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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第7章 冥底湖の魔女編
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腹が減ってるだろ、これでも食いな

 ビスコ村の冒険者ギルドの1階には、受付カウンター、依頼掲示板、素材買取カウンターの他に、相談用の個室が3つ用意されている。

 パーティー内の揉め事や、他の冒険者とのいざこざ、高額な依頼料や買取金額の交渉、そしてギルド側との裏取引など、よそ様に聞かれたくない内密な話をする為の防音完備な会議室である。


 今日もそこで、行方不明になった同行者の安否を確認する、事情聴集という名の尋問が行われていた。


 「いいかげん、本当のことを話して楽になったらどうですか?親御さんも悲しんでいますよ」

 完全に、仲間を殺したあとに森の中に埋めて、依頼報酬の独り占めを図った犯人の扱いである。

 だが、言われた冒険者は、てんで気にせずに、食事として出されたカツ丼を掻き込んでいた。


 「もぐもぐ、だからボクはやってないし、魔女に呪われてからの記憶もないっていってるじゃんか、もぐもぐ」

 「せめて他の二人がどうなったかぐらい覚えているでしょう、まがりなりにも仲間だったのですから」

 「もぐもぐ、んーーボクより先にグドンのやつが子豚にされてたかなー、次がボクで、そのときはヘラはまだ元気だったはず。そのあとは・・・わかんないよ、もぐ・・あ、これお替りちょうだい」

 受付嬢は冷たい視線を投げかけたが、気付いていないハーヴィーにため息をつくと、後ろの職員に合図して追加を用意させた。


 「その状況でヘラさんが逃走に成功するはずもないですし、魔女とやらに捕まった可能性が高いですね・・・」

 「もぐもぐ、だろうね、このボクでさえ隙をつかれて呪われたんだ、あのヘラじゃあ1人で逃げ出すこともしなかったろうから、つかまったね、もぐもぐ」


 カツ丼を幸せそうに頬張るハーヴィーを睨み付けながら、受付嬢は後悔していた。ヘラとグドンは要領は悪いが、根が正直者で他人が面倒臭がる仕事も黙々とこなす、ギルドにとっては有り難い冒険者だったのだ。

 ここ最近は、組んだ相手が悪くて困窮していたようなので、ついうっかり口先ハーフリングと組ませてしまったが、その結果が未帰還となってしまった。

 ギルドとしては、あの二人が帰還して、このお騒がせハーフリングが行方不明の方が、数倍良かったのだが現実は無情である。ハーヴィーは腰のポシェットにちゃんと依頼のナイトシェイドを持ち帰ったので、達成料を渡さないわけにもいかない。

 本来なら3等分されるはずの、その半分でもいいから他の二人の捜索費用にあててくれれば良いのだけれど・・・


 「はい、ごちそうさま。あの二人が戻ってきたらボクにも知らせてよ。まあ望み薄いと思うけどさ。だってボクぐらい強運の持ち主でないとね」

 確かにこのハーフリングは運が良かったのだろう。だがそれは彼の強運だけではなく、誰かの犠牲の上に成り立っている可能性を考慮していない。

 たぶんヘラが魔女と交渉してハーヴィーだけ逃がすのに成功したのだろう。もしくは代償としてグドンも奴隷にされたか・・・


 「さて、次はどんな冒険をしようかな・・」

 すでに2人のことは過去の出来事にしてしまっているハーヴィーにイラついて、受付嬢は彼の額に指を近づけた。


 「あ、蚊が」

 ズビシッ!

