怪鳥はいない
投稿が遅くなりました。申し訳ございません。
しもべの一つは水の底に、その姿を現した。
「なんだなんだ、あの黒い水滴は、ジャー」
水牢の天井から染み出した黒い雨は、次々に水中に落ちてくると、大きな1つの塊になっていった。
「なんだか知らないけど、やばそうだぜ、ジャジャ」
逃げ遅れた鮭が黒い水に触れたとたん、腹を見せてぷかりと浮かんできた。
やがて黒い塊は、その全容を現した。
それは、ぬめるような光沢を持った真っ黒な巨大な山椒魚だった。のっぺらぼうの頭に、ギョロリと巨大な一つ目が開くと、ベニジャ達を見つけて襲い掛かって来た。
「散開!ジャー」
固まっていては良い的になるだけだと、ベニジャはメンバーに分散するよう指示をだした。
そこに漆黒山椒魚が突撃してきた。
ズズズズドオーーン 「「ケロケローー」」
大蛙達を弾き飛ばしながら、勢い余って岩壁に追突して止まった。
「こんちくしょうめ!お返しだぜ、ミコト、出番だぜ、ジャー」
「ピュイ!」
巨体ゆえに動作の鈍い漆黒山椒魚の死角にもぐりこみ、凍結電気ウナギのミコトが電撃を放った。
バリバリバリッ
しかし一瞬だけ、びくっとしたものの、その巨体を感電させることはできなかった。しかも電撃で焼き切った傷が、みるみるうちに再生されていく。
「なんだ、こいつ、ハンザキの化け物ってことかよ、ジャジャ・・・」
「ピュイピュイ・・」 「シャーシャー・・」 「ケロケロ・・」
今の自分達では、あの化け物の再生能力を上回る攻撃ができない・・・
そのことがわかるベニジャ達には、目の前の巨大漆黒山椒魚を倒す術が無かった・・・
二つ目のしもべは、牢獄に現れた。
牢獄の天井から滴り落ち、床に溜まった黒い水溜りの中から、骸骨の馬に跨った、骸骨の騎士が現れたのだ。その骸骨の騎士は、真っ黒な甲冑に身を包み、黒い剣を腰に佩いていた。
骸骨騎士が、黒いマントをひらめかせて右手を高く上げると、その周囲に6体の骸骨の戦士が出現した。
骸骨の戦士は、黒鋼の剣と、黒鋼の盾を持ち、黒鋼の胸当てを装備していた。
さらにその6体の骸骨戦士が、手にした黒鋼の剣を掲げると、6体ずつ、合計36体の骸骨の兵士が出現した。骸骨兵士は、黒曜石の槍を持ち、黒い皮鎧を装備していた。
たった一人の骸骨騎士が造り上げた、42体の軍団が、その指揮の元で整然と隊列を組んで侵攻していく・・・
その骸骨軍団を迎え撃とうとするのは、騎牙猪兵のアップルチームと、ツンドラエルフのモフモフ親衛隊であった。彼らはリンクが切れたときも、その命令系統がしっかりしていた為に、大きな混乱は起きていなかった。ただし、部隊ごとに自由に行動できるので、ここは戦わずに撤退する選択肢もとれる。
「そちらはどうするんだい?」
ツンドラエルフの小隊長が、アップルに尋ねた。
「ギャギャ(むろん戦うさ)」
相棒の牙猪の五郎〇に跨ったアップルは、さも当然のように答えた。
「しかし、敵は伝説のデスナイトだと思われるよ。勝ち目はないと思うんだが・・」
「ギャギャギャ(何が来ても一緒だ。敵が来るなら蹴散らす。強い敵ならば足止めをする。もっと強い敵だとしたら、腕の1本でももぎとってみせる・・」
退くことを微塵も考えない騎牙猪兵に、小隊長は肩を竦めた。
「ここのマスターはえらく信奉されてるんだねえ・・」
「ギャギャ(そういう、そっちは退却しないのか?)」
元は侵入者で、帰る所が無かったから眷族になったと聞いている。アップルは、エルフの部隊こそ、リンクが切れた今、勝ち目の無い戦いはせずに安全地帯へ退却するだろうと思っていた。だが、なぜか彼らも持ち場を離れようとはしなかった。
「うちの少尉がまだ帰還途中なんでね。拾い上げるまでは戦線は下げられないんだよ」
「ギャギャ(しかし、あの隊長が合流してから撤退など認めるか?)」
「だから、そういうことさ」
なんのことはない、エルフの部隊も撤退するきなど、さらさら無いらしい。
ならば背中を預けるのも一興か・・・
「ギャギャ(これより十字路を最終防衛線とする。蟻の子一匹通すなよ!)」
「「ギャギャ」」 「グヒィグヒィ」」
「我々は騎牙猪隊の援護に回る。弓は役に立たないので、弓兵はスリングに持ち替えろ。クレリックの治療はあてにするなよ。魔力は全て聖属性範囲攻撃に使うからな!」
「「モフモフ!」」
43対12。絶望的な戦力差の中で、戦いの幕は切って落とされた・・・
最後のしもべは、トラップルームの真ん中に出現した。
黒い雨は、床に滴らずに、天井に巨大なシミを作り、それが天井全てを覆い尽くそうとした瞬間、巨大な質量となって部屋に落下した。
「ギャギャ(退避!)」
逸早く気がついたアズサが通路に飛び込みながら叫んだ。
反応した狙撃班は避けきったが、コアルームに気を取られていた狼達の動きが、1テンポ遅かった。
ドッポン 「「キャイーン」」
天井から降ってきた巨大な黒い粘液の塊に、逃げ遅れた狼達が尻尾や後ろ足を酸で溶かされていた。
さらにその黒い粘液は、触手のように黒い偽腕を伸ばして、動けない狼達を取り込もうと蠢いている。
「ギャギャ(逃げろ!)」
左右の通路から狙撃班は援護射撃をするが、クロスボウはダメージは与えはするものの、抑止力にはなりえなかった。
冬狼のケンはコールドブレスを放って、粘液の一部を凍らせることに成功した。
しかしその間に、反対側にいた影狼のリュウが偽腕に取り込まれようとしていた。
黒い粘液に取り込まれれば、一瞬にして骨も残らずに酸で溶かされてしまうだろう・・・
「クウ~ン」
リュウが別れの鳴き声をもらした、そのとき・・
「ファイアー・アロー!」
洞窟の出口から飛び込んできた炎の矢が、リュウに取り付いた黒い偽腕を焼き切った。
慌てて逃げ出すリュウ、驚いて出口を見る狙撃班、そしてそこには・・・
草で編んだ稚拙な動物の仮面を付けた、3人の冒険者が立っていた。
「我らは、通りすがりの『モフモフ助け隊』。義によって助太刀に参上!」x3




