明らかになったカルトメンバー
「くしゅん」
可愛らしいくしゃみの音がした。
「・・ビビアン、静かに・・」
スタッチが、小声で注意した。
「・・アタシじゃないわ・・」
ビビアンも小声で抗議した。
「・・・誰か噂してるようさね・・・」
「「ソニアのくしゃみ?!」」
「・・煩いぞ、聞き取れない・・」
「「・・ごめん・・」」
「・・くしゅん・・」
4人組は、現在、ナビス湖から北へ1日ほど強行軍した森の中に潜んでいた。
聖堂騎士団の廃村強襲作戦が失敗に終わったあと、邪神教徒と目される漁師風な男を追跡して、逃亡する一団に合流するのを見届けた。
この時点で騎士団に報告に戻るか、追跡を継続するか判断に迷ったが、邪神教徒の集団がかなりの速度で移動し始めたので、戻る選択支がなくなったのである。
集団の中に、狩人やレンジャーがいないので、距離をとって追跡する4人組が気取られることはなかったが、老人や子供も混じっているのにもかかわらず、彼らは行軍を止めようとはしなかった。
結局、最初の休憩場所が、ほぼ半日歩き続けた場所になり、その後も軍隊よりきつい行軍速度で北へと移動し続けた。
ビビアンはとっくにいつもの定位置のソニアの背中に収まり、そのソニアが疲労を訴え始めた頃にやっと先を行く集団が野営の準備を始めたのだ。
「あいつらの逃亡にかける執念を舐めてたぜ、俺は」
スタッチはぼやきながら、ブーツを脱いで足先のマッサージをしていた。
「同意するさね・・ビビアンも成長したのか、背負って行軍はちょいとしんどいよ」
水をがぶ飲みしながらソニアが珍しく弱音を吐いた。
「ちょ、ちょっと、アタシ太ってないからね!体重変ってないから!」
焦るビビアンは、横にいる誰かさんを気にしながら猛抗議した。
「まあ、今回は長期戦も覚悟して、食料を十分運んできたんだ。ソニアが消耗するのも無理もないさ」
「でしょ、そうよね、装備の重さよね」
ハスキーに激しく同意するビビアンを、他の二人が悪い笑みを浮かべて見守っていた。
「で、ここまで離されちまうと騎士団が合流するのはだいぶ先になりそうなんだが、どうする?」
一応、進行方向だけでも騎士団にわかるように、打ち合わせの通りのマーキングをしてきたが、このペースでは重装備の騎士団では、追いつくのは無理だと思われた。
「遠距離から手傷を負わせて行軍速度を落とさせるのはどうだい?」
ソニアが過激な案を出したが、それはハスキーが却下した。
「分散されるとお手上げだ。それにこの強行軍で脱落した者もいない以上、奴らは見た目より相当な実力がある。藪をつついて毒蛇が出る可能性が高い」
「でも、このままだと、いつか振り切られてしまわない?」
ビビアンは自分がパーティーの足を引っ張っている事を自覚しているので、置いてきぼりにされるのを怖がっているようだ。
「まず、奴らの目的地を探ろう。うまくすれば先回りできる」
ハスキーはそう言って、召喚の呪文を唱えた。
「・・なぜ鳴くのか、その理由は誰も知らない・・サモン・ウッドランドビーイング(森林生物の召喚)」
詠唱とともに2羽のカラスが召喚された。
「なにその詠唱、始めて聞いたけど・・」
「俺のオリジナルだ、カラスを呼ぶときはこれが良いんだ」
「ビビアンほっとけ、謎の拘りだ」
ソニアも肩を竦めてノーコメントらしい。
ハスキーは気を悪くした風もなく、2羽のカラスに何かを言い聞かせると、空に放った。
カラス達はゆっくりと大きな円を描きながら、邪神教徒の野営している森の側に移動していく。
「なんでカラスなの?狼とかの方が耳が良くない?」
ビビアンが素朴な疑問を発した。
「確かにそうだが、狼だと別な意味で警戒される。カラスなら無害だ」
「なるほど・・ならなんで2羽なの?」
「カラスが1羽だけ見つかると、使い魔だと疑われる。本来、2・3羽でコロニーをつくるからな」
ビビアンはハスキーの説明を理解はしたが、考えすぎなような気もした。他の二人の様子を覗うと、「好きなようにやらせておけ」というサインを出していたので、それ以上は言わないことにした。
慎重に接近させたカラス達に、聴覚を同調させて、ハスキーは野営地の会話を聞き取ろうと神経を集中させる。
他の3人は食事の用意をしたり、キャンプ地のカモフラージュを設置したりしていたが、やがてハスキーの周りで、静かに息を潜めて成り行きを見守っていた・・・
「くしゅん」
というわけで、ソニアのくしゃみから始まった騒動で、ハスキーの集中が切れた。
「何かわかった?」
「途切れ途切れだがな」
ハスキーは、カラスを通して拾った野営地の情報を皆に話して聞かせた・・・
野営地にて
「ご老人、4人も先行させてよろしかったのですか?」
「構わんよ、追手の目はできるだけ分散させた方が良かろう。ワシ等が囮になるも良し、あれらが餌になるも良しじゃて」
「ですが、乞食女と逃亡奴隷の二人はまだしも、狩人と御者は本隊の道案内にも後方の索敵にも使えましたでしょうに・・」
「どうせ行き先は一緒じゃ。道案内も必要ない。いざとなれば占い師もおる」
「・・わかりました・・」
「結局、合流できなかったのは誰と誰だよ?」
「えーとだな、料理人だろ、学者だろ、それからメイド・・は居るか・・吟遊詩人と、豚飼いだな」
「他の奴らはわかるが、なんで学者が逸れたんだ?」
「さあなあ、村に潜入してもすぐバレそうなもんなんだが・・」
「おばば様、お茶が入りました」
「すまないね、雑用全部お前さんに押し付けた形になって・・」
「お気になさらずに、メイドの務めにございます」
「樵や漁師じゃ、薪割りはできてもお茶の1つも煎れられない・・」
「あの方々には、おばば様達を護るお役目があります。それ以外の雑事は私が・・」
「・・・どうやら送り狼がいるようです・・・」
「聖堂騎士団か?」
「・・紅い炎・・男の友情・・・よく読みとれませんね・・」
「なんだそれ?薄い本の読みすぎか?」
「失敬な、それなら漢の友情のはずです」
「そ、そうなんだ・・」
ハスキーはこの時点で言い知れぬ悪寒を感じて同調を切った。
「やばい連中だ・・」
「いろんな意味でな・・」




