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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第8章 暗黒邪神教団編
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ブービートラップ

 ビスコ村の北には、その名前の由来にもなっているナビス湖がある。

 水竜を倒した勇者と失われた水竜殺しの剣、その伝説は今も村人たちの間で語られていた・・・

 観光客を集めるために・・・


 「世知辛い世の中だな」

 以前に酒場で『水竜殺しの勇者のバラード』を聴いたことを思い出したハスキーが、呟いた。

 邪神教徒の潜伏場所に、聖堂騎士団と共に強襲をかけるために、外壁の門の側で待機していると、少し離れた広場で、村の子供が童歌を歌っていたのだ。

 最初の内は、なんとなく聞き流していたのだが、詩の内容が微妙で、つい聞き耳をたててしまっていた。

 

 「勇者の剣は、どんぶりこ」

 「湖にはまって、そら大変!」

 「なまずが出てきて、『これはお主の剣か?』」

 「金の剣を貰った勇者は一生遊んで暮らしました♪」


 ドングリと女神の斧が混じってるとか、黄金の剣より水竜殺しの剣の方が高く売れるだろうとか、突っ込みどころは満載だった。なにより歌い終わった子供が、親らしき屋台の主人から銅貨を受け取ると、2回目の公演を始めていた。

 どうやら1曲幾らの歩合制らしい。


 「あのときの吟遊詩人も、村に雇われていたのかもな・・」

 村人の地道な宣伝活動が、この村に冒険者を呼び集めているのだろう。そして伝説を夢見て集った冒険者は、夢破れて散っていく・・


 「どうしたんだい、ハスキー。あんたにしては、やけに黄昏たそがれてるじゃないか」

 「ソニアか・・俺はいつもこんなものだ」

 「そうかねえ、いつもより暗さが2割増しのような気がするよ・・邪神教団が怖いのかい?」

 「ああ、怖いな。奴らは狂っている」

 奴らの目的も、手段も、行為も、その全てが狂っていた。そしてその狂気は、自らの行いを邪魔した相手に対する報復にも及んでいる。


 「そこで虚勢を張らないとこが、ハスキーの良いとこさね」

 臆病と揶揄やゆされるかと思っていたが、ソニアは逆に持ち上げてきた。蛮勇が持ち味の彼女も、邪神教団は勝手が違うようだ。


 ソニアは話をつづける。

 「金が欲しいなら幸運と商売の神に、復讐がしたいなら裁きの女神に、偉くなりたいなら統治の神に祈ればいいだろうに、何を好き好んで邪神なんかに入れ込むのかねえ」

 「まともな神様では聞き届けてくれないほど、願いがよこしまなんだろうな・・」

 「なるほどね、難儀なことさね」

 「向こうも、こっちもな・・・」


 そんな二人に割って入る人物がいた。

 「ちょっと何よ、誰が面倒な性格してるっていうのよ!」

 最後の会話だけ聞きかじって、プンプン怒っているビビアンを、ハスキーは不思議そうに眺めた。

 「ビビアンは何を怒っているんだ?」


 あとからやってきたスタッチが、ソニアと一緒ににやけている。

 「相棒の朴念仁なところにかな」

 「本人は面倒な性格を自覚してるようさね」

 その後、二人はビビアンにポカポカ殴られるのを避けまわった。



 その頃、聖堂騎士団は小隊毎に分散してビスコ村を出陣していった。表向きは外の捜索隊との交代という名目で、4個小隊を派遣することになる。


 「小隊長、全員揃いました」

 「よし、監視している不審者はいないだろうな」

 「村を出るときにそれらしき者は見当たりませんでした。ただ・・」

 「ただ、どうした?違和感を感じたなら全て報告しろと伝えてあるはずだが?」

 「はっ!村をでるときに、協力者である冒険者の4人組が、痴話喧嘩をしていました」

  どうやらビビアン達は目だっていたらしい。


 「俺も見ました!」

 「審問にかけましょう。叩けば埃がでるはずです!」

 「小隊長!」

 騎士たちも長期の北方遠征と、邪神教団への警戒でかなり心が磨耗しているらしい。


 1人冷静な小隊長は首を振った。

 「あれは演技だろう。敵の目を欺く為のな」

 欺かれているのは小隊長だった。


 「彼らが衆人の目を集めていてくれている間に、距離をとるぞ。小隊、前進!」

 騎士たちは納得いかない顔をしながらも、任務の為に目的地に向かっていった。



  ナビス湖西岸の寂れた漁村にて


 ここは十数年前に放棄された廃村だった。廃村といっても、元の村は簡易的な柵をめぐらしただけの代物で、建物も漁師が、網を手入れする為の作業場と、雨風を凌ぐ休憩所が3つあっただけだった。

