聖堂騎士団の猟犬
現在、ビスコ村には2個中隊の聖堂騎士団が配備されていた。
彼らは、村の教会を拠点としながら、ビスコ村での検問と、周辺の探索を行っている。
その教会に設置された『邪神教団対策本部』に4人の冒険者が訪れた。
「なんだ貴様らは?」
怪しい風体の4人組に、対策本部の受付に詰めていた騎士が誰何してきた。教会全体にピリピリした雰囲気が流れている。
「ギルドで依頼を受けた冒険者だ。捜索に加わるので、認識票が欲しい」
ハスキーは、必要なことだけを答えた。
「・・・ふん、そこで待っていろ。怪しい行動はとるんじゃないぞ」
騎士は4人を見比べると、あからさまに警戒しながら奥に連絡に行った。その後ろに歩哨として立っている二人の騎士は、無表情に4人を監視している。
「・・ちょっと、何よあれ、態度悪いわね・・」
「・・敵が邪神教団だからな。自爆テロを警戒しているんだろう・・」
「・・こんなとこまで態々自爆しに来ないと思うんだけど・・」
「・・わかんねえぞ、奴らにとっては不倶戴天の聖堂騎士団だ。最北部の拠点になるであろう、ビスコ村対策本部を潰せたら、本望かも知れねえぜ・・」
スタッチの冗談に、聞き耳をたてていた騎士の顔つきが変った。今にも腰の剣を抜きそうな気配だ。
「お前ら、殺気を向ける相手を間違えるな」
その時、奥の部屋から、1人の騎士隊長らしき人物が現れた。彼の登場により緊迫した雰囲気が緩和された。
「君達も迂闊な発言は控えてくれないか。今は部下達も神経質になっているのでな」
その隊長は、スタッチ達にも釘を刺してきた。
首を竦めてハスキーが謝罪をした。
「申し訳ない、以後は慎もう」
「それで、君達がギルドから派遣されたバウンティーハンターかね?」
「生死不問で賞金を稼ぐわけじゃないから、バウンティーハンターではなく、シーカーだな」
極力、戦闘には参加しないことを明言しておいた。後々、討伐隊に組み込まれて最前線に送り込まれては敵わない。
「それは残念だな。かなり剣も使えると見たのだが」
騎士隊長は、歩哨の騎士の殺気に反応して身構えた4人の動きを観察して、戦力になると判断したらしい。
「モンスター相手ならともかく、狂信者では勝手がわからないからな。遠慮させてもらう」
ハスキーは、隊長の煽てをいなして、あくまで偵察業務を主張した。
「まあ無理強いはすまい。ただ、現状はまったく手が足りていないということだけは覚えておいてくれ。騎士団はいつでも邪神教徒と戦う者を歓迎しよう」
そう言って、騎士隊長は認識票を4枚渡してくれた。
「その認識票は、身につけて1時間ほどで個人に固定される。それ以降は他人の手に渡ると消滅するので注意してくれ。それを見せれば聖堂騎士団の派遣団員としての証明ができるはずだ。作戦上の多少の融通も利かせてもらえるはずだが、それは現地の指揮者にもよるので、保証はしかねる」
「つまり、頭の固いのには効かないってことね」
「おい、ビビアン」
「かまわんよ、そのお嬢さんの言ったことは正しいのだからな」
どうやらこの隊長は話のわかる方らしかった。
「貴方の名前を伺ってもよろしいですか?」
最初に名乗ってもらっていないのに気がついたハスキーが、無礼になるかなと思いつつ聴いてみた。話の通り易い騎士は貴重だからだ。
だが、その質問はきっぱりと断られた。
「生憎だが、名を名乗ることは出来ない。奴らに特定されれば、逆襲を受けることになるのでな。君達も、できるだけ個人情報は伏せた方が良い。呪われでもしたらつまらないだろ」
騎士隊長は軽い口調で、重い話をしてきた。
「聞きたくなかったさね、そんな話」
ソニアがげっそりした顔で答えた。蛮勇を友とする彼女も、呪いや亡霊には弱かったらしい。
「すまないな、ただ教えないのも不誠実だと思ったのでね」
「いえ、貴重な情報に感謝します」
黙っていても良い事を、モチベーションが下がって依頼放棄する可能性を考慮しながら教えてくれたのだから、これはある意味、騎士隊長の好意であった。
ハスキーはそれを察して頭をさげた。
「我々には土地勘がない。君達には期待しているよ」
そう言って騎士隊長は巡回に出て行ってしまった。
「さて俺たちも仕事をするか」
教会を離れて、スタッチが呟いた。それをハスキーが止める。
「出立は、1時間後にする」
「おいおい相棒、いきなりサボりかよ」
普段なら逆な立場のハスキーをからかった。
「馬鹿ね、認識票の定着を待ってからってことでしょ。村のすぐ外で、知らない騎士団に誰何されても証明できないじゃない」
「おお、そういうことかよ」
「アタシは腹ごしらえしてからだと思ったよ」
「それも大事だな」
4人は食事をするべく、「酔いどれモズクガニ」へと向かって歩き出した。
それを影から追跡する1人の商人風の男が居た。
彼は4人が酒場に入ったのを見届けると、その店の裏口へと姿を消していった・・・・




