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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第7章 冥底湖の魔女編
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光速の指弾

 「ハッ!」 キンッ

 「ヤッ!」 キンッ

 「クッ」  トスッ

 避け切れなかった3本目の短剣を、肋骨に固定したリンゴに刺したまま、ロザリオは床に崩れ落ちた。

 その頭には、視覚と聴覚を制限するために鉄仮面が被せられていた。


 「無理だ・・ただでさえ気配に頼るしかないのに、隠密したアズサたちの一斉投擲を全て防ぐことなど・・」

 「ふん、もう弱音か、脆くなったな」

 見下ろすヒルダの視線は氷より冷たかった。


 「せめてモフモフ成分を補給させてください!もう12時間もお預けで・・・」

 ロザリオが震える手を握り締めながら、何かに耐えていた。


 「駄目だ、この課題をクリアするまで禁止の約束だ」

 鈍ったロザリオを鍛え直すという名目で始まった、ヒルデガルド大佐のブートキャンプは過酷を極めた。

 後学のためにと参加したエルフ6人は、最初の試練で全員脱落した。終わるまでモフモフ禁止を言い渡されたロザリオは怒涛の進撃を続けたが、第3の課題でつまづいたのだった。


 精神の極度な集中を必要とするこの課題は、焦れば焦るほど、成功しなくなる。景品欲しさに突っ走ってきたが、いつまでもゴールが遠いと、今度は逆にモチベーションが下がる。

 すでにロザリオの精神のHPは0に近かった。


 「技や体力に頼るからこうなるのだ」

 冷たく言い放つヒルダ大佐の言葉に、ロザリオ軍曹はつい反論した。

 「この課題は、第3の感覚器がなければ無理だ・・」


 「ふんっ」

 ヒルダ大佐は、ロザリオ軍曹の鉄仮面を引き剥がすと、自分が被ってゴブリン同心達の中心に立った。

 その胸ポケットにはリンゴが一つ入れてある。

 3人の隠密達が、気配を消して短剣を構えた。


 静止したまま神経を尖らせて飛来する短剣を迎撃しようとしたロザリオ軍曹とは違い、ヒルダ大佐は、小盾と長剣を構えたまま、ゆっくりと旋回していた。

 そして3人が一斉に、けれども音も無く短剣を投げ放った瞬間・・・


 「ハッ!!」 キンッキンッキンッ


 ほぼ同時に、3本の短剣が盾と剣により弾かれて床に転がっていた。


 唖然とするロザリオ軍曹に再び鉄仮面を被せると、ヒルダ大佐が命じた。

 「続けろ」



 その光景を、投擲の交代要員として控えていたワタリと、親方をモフって癒されているクロスが見つめていた。

 「ワタリ君には出来そうかな?」

 「無理っすね、2本でもはじけるロザリーが異常っす」

 「でも僕のヒルダは3本成功させたよ?」

 「あの方は例外っす。エルフとか剣士とかそういう範疇を越えているっす」

 「なんか人外扱いされてるけど、でも別に超常能力を発動したわけじゃないよ」

 「そうっすね、やってることは単純っす」

 「おや?ワタリ君にはわかるのかい?」

 「あれは態と隙を見せて3人の攻撃のタイミングを誘導しただけっす。見えない敵でも仕掛けてくるのがわかっているなら迎撃もできるっす・・・たぶん」


 「正解だよ、ワタリ君も僕のヒルダに鍛えてもらったらどうだい?いいところまで行けそうだけど」

 「遠慮するっす、まだ死にたくないっすよ」

 二人の視界にはボロボロになったロザリオの姿が映っていた。


 「あれ、止めなくていいんすか?」

 「大丈夫、久々の親娘のスキンシップだから、もう少し満喫したいだろうからね」

 「・・・止めると怒られるっすね」

 「・・なんのことかな・・」


 ワタリはロザリオの冥福を祈った・・・



 その頃、ビスコ村では


 冒険者ギルドで小さな騒ぎが持ち上がっていた。


 「捨ててきなさい」

 受付嬢が、ミカン箱を担ぎこんできた冒険者の一団に、冷たく言い放った。


 「いや、でも見たことのない変種だし、新発見なら報酬も・・」

 リーダーらしき青年が、しどろもどろに答えていた。

 彼らが運び込んだミカン箱の中には、首から木札をぶら下げた蛙頭のハーフリングが入っていたのだ。


 「そんな新種いません。元の場所に捨ててきなさい」

 「でも、首の木札には『誰か拾ってください。ハーヴィーより』って書かれているし・・」

 リーダーの影に隠れるようにして、若い女性が口を挟んだ。


 「ハーヴィー?」

 「ひいっ」

 受付嬢に睨まれただけで、その女冒険者は黙ってしまった。

 「ケロケロ」

 ハーヴィーは能天気に答えていたが・・・


 受付嬢は、慎重に、謎の蛙人間に近づくと、木札の文字を読み取った。さらに裏返すと、そこにも何か書かれていた。


 『本気のデコピン3発で元の姿に戻ります』


 「ふむ・・」

 少し考えてから、受付嬢は蛙ハーフリングの額に向かって指を弾いた。


 ズビシッ!  「ゲロッ!?」

 思わず周囲の冒険者全員が額に手を当てるほどの打撃音が響き渡った。


 脳震盪を起こしかけた蛙ハーフリングに向かって2撃目が飛ぶ。

 その瞬間、気の弱い冒険者は、耳を塞いで目を閉じた。


 ズビシッ!!  「ゲゲロッ!!」

 失神もできないほどの激痛からのがれようと、ミカン箱から飛び出そうとする蛙ハーフリングの肩を、すばやく押さえ込むと、とどめの3撃目が放たれた。


 ズビシッ!!!  「ゲロッパ!!!」 ボフッ

 奇妙な叫び声とともに気絶した蛙人間であったが、その姿は元のハーフリングに戻っていた。


 「なるほど、ハーヴィーさんのようですね。事情を聞かせてもらいましょう」

 ぐったりと項垂れるハーフリングの襟首を掴みあげると、受付嬢はギルドの奥へと消えていった。


 唖然と見送る冒険者達は、その場に取り残されたままだった。

 「俺らの報酬は?・・・」

 

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