賞金の受け取りには印鑑が
「しかしポチは食べるねえ」
「まぐまぐ」
クロスさんが置いていったグレイシャル・ベアのポチは、絶賛お食事中だった。
グレイシャル・ベア(氷河羆)はホッキョクグマに似た巨大な白熊だ。体高が4m近くあるので、地上部のダンジョンには入れる場所はなかった。掘削して通路を広げると、そのあとで大型の敵が入り込み自由になるので、地下墓地に潜り込んでもらうことにしたんだ。
四肢を伸ばして、這いずってもらうことでなんとか3mの高さの通路を移動できた。あちこち泥だらけになったけど、ポチは気にしていないようだ。
癒しの泉と眠りのハーブ畑がある部屋がそこそこ広いので、しばらくはここで我慢してもらおう。水が豊富にあるからポチも気に入ったようだった。
食事は鹿の肉を変換したけど、50kgをペロリと平らげてしまい、お替りが欲しいと舌をだしている。
「コア、スノーホワイト家のツケに上乗せね」
「ちゃりーん」
「待ってくれ、主殿!鹿肉なら私が外で狩りをしてくるから」
借金が増えるのを危惧したロザリオが、現地調達を願い出てきた。
「いや、今は邪神教徒の襲撃に備える必要があるから、外出禁止だよ」
「きんしー」
愕然とするロザリオは床に崩れ落ちた。
「なんということだ・・このままでは我が家の家宝が質流れに・・・」
いや、そんなには食べないでしょう・・・食べないよね?
「外出禁止はいいっすけど、周囲の警戒はどうするんすか?」
ワタリがなにげに重要なことを尋ねてくる。
「いや、オイラいつも重要なことしか言わないっすよね?」
戯言は無視して本題に答えよう。
「完全スルーっす」
「蜜蜂ネットワークは範囲を広げて索敵させてるよ。2群体増やして運用しているから、まあ漏れはないと思う」
「はにはに」
「了解っす。ところで、この離れた丘に寝泊りしている冒険者はどうするっすか?」
実は、ノーミンに邪神教徒の情報をもたらした冒険者達が、2日前から同じ位置に留まっているのが確認されていた。
「んー、たぶん邪神教徒を狙っているんじゃないかな。この丘に立ち寄ると考えて、網を張っているんだと思うよ」
「バウンティー・ハントすか・・」
「騎士団あたりから賞金も掛かっているだろうしね」
「それ、オイラ達が倒したらもらえるんすか?」
「死体が残れば引渡しもできるだろうけど、自爆しそうだよ・・」
「ですかね・・」
あとダンジョンマスターの名義で賞金を請求したら、払ってもらえそうにないんだけど・・
「こあこあ」
ダンジョンコアの名義でも駄目だと思うよ・・
「しょぼん」
オークの丘が見渡せる丘にて
長期戦を想定して設営されたキャンプの中で六つ子達は、交代交代で休息をとっていた。
すると、順番で仮眠していたレンジャーが、突然跳ね起きた。
「来た!」
「アラームの結界に反応があったのか?」
「距離1500mに仕掛けたやつ。数は2」
「野生動物の可能性は?」
「アラームの奥にはブラフで鳴子が仕掛けてあるの。それを見て、野生動物なら逃げ出すはず。この反応は、警戒されているのに気が付いて、しかも仕掛けた私達に明確な敵意を向けたわ」
「良くて山賊、悪ければ本命か・・」
「本命に1票」
「根拠は?」
「もう待つのに飽きたよ」
「願望かい」
確かに、何時来るかわからない危険な犯罪者集団を張り込みし続けるのは精神的に厳しかった。できればこの敵が、本命の邪神教徒であって欲しいと全員が願う。
「よし、兎に角、本命に対処するように配置につけ!」
「ラジャー!」x4
ところが返事をした瞬間に、レンジャーが再び飛び跳ねた。
「距離500m、同じく2、しかも速い!」
あっという間に1kを走り抜けた敵に、驚くと同時に恐怖した。
「・・まずい、伏せろ・・」
大声を出せば聞かれる可能性もある。小声で、しかし鋭い口調でリーダーが指示をだした。
下から見上げると、茂みにカモフラージュされるように設営したキャンプ地に5人が隠れた。
するとすぐに、少し離れた獣道を、奇妙な二人連れが走っていくのが視認できた・・
「筵を身体に巻きつけた裸足の女と・・・」
「上半身裸で、足首に鎖を繋いだ大男・・・」
「・・ビビアン達か?・・」
そうこうする間に、不審な二人組はオークの丘へと走り去ってしまった・・
「しまった、見逃した!」
「え、え、だってあれ、あれでしょ?」
「また身包み剥がれたのかと思ったが、逃げ込む先が逆だよ」
「人数もたりない・・」
確かにあれが『酒場の亡霊』でないとするなら、邪神教徒の変装だったのであろう。
森の中で遭遇すると違和感しかないが、街中の路地裏に潜伏するならそれなりに通用しそうな偽装である。
それにしても・・・
「紛らわしいんだよ!」x5




