クラスが決まった
鳥居の測定でカルマが0だと判明した僕は、案内の兎に連れられて別の場所にやってきた。
そこは神社の境内にある社に似た建物で、建築様式は古いのに妙に新築っぽいアンバランスさが目立っていた。大きく開いている正面の扉から入ると、そこは床張りの広い部屋で、奥に作務衣を着た老人が一人座っていた。
「ええと、失礼します、ここで話を聞いてくれるとうかがったんですが?」
恐る恐る声を掛けると、老人は長く伸ばした白い髭をしごきながら
「うむ、ここで合っておるよ。まあ立ち話もあれじゃて、そこに座りなさい」
と座布団を指して返事をしてくれた。
冷たい床に座らなくていいのは嬉しいんだけど、これ、正座した方が良いんだよね?どう見ても神様っぽいし.
10分以上正座してると足が痺れるんだけど話が長くなるならどこかで胡坐に崩さないと、とか無駄な事を考えながら老人の正面に座った。そしたら老人が興味深そうに僕を見ながら
「なるほどのう、変わっておるのは業だけでなく思考もか」
とかなり失礼なことを言ってきた。ちょっとむっとした僕はつい言い返す、
「人の頭の中を読み取って、変人扱いはどうなんですか?」
すると老人は朗らかに笑いながら語りかけてきた。
「ほっほっほっほ、思考を読まれていることに驚きも恐れずもせずに言い返してくるとはのう。しかもワシが神格である可能性を踏まえたうえでの発言とは」
微笑んでいるけど目は笑っていないね。さすが神様、プレッシャーがすごい。
「ご存知かと思いますけどこの姿勢は10分が限度なんで話を進めてください」
僕もにこやかな笑顔に精一杯の皮肉をこめて返した。老人のこめかみがピクピクしているけど無視で。
すると老人は「最近の若い者は正座もろくにできんのか」とか「なぜ私の考えがわかるのですか!と驚くとこじゃろう」とかぶつぶつ愚痴をこぼし始めた。
こうなると長くなるのは近所の将棋会館の爺さん達と一緒だ。やれ敬老精神だの、嫁が鬼だの、延々と日頃の不満をぶちまけてくる。僕はそうそうに胡坐に足を崩して、部屋の中を見回す作業に取り掛かった。
内装は神道を基本に華美な装飾をできるだけなくした感じ。はっきりいって断捨離マニアの部屋っていうか何もない。
そのがらんとした部屋の隅に一つだけ不思議な物が置いてある。確か水盆ていう占いに使う道具だったはず。あれって神道系だったっけかと記憶を探っていると、老人の意識がこちらに戻ってきた。
「よくもそれだけ完璧にワシの存在を忘れて他のものに興味をもてるのう。これもある種の才能か・・・まあよい、お主だけに時をとるわけにもいくまいて」
そう言うと老人は居住まいを正して厳格な声で語りかけてきた。
「汝に申し渡す」
そう言いながら僕を見ている。
「汝に申し渡す!」
さらに同じ事をいいながら僕の足元を見ている。
「今から汝に申し渡す!!」
僕はしぶしぶ胡坐から正座に戻した。老人の頬がピクピクしているけどそこは無視で。
「汝、善行を積まず、されど悪行を為さず、その業きわめて稀ながら善悪の均衡をとる。その魂は極楽・地獄どちらにも属する資格無し。よって異世界への輪廻転生を行うものとする!」
「うわあ、ぶっちゃけ前例がないから丸投げしましたね」
「そうとも言う!」
「悪びれもしないよ、この神様」
老人はそそくさと部屋の端から水盆を運んでくると、僕の前に置いて語り始めた。
「これはお主の来世を決める為の道具じゃ。水面に手をかざして成りたい自分を念じてみるが良い」
言われた通りに手をかざして念じると幾つもの波紋が広がってゆき、水盆の縁に当たって撥ね返り、複雑な水紋を形作った。どうやら神様にはそれが情報として読み取れるようだ。
「ほうほう、適性のある職業は・・・モンスターハンター、フードファイター、ダンジョンマスターとでたな」
「とても魅惑的なラインナップなんですが、転生先はファンタジーな世界なんでしょうか?」
「うむ、この星もだいぶ文明化してユラギが無くなってきたからのう、ここは初心に帰って剣と魔法を堪能するのも一興じゃろう」
んん?何か言い方に引っかかるけど、今の僕は転生クラスの事で頭が一杯だった。
「神様、神様、質問いいですか?何問まで聞けますか?質問にポイント使いますか?NGワードありですか?いまので4つ使ったなとか言ったら怒りますよ」
怒涛のごとく話しかける僕を神様が押しとどめる
「なんじゃお主、性格変わっとらんか?興奮しすぎじゃ、少しは落ち着け。あと勝手に怒り出すな、それとNGワードってなんじゃ?」
「してはいけない質問をすると命が減ります」
「怖!、なんじゃその悪意に満ちた転生は?」
「昨今はそういうデスゲーム的な転生も多いんです」
そのあと神様と二人で最近の転生パターンの話で盛り上がった。この神様も現世のラノベ文化に興味があるらしく、転生神の役も自分から立候補したらしい。 というか転生神て役職なんだ、しかも普段は持ち回り制らしい。
今はほとんどの神様が出雲に慰安旅行に行っているので、希望すれば大抵の役職は任官できるとの事。そんな神界よもやま話も一段落して僕の転生先のクラスに話を戻す。
「このモンスターハンターというのは一狩りしてきてこんがり肉のクラスですよね?あっと獲物を調理するのはフードファイターの方かな?」
僕の質問に神様は首を横に振る
「いんや、食材として魔物を狩るのはフードハンターじゃな、フードファイターは食べる方じゃ」
「大食い選手権かよ!却下で」
「そういうが適性がでたのはお主だからのう」
「くっ!だが断る!!」
「まあ、あえて嫌いなクラスを選ぶこともあるまいて。残りはダンジョンマスターじゃが、これはまた特殊なのがでたのう」
「やはりめずらしいですか?」
「希少度でいえば超レア、だが生存難易度もぶっちぎりの特Aじゃ」
神様が難しい顔して聞いてくる。
「その様子じゃとダンジョンマスターを選びたいようじゃが、はっきりいって茨の道じゃぞ?しかもお主には初期ボーナスに転換できる業もない。課金が基本のMMOで無料体験版だけでプレイを続けるようなものじゃ」
とてもわかり易い説明をもらったけど、せっかく引き当てた超レアクラスなら、縛りプレイでも挑みたいのがゲーマーのサガだよね。
「それでも僕はダンジョンマスターになりたいです!先生!」
「誰が先生じゃ・・・まあよい、本人が希望するならワシは止めんよ。生涯に一度の願いなら、聞き届けるのがワシの役目じゃ」
おや?今さらっと神様が重要な情報をもらしたよね?この神様もしかしてかなりの神格の方かも・・・
まあいいか、多分ここを離れたら2度と会わないだろうしね!