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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第8章 暗黒邪神教団編
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毒入りシチュー殺人事件

 ビスコ村の酒場で腹拵えをしていた4人組のテーブルに、酒場のマスターが寄ってきた。

 「あ、おやっさんいいところに、追加注文いいかな」

 スタッチが串焼きを頬張りながら、酒と料理の注文を出そうとした。


 「そいつは後だ、ちょっと厨房まで来てくれ」

 声を潜めて話すマスターの雰囲気に呑まれて、わけもわからず頷いた。

 他の客に気取られないように、1人ずつ、席をたって用足しのように厨房に回りこむと、そこには気絶して死体のように横たわる、商人風の男が倒れていた。


 「おやっさん、とうとうやっちまったな・・」

 「原因はツケを払わないとゴネたあげくの言い争いか・・突き飛ばしたら後頭部を暖炉の角にぶつけた・・ということにしておくか」

 「死体の処理はあたしらは請け負わないよ」

 「それで、口裏あわせて欲しいってわけ?聖堂騎士団が来てるから偽証とか無理だから」

 4人は、最初から酒場のマスターがかっとなって殺してしまったと思っていた。


 「馬鹿いってんじゃねえ、死体を処理するならお前らのような駆け出しに頼むわけねえだろ」

 どうやら裏の仕事にもコネがあるらしい。ちょっと4人が引いた・・


 「じゃ、じゃあこいつを見せてどうしようって言うのよ」

 「こいつはまだ死んでねえよ。意識を刈り取ってあるだけだ」

 マスターの言葉に、倒れた男をよく見ると、確かにまだ息をしていた。


 「なんだ、物取りを撃退したなら駐屯兵か、それこそ騎士団に突き出せばいいだろ?ああ、店番がいなくなるから俺らに運ばせようって魂胆かよ」

 「どうやら違うようだぞ、相棒。こいつは見たとこ商人に化けているが、持ち物は正反対だ」

 ハスキーが、商人風の男から剥ぎ取った装備は、剣呑なものばかりだった。


 「暗器に怪しげな薬瓶、毒針に首絞紐かい。どうみても暗殺者だねえ」

 「こいつが、お前らに出そうとしたシチュー皿に、一服盛っているのに気が付いてな、後ろからこっそり近づいて絞めてやったのさ」

 マスターは簡単に言うが、プロの暗殺者を奇襲で絞め落とすのは至難の業だ。元は冒険者だったというが、このマスターも底が知れなかった。


 「ビビアン、何かやらかしたか?」

 「なんで私に聞くのよ!ここんとこ皆一緒でしょ!」

 「そうは言っても、最近は身包み剥がされるばかりで、恨みを買う暇も無かったしなー」

 かなり情け無いことをスタッチがぼやいた。


 「過去の因縁でないなら、現在の状況か・・」

 「まさか邪神教団の手先とかじゃなかろうね?」

 ソニアは口に出してから、しまったという風にマスターを見た。


 「お前らが聖堂騎士団に雇われたのはバレバレなんだよ。うちの店に入ってくる前に路地ででかい声で相談してたろうが」

 「「「「 あっ 」」」」


 どうやらこの暗殺者は、何らかの目的でビスコ村に潜入していたところ、偶然に4人の会話を聞きつけて、後をつけたようだ。酒場で飲み食いしてから、捜査に出張る打ち合わせをしていた4人を、先駆けて殺そうとしたらしい。