 それでも最盛期には20人を越える漁師がここで寝泊りをしていた時期もあったが、半水棲モンスターが、ここに集まっている人族が餌になることを覚えたときから、急速に寂れていった。


 今はもう近づくものは誰もいない・・・はずだった。


 その廃村にこっそりと、流れ者が集まってきていた。

 彼らは多種多様な性別、年齢、職業をしていたが、1つだけ共通していることがあった。

 暗く、それでいて奥に何かを秘めているような瞳・・・

 それは、何かに大事なものを売り渡してしまった、信徒に共通する眼差しであった。


 「ご老人、商人が定時に戻ってこない」

 集団の纏め役らしい老人に、神官風のローブを纏った男が話しかけた。


 「占いには、どうでておる?」

 老人は、側に居る占い師風の女に声をかけた。


 「・・・卦は凶・・もはや生きてはいまいよ・・」

 「・・生け贄の炎は上がったのか?」

 「・・その徴は無い・・」

 その言葉を聞いて、老人が立ち上がった。


 「どうやら、生き恥をさらした者がでたようだ。ここも知られたとみるべきじゃろう」

 それを聞いた集団に緊張と悪意が走る。


 「どうする?まだ集まりきっていないぞ」

 「最後に臆病風に吹かれたのかよ、チキン野郎が」

 「神の敵も狡猾になっています。全ての責任がかの者にあるかどうかは・・」

 ともすれば個人行動をとろうとする集団を、老人は諌めると、厳かに言った。


 「聖地に移動する。足の速いものは先に行け、わしらも後から追いつく」

 それを聞くと、即座に4人の人影が姿を消した。

 「残りのものは、置き土産を用意しろ。遅れてくる者達に、ここを放棄したことが分かりやすいようにな」



  その頃のダンジョンでは


 「これ置き土産ですか?」

 やっと、もといようやく、じゃなかった、とうとう・・・とにかく喜ばしいことにロザリオのご両親がクランに戻ると言い出した。

 「心の声が駄々漏れっすよ」


 うん、何故だろうね。ヒルダさんが帰還を言い出したときのロザリオを思い出した。


 「本当か、母上!」

 とても嬉しそうな様子のロザリオは、その後再び説教をうけていたけれども・・・


 「娘が父親を煙たがるのは、どこも同じなんだろうね・・寂しいよ」

 いえ、どちらかというと母親の方かと・・

 「寂しいから、この子達を引き取っていっていいかな?」

 そう言うクロスさんの脇にはチュンリーとまーぼーが抱えられていた。


 誰かさんと言動が同じだね、この人・・・

 「うちはお持ち帰りは禁止です。そういう商売してません」

 「つれないね・・そうだ、代わりにポチを置いていくよ」


 ポチというのはクロスさんの乗騎であるでかい白熊のことだ。ちなみにタマがでかい白虎で、ミケがでかい白ライオンらしい。

 「代わりになりませんよ。置いて行ってください」

 チョビややんままのプレッシャーもあって、クロスさんはまーぼー達を諦めたようだったのだが・・


 「ポチは置いていったのか・・」


 暗黒邪神教の情報は、クランに急いで届ける必要があったらしく、二人はヒルダさんの愛馬ローエングリンにタンデムして飛んで帰った。

 持久力はあるが、巡航速度に難のあるポチは、置いてきぼりをくらったみたいだ。

 本人はまったく気付いていないようだけれど。


 「父上は『待て』をしてから2・3ヶ月忘れてしまうこともあるからな。ポチは慣れているんだろう」

 それって飢え死にするんじゃ・・

 「大丈夫だ、ポチは自分の食い扶持は狩りでまかなうからな」

 へー、餌は何かな?

 「なんでも食べるぞ。魚でも鹿でも猪・・でも・・・」

 「グヒィー!グヒィー!」

 あ、五郎〇が追いかけられてる・・・ゲスト認定はずしたら大変なことになりそうだね・・

 「すぷらったー」


 「すまない主殿、ポチの餌もお願いできないだろうか?」

 「スノーホワイト家にツケとくからね」

 「くっ、せめて父上の名義で・・」


 「連帯責任です」

 「ですです」 

 DPの推移

現在値:1808 DP (3013DC)

変換:紅鮭x100、鹿肉300kg、猪肉150kg -65DP (ポチの餌)

残り 1743 DP (3013DC)

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