漆黒の剣・白銀の槍
決着つけるまで書いていたら、こんな時間になってしまいました。
申し訳ございません。
「コア、上層部を放棄。防衛圏を地下階段中層の癒しの泉に設定」
「あいあい」
「巣穴は入口を土砂で埋めて隔離。あとで掘り返すから」
「キュキュ」 「ギュギュ」
「各員は至急、地下中層まで撤退。なお個人の備品の持ち出しは背負袋に入るだけとする」
「無理っす、橇1台分はあるっすよ」
「ギャギャ(ワタリさんのは半分以上ゴミです)」
「おいらのコレクションが、捨てられていくっす・・」
あれ?コアが居なくなってる・・
急いで転送魔法陣に乗ると、コアルームで一生懸命に本棚を背負袋に詰めようとしているコアが居た。
「コア、それ無理だから。家具は諦めて」
「やだ、はこぶ」
「ここは天井の丘の部分がかなり分厚いから、入口を塞いどけば大丈夫だって・・」
「ほんと?」
「・・たぶん・・」
「・・・うんしょ、こらしょ」
「ごめん、ごめん、もし壊されたら新しくカタログから選んでいいから」
「・・・ゆびきり」
指ちっちゃ!
なんとかコアを説得して転送魔法陣で地下洞窟に戻った。その間にも続々と骸骨工兵の侵入が報告されてくる。
「主殿、地下階段は作業場への通路まで天井が無くなった。骸骨工兵は戦闘力は無いも同然なので、破壊はできるが、数が多すぎる」
「了解、深くなるほど掘削の速度は遅くなるはずだから、癒しの泉までは引き付けて」
「ギャギャ(北側通路は長いのでまだ持ちます。けど蜜蜂さんの巣が・・)」
「巣箱じゃないから移動は無理だね。コア、女王蜂を安全な場所に誘導して」
「はにはに」
「畑の出口は完全に空が見えます、ジャー。農具置き場と宴会場の避難は済んだようです、ジャジャ」
「了解、トラップルームを崩落させて時間稼ぎをするから、合図があったらコアルーム側に退避して」
「承知しました、ジャー」
「コア、ハリモグラチームは戻った?」
「ん」 「キュキュ?」
「よし、トラップルームの天井を掘りぬいて、上で作業している骸骨工兵ごと埋めちゃって」
「ほりほり」 「キュ!」
今は工兵しか侵入してこないから、こちらの人員に被害はでていないけど、このあと骸骨兵団が押し寄せてくると、かなりまずいね・・・
すでにほとんどの術者の魔力は枯渇しているし、癒しの泉も全員が一度は飲んで今日の回復分を使ってしまっている。リンゴももう無い・・・
あとはエルフのクレリックを治療用に召喚するか、冒険者の残したヒーリングポーションを大量に変換するかだけど・・・
本格的に篭城しながらの消耗戦を覚悟したとき、待っていた報告が届いた。
「モフモフ助け隊別働隊から通信です。『巻き込まれても知らないわよ!』」
「やばい、真紅だ、総員退避!」
「退避って、どこに?!」
敵味方関係なしかよ。人選間違えたかな・・
「広範囲火炎系魔法に注意。地下中層に退避!」
「にげてー」
ゴオオオオオオ
熱風が吹き上がる音とともに、オークの丘の中腹に、円環状の炎の壁が出現した。
その炎の壁は、出現位置にいた骸骨を瞬時に焼き払い、側に立っていた骸骨は次々に炎で焼かれて崩れていった。
「ウォール・オブ・ファイアー・・・しかしこの効果範囲は異常だろう・・・」
麓ではないとは言え、丘をぐるりと取り囲むように出現した炎の壁は、通常の2倍近い距離を網羅していた。
さらに炎の壁は効果が持続する・・