 「ゲロッ!」

 額を真っ赤に腫らして、椅子に腰掛けたまま失神したハーヴィーを、ギルドの職員は誰も助け起こそうとはしなかった。


 少しだけ憂さ晴らしできた受付嬢は次の業務へと移ろうとした。そこで会議室の天井の片隅を訝しげに見上げる。

 何も無い宙の一点を、じっと見つめる瞳が一瞬だけ光ると、あとは興味を失ったように部屋から出て行った。



 オババのダンジョンにて


 「ひっひっひっ、どうやら目論み通りにギルドに保護されたようじゃのう。しかも多少はお灸も据えられたようじゃし、これで許してやるとするかの」

 オババは鏡を使って冒険者ギルドの内部を遠見していたが、満足すると接続を解除しようとした。


 「うん?なんじゃこの娘、呪文も唱えておらんのにワシの遠見に気がつきおったぞい」

 ギルドの受付嬢らしき女職員が、確実にこちらの視線を探知して見返していた。


 「ちい、逆探知されておる、強制終了じゃ」

 鏡はすぐに元の状態に戻った。

 「ビスコ村のギルドには、思ったより使える者がおるようじゃの。覚えておくわい」

 そう呟くと、オババは部屋の奥に身体を休めに向かった。



  再びビスコ村冒険者ギルドにて


 「ハーヴィーが戻ってきたって?」

 慌しくギルドに飛び込んできたのは、ビッグファミリーの長女か次女のどちらかだった。

 受付カウンターで日常業務に戻っていた受付嬢に、大声で確認してくる。


 「ギルド内ではお静かに。そして予想通り遭遇は敵対的かつ一方的に終了したようです」

 「やっぱり駄目だったかーー」

 床に両手と両膝をついて項垂れるのであった。


 エルフとの戦いで、運動機能に爆弾を抱え込むことになった兄弟を治療する為に、ウィッチクラフト(魔女の呪術)の使い手を捜していた彼女は、一縷の望みを託して、ナイトシェイドを採集しにいったハーヴィーのパーティーの帰還を待っていたのだ。

 もしかしたら現地で魔女と接触し、その居場所を聞き出してくるかもしれない。そうでなくても魔女の目撃情報だけでも欲しかった。

 けれどやはりハーヴィーでは、もしかは起こらなかったようだ・・・


 「お悔やみ申し上げます・・」

 「いや、まだ生きてますって」

 「それでも冒険者としては亡くなったも同然かと・・」

 「それはそうなんですけど・・・」

 一応場所を会議室に変えて、受付嬢はハーヴィーの顛末を話して聞かせた。


 「じゃあ、魔女らしき人物とは接触はしたんですね!」

 「報告ではそうなっています。ただ問答無用で冒険者を排除する方向で動いたことから、友好的な遭遇は難しい相手だと思われます」

 「それってハーヴィーが悪さしたとか、ムカつくことを言ったとか、薬草を踏んで台無しにしたとかじゃないんですか?」

 「その可能性もありますが、相手を怒らせたことは確実なので、謝罪も受け入れてもらえないと思います。しかも同行した2名はいまだに未帰還です・・」

 「それってハーヴィーがバッサリやったんじゃあ?」

 冒険者の間でもとことん信用のないハーヴィーだった。


 「聞き取り調査もしましたが、どうやらシロですね。例の魔女に殺されたのか、奴隷として捕まったと思われます」

 「そちらも大変そうですね・・」

 「もしどこかで情報をつかんだら知らせてください。行方不明になった片方の冒険者は、もしかしたらウィッチクラフトの使い手にコネがあるかも知れない人物なので」

 「本当ですか!名前、名前を教えてください。あと見た目と年齢とスリーサイズ・・・は必要ないか・・」


 食いつく冒険者を宥めながら、捜索願いの時に提供される情報を伝えた。

 「へー、ナーガ族のハーフですか。見たことなかったなー」

 「貴女方は家族以外とパーティーは組みませんものね」

 「それでも商売敵の動向には目を光らせてはいたんですけどね」

 「彼女はもっと地味な依頼をこなしていたから、貴女方とは競合しなかったはずです」

 「なるほど、このの呪いを解いて助け出せば、お礼にナーガ族の呪術師を紹介してもらえるってわけね。よし!がんばるぞーーー」


 「えっ?そんなことまでは言ってませんが・・・いない・・」

 一人合点して部屋を飛び出していった冒険者を、受付嬢は呆然と見送っていた。

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