ってたよな・・手配が無駄になって良かったって・・・」
「・・・3日であそこまで往復したっていうのかい?そんな無茶さね・・・」
そして二人は気がついた。今日の酒のつまみは、緑の鞘の豆の塩茹でだったことを・・・