次々に召喚される骸骨工兵が、そのまま炎に巻かれて崩れていった。骸骨兵士でさえ、壁に近づくと燃え落ちてしまう。骸骨軍団の残りは、麓で待機していた4個小隊だけになってしまった。
「ダレダ、ジャマヲスルノハ・・オマエカ・・・」
離れた丘の上からワンドを振るう魔術士に気がついた暗黒神官騎士が、配下の骸骨戦士長に排除を命じた。
「アノ、マジュツシヲ、コロセ」
2個小隊が丘の上の魔法少女に向かって突撃をしてきた。
だが、その進路に5人の冒険者が立ち塞がった。
「骸骨2個小隊じゃあ、ちと物足りないさね」
「ここは騎士団に見せ場を譲って、ビビの警護に専念してくれ」
「任せろ相棒、けどビビニャんて呼ばないのかよ」
「あいつが嫌がるからな・・」
「兄さん・・隣から甘あまな気配がするんだけど・・」
「見ちゃダメだ、虫歯になるぞ・・」
12体の骸骨部隊と5人の冒険者が激突した頃、準備を終えた聖堂騎士団10名が逆に突撃を仕掛けた。
「今ならデスナイトの周囲が手薄だ。一気に蹴散らせ!」
「おおお!!」
対アンデッド用の防御呪文を身に纏い、対アンデッド用の攻撃呪文を付与した剣を振るう聖堂騎士団は、骸骨部隊には圧倒的な強さを発揮し、瞬時に守備隊の2個小隊を撃破した。
「この地から退去せよ!」
聖堂騎士団の小隊長の一人が、暗黒神官騎士に破邪の一撃を繰り出した・・・
しかし・・・
「オロカナ、ジンゾクヨ、オマエノマエニ、タツノハ、ジキ、マオウデアルゾ」
暗黒神官騎士の黒い剣が、小隊長の胸を刺し貫いていた・・・
「ゲハッ、何が起きた・・・太刀筋が・・見え・ない・」
小隊長には認識できなかったが、暗黒神官騎士の剣は、一瞬で3回、彼の身体を貫いていたのだ。そして深く突き刺さるたびに、小隊長の生命力を吸い取っていった。
その結果、1合を交えただけで、小隊長は死亡してしまった・・
「フム、シネバ、シモベトシテ、フッカツスルハズナノダガ、ナニカガ、ジャマシテイルナ」
首を傾げる暗黒神官騎士に、聖堂騎士団の隊長が叫んだ。
「我々には女神のご加護がある。死して邪神に操られることなどありえぬ!」
「フム、タイサクヲ、シテイルノカ・・」
「総員、死を恐れるな!正義は我等とともに!!」
「おお!!」
一人が倒されても残りの8人が敵を討つ。聖堂騎士団、必殺の陣であった。
しかし・・・
「ホウイノ、ソトハ、モロイナ」
瞬間転移した暗黒騎士は、目標を見失って動きが止まった騎士団の背後から襲い掛かる。
「グワッ!」 「ギャアー!」
さらに二人の騎士が倒された。
「タマシイノ、シツガヒクイ・・・ザコガ・・・」
炎の壁の援護のあと、隙をついて聖堂騎士団が突撃をかけたけど、なんかやばそうだね。
「オイラが行くっすよ・・」
「ギャギャ(無理よ、ワタリさん、ボロボロじゃない!)
「それでも、誰かが奴を止めるしかないっす・・」
「ていっ」
包帯をぐるぐる巻きにして悲壮感に酔っているワタリの背中をコアが突いた。
「アンギャー!」
痛みで失神したワタリは、アズサに野戦病院へ運ばれていった・・
「主殿、私が行く。奴と決着をつけさせてくれ」
「けど、有効な武器が無いよね。ミスリルソードの予備はもう無いし・・」
「ポチもいるし、なんとかなる。いや、なんとかする、だから出撃の許可を!」
「しかし・・・」
その時、どこからか声が聞えた。
「・・・こいつを使っていいぜ・・・」
誰だ?
「・・あいつの敵をとってくれるんだろ・・使っていいぜ・・」
丘の頂上に、黒い人影が・・・持っているのは・・銛?