 「おやっさん、ファインプレーだぜ!」

 「お前らが無警戒過ぎるんだよ」

 「「面目ない・・」」


 「それで、こいつは聖堂騎士団に突き出して構わないのか?」

 ハスキーがマスターに確認した。自分で届ければ金一封ぐらい出ただろうに、それをしなかったことに疑問を持ったのだ。


 「そいつが邪神の信徒なら、意識が戻ったら即、自爆しかねないからな」

 それを聞いたとたん、4人が一斉に男から飛び離れた。

 「そんな距離じゃあ焼け石に水だな。何かする前に息の根止めたほうが速いぞ」

 マスターは、さも日常茶飯事のように扱っていた。


 「まだ直には意識は戻らねえよ。俺が運ぶと店番がいなくなるのはスタッチが言った通りだな。あと仲間が奪還しにくる可能性が少しあるんで、お前らに任せるわけだ」

 「めちゃくちゃ危ないじゃない。なんで私たちがやる必要があるのよ」

 息巻くビビアンに、マスターは鼻を鳴らしながら答えた。


 「ふん、お前らがこいつを引き込んだんだろうが。後始末ぐらいちゃんとやっとけ」

 「何よ、忍び込んだのはこいつの勝手でしょ。客に毒入りシチューを食わせようとした不届き者を、処理するのは店の責任だと・・」

 噛み付くビビアンをハスキーが引き止めた。


 「やめろ、ビビアン。こいつが暗黒邪神教徒なら、責任を負うのはまず第一に聖堂騎士団、次が駐屯軍、そして依頼を受けている俺たちだ」

 「それに、開始1時間で村に潜入していたエージェントを捕獲したなら、特別報酬もありうるぜ」


 「・・そうね、だったらこいつの身柄は私たちで押さえたことで良いのよね」

 ビビアンの手のひら返しに苦笑しながら、マスターは頷いた。


 「俺もこの件に首をつっこみたくないからな。聞かれない限り、俺の名は出さないでくれ」

 「じゃあ、騎士団から礼金が出てもいらないのよね」

 「おい、ビビアン」

 「ああ、うちの店でその分、飲み食いしてくれれば良いぜ」


 言質がとれてご機嫌のビビアンだったが、ハスキーは違和感を感じた。

 「捕獲場所として店の名を出すだろうが、マスターの名前を出すことは無いと思うんだが・・」


 マスターはニヤリと笑うと答えた。

 「邪神教徒の連中に名前を覚えられると、逆恨みが怖いんだよ」


 「「「「俺らは弾除けかよ!」」」」



  オークの丘が見渡せる丘にて


 「ただいま、草食オークに話してきたよ」

 「ご苦労様、それで素直に信用してくれたのか?」

 「んー、どうだろう・・心の中では警戒してるのかもね。警備の狼はずっと見張ってたよ」

 「ウィンターウルフとシャドウウルフとグレイウルフだった。3色揃えている意味がわからん」

 「まあ良いだろう。情報は伝わるだろうから、あとは向こうの出方待ちだな」

 長期戦になることも考慮して、六つ子の5人はキャンプ地の居住性を上げる作業にとりかかった。


 「そうそう、これ御裾分けにいただいたよ」

 「・・ダンジョンから野菜の贈り物かよ・・」

 「茹でて塩を振って、鞘を割って食えといってたな」

 「へー、鳳仙花のでっかいのみたいだけど、豆なんだ」

 「腹壊さないだろうな?」

 「茹でたら大丈夫でしょ。ふつうに収穫してたし、半分は持ち帰ってたしね」


 わいわい言いながら、ついでに食事の準備も始めていた。

 キャンプ用の携帯鍋にお湯を沸かして、さっそく枝豆とやらを茹でてみる。しばらく茹でた後で試しに1つ試食してみた。

 「ふむふむ、ちょっと青臭さがあるけど食べられるね。茹で加減もこんなものだと思う」


 竹笊で湯切りして、上から塩を振りかけようとしたときに手が止まった。

 「これ、鞘は剥いちゃうんだよね・・」

 「だな、外にかけても意味ないぞ」

 「どうせなら塩湯ででよかったんでは?」

 「もしくは塩は皿に盛って、中身にだけつけるかだな」

 この地方では塩は高価というほどではないが、それなりの値段はする。食べない鞘に振り掛けるのは躊躇われた。

 ノーミンは、ただマスターに言われた調理法をそのまま伝えただけだったが、それは潤沢に塩が使える場合に限った食べ方だったのだ。


 「あ、でも塩味が加わると違うね」

 「だな、これはエールが欲しくなるな」

 「少しはあるけど、今から飲んだらダメでしょ」

 「「「ちょっとだけ」」」


 拝み倒す兄妹にあきれてリーダーを見ると、こっそりと隠していた自前の酒袋を傾けていた。

 「リーダー、ずるい!」x4


 その後、宴会になったのは言うまでも無かった。

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