朝取りの早生りですが
ノーミンが目を覚ますと、そこは藁束の中だった。
慌てて這い出すと、周りにはモフモフたちが思い思いの格好で、寝息をたてていた。
「ああ、昨日の夜は穴熊ファミリーにお呼ばれしただな。山盛りの藁のベッドで、ぐっすり寝れただよ・・」
隠し芸大会の賞品として、部屋が埋まるほどの藁束を希望した穴熊ファミリーは、その寝心地を他のメンバーにもお裾分けしてくれたのだ。
見回せば、ケンやチョビ、五郎〇とアグー、親方の身体の一部が藁の山からはみ出していた。皆まだ熟睡しているようだ。
起こさないように、そっと抜け出そうとしたが、藁束の下にある誰かを踏んでしまった。
「ムギュ、・・うへへ・・モフモフ・・」
ノーミンは、モフモフに踏まれた夢を見て喜んでいる誰かさんを放置して、顔を洗いに湧き水の淵まで移動した。
そこは、飲料水の為の湧き水と淵、それに海水を採集する為のタイドプール(潮溜り)、さらには再配置した精霊の泉(治癒精霊を呼ぶ為の湧き水と泉)が隣接して、広い水場を形成していた。
この頃は、コアルームと3層を繋ぐ転送魔法陣を利用して、ルカやクロコが遊びに来たりしていることも多い。
また、水場の隣にはニコの塒も用意された。穴熊の巣穴を拡張して、寝藁を敷いただけの簡易なものだが、ニコは側にヘラが居ればどこでも良いらしく、今もスヤスヤと眠っていた。
大変なのは懐かれたヘラで、寝るときには膝枕のまま子守唄をせがまれ、その体勢で夜明かしをすることもあるらしい。慕われるのは嬉しいそうだが、足が痺れるのだけが辛いのだと言っていた。
朝になると、ニコがキュアで治療してくれるそうだが、贅沢すぎる使い方だと思う。
「さあて、今日も一日頑張るだ」
冷たい水で顔を洗ってスッキリしたノーミンは、農具置き場に立ち寄ると、空の麻袋を1つ担ぐと、畑へと繰り出した。
その頃には、起き出したケンとチョビ、それにチュンリーが付き随っていた。
チュンリーは隠密技能持ちのグレイウルフ・ディアハンターなので、順当に進化するとシャドウウルフになる。ところがケンはウィンターウルフに進化させたいらしく、常にチュンリーを構っていた。
だが、それを良しとしないチョビがいた。素質はシャドウウルフに適正があるのだから、進化先を捻じ曲げても悪い影響がでると思っているらしい。
「娘の教育方針で喧嘩する夫婦みたいだべな」
ノーミンは、チュンリーの好きな道に進めば良いと考えていた。
「第3の進化もありうるだでな」
畑に着くと、枝豆の収穫を始めた。
つい先日植えたばかりの大豆だったが、プラント・グロウス(植物成長)の呪文の効き目が非常によく、あっというまに枝豆として収穫できるまでに育ってしまった。
「ジャックと豆の木だべか・・」
鞘の大きさなどは普通の枝豆だが、異常な成長速度は、少々食べるのに戸惑われるほどだ。まあ一度、分解・吸収してもらえば問題なくなるだろうと思い、早生りの枝豆を収穫していく。
肉球ではうまく収穫できないケン達は、周囲を散歩がてらに警戒していた。
麻袋に半分ほど収穫したあたりで、ケンの鋭い吼え声が聞えた。
ノーミンは急いで麻袋を担ぐと、周囲を警戒する。その死角を護るように、いつの間にかスケア・クロウの2体が位置を変えていた。
だが、ケンが警戒した人物は、隠れる様子もなくノーミンに近づいて挨拶してきた。
「「おはようございます、今日も良い天気ですね」」
そっくりな顔つきをした、人族の男女二人組だった。
「おはようさんだ。今日も冒険かなんかだか?」
「ですね、ビスコ村が騒がしいので、こっちまで狩りにきたとこです」
「おや、村でなにか起きただか?」
「ええ、聖堂騎士団が駐屯して邪神教徒狩りを始めたんです。なんでもこの地方に逃げ込んだ教徒達がいるらしくて」
「はあー、なんかわからんだども、危ない連中がこっちにくるかも知れないってことだべ」
「ですね、この丘に昔は邪神教徒のオークが潜んでいたという噂もありましたし、それに釣られて信徒や騎士団が押しかけてくるかもです」
「そいつは勘弁して欲しいだ。せっかくの畑が荒らされてしまうだ」
「ですが、どっちも話してわかる相手じゃないですし・・」
「邪神教徒はともかく、聖堂騎士団とかも問答無用だか?」
「嫌疑が晴れたら無法はしないでしょうけど、この丘の主の子孫だと思われると・・」
「おいらがオークだから余計に危ないだな」
「「ですねー」」
「とにかく教えてくれて助かっただ。しばらく他所に逃げておくだよ」
「それが良いかと。邪神教徒が潜り込まない様に俺たちも見張っておきますから」
「すまないだ。これよかったら食べてくれだ。さっと湯掻いて塩を振ると美味いらしいだよ」
そう言って、収穫したての枝豆を半分渡した。
「なんです?これ、野菜ですか?」
「豆の若芽だ。鞘はちょっと硬いから茹でたら中の豆だけ食べたらいいだ」
「へー、試してみます、どうもありがとう」
「こっちこそ、助かっただ」
でわでわと手を振って、お互いに離れていった。
ケン達が警戒を解くと、ノーミンは急いでダンジョンに戻って報告した。
「マスター、やっかいな連中が来るらしいだよ」
「やっかいって、どんな?」
「暗黒邪神教団と聖堂騎士団だそうだ」
「何その宗教戦争みたいな組み合わせは?」
「もっと性質が悪いかも知れないだ・・・」
「いあいあー」
 