さらに別な場所から声が聞えた。
「・・・ワシも力を貸そう・・・」
今度は畑の跡地に誰かが立っている。腰を曲げた黒い人影・・
「・・あれはもう信徒でもしもべでもない・・心してかかれ・・」
僕らに味方してくれた、黒い剣の魂なのか・・
「主殿!」
「うん、いいよ・・守護騎士ロザリオ、出撃せよ!」
「イエス!マイ・ロード!」
「ドウシタ、モウ、オマエ、ヒトリダゾ」
聖堂騎士団は、隊長を除いて全滅していた。
敵の攻撃は防御ができず、こちらの攻撃はほとんど回避されてしまう。何度か命中させたものの、味方が切られる度に、敵はその生命力を吸収して回復してしまう。
隊長も、全身に傷を負っていて、貧血で目がかすみ始めていた。
「オマエナラ、イケニエニ、ナリソウダ」
「そいつは願い下げだな。こいつらと天国で落ち合う約束があるんでなあああ!」
ガキンッ
聖堂騎士団隊長の渾身の一撃は、暗黒神官騎士の剣で受け止められてしまった。
「コレデ、オワリダ」
返す刀で隊長の首を切り落とそうとした暗黒騎士であったが、異様な気配に気がついて咄嗟に転移で距離をとった。
「フム、ネメシスノ、セイキシカ、ヤッカイダナ」
満身創痍の隊長であったが、瀕死の身体には大量の魔力が充満しているようだった。復讐の女神の聖騎士には、自分を倒した相手に報復する呪文があった。それが発動していれば、敵に一矢報いることができたはずであった。
「くそっ、ここまでか・・」
危険を察知した相手は、無理をせずに配下の兵士をけし掛けてくるだろう。雑魚を道ずれにしても意味はなかった・・・
そこへ・・・
「お前の相手はこの私だ!」
丘の頂上で白い巨大な熊に跨った、銀色の守護騎士が叫んでいた。
「マダ、イタノカ、マケイヌメ」
「2戦目に逃げたのはお前だろう!いざ、決着を!」
「ケケケ、ヨカロウ、カエリウチダ」
暗黒神官騎士も暗黒骸骨馬に跨って剣を構えた。
ロザリオはポチの手綱を握り締めると、隣に立つ影に声を掛けた。
「その槍、借り受ける」
「・・もってけ・・」
「御免!」
右手に手渡された銛を受け取ると、全速で丘を下り始めた。
「マダ、ワタシノ、ジャマヲ、スルヤツガイルノカ」
丘を下りきって、畑の跡地を走り抜けると、黒い影が囁いた。
「・・それじゃあ届かないよ・・こうするのさ・・」
影が手を振ると、地面から黒い茨が生えてきて、ロザリオの銛に絡みついて形を変えていった。それは歪ではあるが、遠目には黒い棘の生えたランスに見えた。
「ご助力、かたじけない!」
そのままの速度を保って、ポチは激走した。
「オマエモカ・・ナラバ、ソノ、キボウゴト、カリトッテクレヨウゾ・・・」
暗黒神官騎士もロザリオに向かって速度をあげた。
白銀と漆黒の騎士が、その存在を賭けて激突した・・・
そして・・・
ロザリオの左半身がごっそりと削りとられていた。
暗黒神官騎士は何事も無くすれ違って、反転した。
「ケケケ、ショウブ、アッタナ」
その声は、何故かロザリオが右手だけで支えている、ランスの穂先からした。そこには漆黒の球体が黒い棘に突き刺されていた。
「ああ、私達の勝ちだ」
ロザリオの一撃は、デスナイトの身体から神官の魂だけを貫いていたのだ。
「バ、バカナ、コンナコトガ・・」
一度倒されていたデスナイトは、漆黒の球体が抜き取られると、その場で塵になって風に吹き飛ばされていった。
召喚されていた骸骨軍団も、元の骨に戻っていった。
「アト、スコシデ・・トドイタ・・ノニ・・」
漆黒の球体も塵となって、空に舞っていった・・・・
DPの推移
現在値:3298DP (3013DC)
撃退:デスナイト(R13) +845
撃退:神官(LV10クレリック) +500
残り:4643DP (3013DC)




