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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第7章 冥底湖の魔女編
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空から降ってきた少女

 ロープによる降下作戦は、まずその先端を固定する場所探しから始まった。

 開口部をぐるっと回って15m下の横穴を確認すると、その直上まで移動してから適当な岩を探し出す。


 「これ、普通はぶっとい樹にまきつけねえか?」

 「そうしたいのはやまやまだが、生憎俺たちの体重を支えられそうな樹木が生えていない」

 スタッチの質問に、周囲を指差しながらハスキーが答える。


 「確かにこの潅木だと、根っこごと引き抜けてきそうだな」

 「で、ハスキーが岩を叩いて回ってるのはなんでなのさ?」

 今度はソニアが疑問を投げかけてきた。


 「岩の内部のひび割れを確認している。この台地地形は剥落しやすい岩でできているので、見た目よりずっと脆いんだ」

 そういいながら叩いた岩が、ひび割れて二つに砕けた。


 「調査隊はそれで2名墜落したらしいわね。あと垂らしたロープが開口部の縁で擦れて切断される事故もあったみたい」

 「うげ、緩衝材をなにか咬ませないと駄目だな、そりゃ」


 漸く満足の行く岩を見つけたハスキーは、慎重にロープを巻きつけると、何度か体重をかけて引いてみて納得したらしい。

 「最初は俺が降りる。問題なければ次はビビアンを釣り降ろしてくれ」

 「自分で降りられるわよ!」

 「両手が塞がっている魔術士は無防備だ。吊り下げられた状態なら、いざと言う時に魔法が撃てる」

 「うっ・・仕方ないわね、今回はそれでいいわ」

 登攀能力に疑問のあったビビアンをうまく言いくるめたハスキーに、他の2人が親指を立てた。


 「では行く。横穴に何か居たら交戦せずに戻るから、そのときは援護してくれ」

 「あいよ」

 ハスキーはロープを掴むと、するすると降りていった。


 問題なく横穴にたどり着くと、穴の縁に足を乗せて、中を覗うが、気配はなかった。ロープを1度、揺すって安全の合図を送る。

 しばらくすると、腰をロープで縛られたビビアンが、そろりそろりと釣り降ろされてきた。

 手が届く範囲に到着したら、抱き抱えて横穴に運び込む。

 横抱きにされたビビアンは、何もいわずにハスキーにしがみ付いていたのであった。


 「もう大丈夫だから、自分で立ってくれないか・・」

 いつまでも抱きついているビビアンに、困惑して声を掛けると、顔を真っ赤にしてわめきはじめた。


 「べ、別に高いところが苦手で目を瞑ってたんじゃないんだからね」


 その言い訳だと、ハスキーにお姫様抱っこされて嬉しかったことになるのだが、てんぱったビビアンは理解していなかった。

 そこに後続のソニアが降下してきた。

 「なに夫婦漫才してるのさ、もうここは相手の腹の中なんだよ」

 「め、夫婦漫才なんかしてない!」


 そのビビアンの叫びは、思いのほか遠くまで響き渡った。


 開口部で最終チェックをしていたスタッチにも、その声は聞き取れた。それと同時に、後ろの森から、数羽の鳥が啼きながら飛び立つ音も聞えた。

 「おいおい、俺だけハードルあがってないか?」

 上空には飛び立った大型の鳥が3羽、旋回しながら周囲を警戒している。


 「やつらが舞い降りて来る前に、合流しとかないとな」

 手馴れたロープ捌きで、スタッチも横穴へと降下していった。



 ゴブリンホール・コアルームにて


 「ダンジョンで大声出すとか、初心者なのか?」

 4人組の侵入者は、最近では珍しい正攻法で第一階層の入り口に到達してきた。

 このダンジョンの中心部分は、直径30m、高さ12mの巨大な円筒形の部屋を、5つ重ねた構造をしていた。第一から第五までの各階層に1つずつ横穴があり、周囲に洞窟を張り巡らしてある。

 フライの呪文などでショートカットしないのであれば、最下層にたどり着くまでに3回は、15mの崖下りをしなければならない。

 まあ、初心者冒険者なら、第一階層から第二階層の横穴へ続く洞窟の途中までが限界だろう。


 そう考えてランク1のゴブリンを6体迎撃に向かわせたが、テンポ良く倒されてしまった。

 「装備は量産品の青銅シリーズのようだが、戦闘技術はそれなりに鍛えてありそうだな。しかし後衛の魔法少女は何もしないけど、攻撃呪文は無いタイプなのか?」

 ダンジョン内をモニターしていたボンが、頭を捻る。


 「初期装備で縛りプレイか?意味わからんな」

 常識的なダンジョンコアであるボンには、中堅冒険者が身包み剥がれて格安装備でクエストを請け負っていることなど想像もできなかったのである。


 「少し手強いのを当ててみるか・・・」

 ボンは侵入者の力量を測るために、次の刺客を送り込むことにした。



 その頃のビビアンチーム


 「本当にゴブリンが出てきたぜ。しかもどノーマル、しょぼ装備で」

 「あれでも俺らと同等だがな」

 「ゴブリンと同じかよ・・」

 スタッチは項垂れた。


 「ビビアン、ディテクト・マジックはどうだ?」

 実は、ゴブリンホールの開口部から呪文で探知すれば、依頼が済むかと試してみたが、状況が違いすぎて比較ができなかった。

 「・・・うん、間違いない、この空間にも微量に反応する感じは、例の場所といっしょだわ」


 「そいつは朗報だぜ。これでギルドの依頼は達成したから、とっととずらかろうぜ」

 「生憎、このまま逃がしてくれそうにはないってことさね」

 ソニアが洞窟の奥からやってくる新手に気付いて警告した。


 新しく現れたのは、スノーゴブリンの集団だった。

 しかも装備は、黒鋼の武器に、黒鋼の胸当てと盾を揃えた精鋭のようだった。


 「こいつは・・・」

 スタッチは彼我の装備の差を考えて絶句した。

 「後衛には弓使いもいるのか・・・」

 ハスキーは、敵の編成にも目を奪われた。

 「この革鎧だと防ぎきれそうにないさね・・・」

 ソニアは自分の鎧を見ながらため息をついた。


 そして・・・


 「「「鴨がネギ背負って来やがった!」」」


 目の色を変えて、スノーゴブリンの集団に襲い掛かっていったのである。


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