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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第8章 暗黒邪神教団編
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戦い終わって日が暮れて

 右手に握っていたランスが、勤めを果したとばかりに重さを失い、絡まった茨が解けて中の銛が姿を現した。

 茨も銛も、さらさらと砂が崩れるように塵となって、風に舞って消えていく。

 ロザリオが丘を振り返ると、畑の跡地に二人の人影が並んで立っていた。彼と彼女は1つ頷くと、煙となって空に昇っていってしまう・・・

 ロザリオは、最敬礼をしながら、それを見送った・・・



 そんな白銀の守護者を遠くから見つめる騎士がいた。

 聖堂騎士団、邪神教徒討伐部隊隊長である。

 この最後の戦いに間に合った、10名の聖堂騎士団員のうち、生き残ったのは彼一人であった。

 彼は一命を賭して邪神のしもべに挑んだが、それも叶わず、失意のうちに倒れるはずの所を、突然現れた白銀の守護者に救われたのであった。


 「美しい・・・」


 側で誰かが聞いていたら、耳を疑うような呟きが彼の口から漏れた。


 「まるで、女神に使わされた戦乙女のようだ・・・」


 彼には、純白の聖獣を駆る白銀の鎧を着た乙女騎士に見えているようだった。

 たぶん血を流しすぎて、目が霞んでいたものと思われる。

 しかしこれが理由で、この後の聖堂騎士団本部への報告が、それなりにダンジョンにとって有利になったのは間違いなかった。


 後にこの顛末を聞いた某スノーゴブリンは語っている・・・

 「眼鏡かけた方が良いっすよ」




 防衛戦に飛び入り参加してくれた、冒険者の3人に、何か贈ろうとしたら断られた。

 「我々、モフモフ助け隊は、押しかけ助っ人なのだから、報酬は辞退させてもらおう」

 「ただ、メンバーに特殊な治療を必要とする者がいるので、できたらユニコーンの治癒を試してもらいたい・・」

 「ダメだったら、魔女の治療術に詳しい人を紹介して」

 

 どうやら複雑な事情のある病人が居るらしい。なので1週間後に病人をここまで連れて来たら試してみるということで、話をまとめた。

 魔女の治療術については、ハーフナーガのヘラが心当たりがあるそうだ。


 「心当たりって、あの『オババ』じゃないよね?」

 「ちがいましゅ、ナーガのしゃとにいるしょ母でしゅ」

 ヘラのお祖母さんは、里の薬師の長らしい。彼女の薬草学は主にそのお祖母さんに習ったものだという。そのついでに、ウィッチクラフトの初歩も教えてもらっていたそうだ。ナイトシェイドの採集方法や、魔女の呪いについての知識はそこから来ていたらしい。

 ヘラ自身は、ナーガの里にわだかまりがあるらしいが、祖母あてに紹介状を書くのは問題ないという。


 狼チームや穴熊チームをモフリ倒した後に、お土産の塩茹での枝豆を持たされて、3人は上機嫌でダンジョンを後にした・・・




 シーカーとしての役目を終えて、冒険者4人組も後始末を始めていた。


 「さて、仕事も終わったし、俺らも帰るとしますか」

 「結局、活躍したのはビビアンぐらいだったさね」

 「依頼は二つとも果したしな。一つは前払い報酬だったが、もう1つを報告しにギルドへ戻ろうか」

 「フフフ、これ凄い性能よ。購入し立てで失くした、あのワンドに勝るとも劣らないわ・・」


 報酬?としてハリモグラから受け取ったワンドを、頬ずりするように愛でる魔法少女がそこにいた。

 「勝るとも劣らない・・か」

 「言いえて妙さね」

 「・・出発の準備をしておくか・・」


 薄々感づいている3人は、ビビアンから視線を逸らしているが、それに彼女は気がついていなかった。

 しかし・・・


 「あら?このバンテージ、後から巻き直したものね。先端が解け掛かってる・・」

 気になって、結び目を解いてバンテージを解いてみると・・・


 「ねえ、このグリップと先端の赤い宝石、どこかで見たことあるんだけど」

 「さてと、相棒、魔力が残ってたら、また馬を呼び出してくんねえかな・・」


 「ねえ、ねえ、あたしが魔法道具店でワンドを買ったときに、ソニアは見てたわよね」

 「アタシには、術者の魔道具はさっぱりさね・・」


 「ねえ、ねえ、ねえ、これって詐欺って言うんじゃない?ねえ」

 「失くした物が戻ってきた・・それで良いだろう?」


 「・・・ちょっと待ってて、燃やしてくる」

 「「「 何を!? 」」」


 丘に向かってファイアーボールを撃とうとするビビアンを、他の3人が懸命に止めた。

 「離してよ、人を馬鹿にして!何が依頼の報酬よ!」

 「ビビアン、待て。向こうは報酬だとは一言もいっていない!」

 「あの状況なら誰だってそう思うでしょ!」

 「それに、そのワンドも似ているだけで、別物かも知れないだろ」

 「あたしのよ、だってグリップに、買ったときに書いた名前が残ってるもの」

 「ビビアンあんた、そんな新米冒険者みたいなこと、まだやってるさね・・」

 「どれ、見せてみろ」

 全員でワンドのグリップを覗き込んだ。

 そこには・・・


 『とれビビアン』  とインクで書き込まれていた。

 

 「プッ」

 「ククッ」 

 「アハハ」

 「何よ、これーー!」

 「「「 ウワッハッハッ 」」」


 冒険者達の笑い声が、いつまでも戦場に響き渡った・・・


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