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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第7章 冥底湖の魔女編
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未知の飛行生物が

 翌朝、キャンプを畳んで荷物を背負うと、ビビアン一行は目的のゴブリンホールへと向かった。

 初めてチロル渓谷に探索に来た彼らであったが、冒険者ギルドで見た地図には、イチゴポッキー川を遡るルートが明記されており、道に迷う恐れはなかった。


 「だけど、この距離でゴブリン狩り放題の場所があったら、密猟でもなんでも入り込む冒険者がいそうなもんだが、どうなっているんだい?」

 移動中に振り向いて尋ねるソニアの顔を見て、ビビアンが笑いをこらえながら答えた。


 「ぷぷっ、密猟者とか腕試しの脳筋とか居たみたいだけど、そんなに簡単にはゴブリンホールへは潜れないのよ・・ぷっ」

 ソニアはビビアンの可笑しな反応に、訝しげに隣のハスキーを見るが、彼は得意のポーカーフェイスで表情を読ませない。

 スタッチはなぜか足早に前に出て、こちらを振り向こうとはしなかった。見たら吹き出してしまうのがわかっていたからだ。


 「なんだ、皆して、アタシだけ除け者扱いさね・・」

 そう拗ねるソニアの額には炭で「蛮」と書かれていた。

 昨晩の打ち合わせの最中に、1人で居眠りした罰としてハスキーが器用に書きこんだのだ。


 本人が気付くまで、黙っておこうと3人で申し合わせたが、ビビアンとスタッチは、面と向かい合ったら思わず笑ってしまいそうになるので、できるだけ顔をそらしている。

 ハスキーだけは平然と受け答えするので、その様子を見た二人が、また吹き出しそうになるのを必死に堪えていた。


 この苦行は、ソニアが川面に映った自分の顔に気が付くまで続いたのであった・・・



 「こいつがゴブリンホールかよ・・」

 渓谷の中でも一際高い岸壁の上に立った4人は、そこに存在する奇妙な風景に絶句した。


 緑の絨毯に覆われた岩盤の途中にポッカリと縦穴が開いていた・・

 

 ドワーフが掘ったとか、長い年月をかけて自然が穿いたとか、色々噂されていたが、この景色を現実に見た者は誰もが否定したであろう。

 例えるとしたなら、積もった雪の上に、熱したコインを落とした跡とでも言えばいいのだろうか。

 もしこれを人の手で造りだすとしたなら、神話級の魔導師が、直径30mのシリンダー型超高熱火炎呪文を叩き込んで、岩を蒸発させる必要がありそうだった。


 およそ60mあると言われる、縦穴の底を見つめながら、スタッチは呟いた。

 「これをゴブリン狩る為に降りた馬鹿がいたのかよ・・」

 「いたのよ、過去に何十人も・・」


 調査隊ならまだ理解できる。これがいったい何なのか・・知的好奇心に駆られる学者や宗教関係者は後を断たなかったはずだ。だが、その調査隊も帰還せず、ギルドからも立ち入り禁止を言い渡されて後に、突っ込む初心者とか無謀にもほどがある。


 「確かにこいつはゴブリン亜種の素材集めとかで軽々しく密猟できる場所じゃないさね」

 「だいたい、降りる足場も手掛りもないのに、どうしろと言うんだ?」

 逸早く降りる方法を模索していたハスキーが、あきらめてビビアンに尋ねた。


 「15mほど下に横穴があるから、まずそこにロープで降りるそうよ」

 60mの絶壁にロープを垂らしてランペリングする姿を思い描いて、3人はうんざりした顔つきをした。

 「他に方法は無いのかよ」

 「あとは、壁を這い降りる・・」

 「「「却下」」」

 「斜めから助走をつけて飛び降りる・・」

 「「「絶対却下」」」

 「住み着いている猛禽類に捕まって(捕まえられて)降下する」

 「「「できんのかよ!」」」

 「成功した人はいたみたいね」

 「「「マジですか!」」」


 「まあ、じゃあロープで降りるとして、4本繋いで底まで降りたらダメなのか?」

 スタッチは、途中の横穴に降り立つより、一気に縦穴の底まで降りる策を提案した。


 「んー、それも試した人がいたんだけど、問題が二つあって・・」

 「二つしか問題ないのか・・」

 「一つは底にいるゴブリンがめちゃくちゃ強いらしいってのと」

 「強いゴブリンねー、ジェネラルあたりがいるのかね?」

 「もう一つは深度20mぐらいからグレイ・ウーズが群生していて、ロープだろうと鉄の鎖だろうと、溶かしちゃうんだって」

 「「「ダメじゃん!」」」


 「フライの呪文はどうなんだ?」

 ハスキーが飛行の呪文で突破できないか尋ねてきた。


 「運が良ければ底まで行けるらしいわね。ただし、運が悪いとゴブリンシャーマンに呪文を消されて墜落するみたい」

 「賭けるには高い代償だな」


 「その最初の横穴から下に降りれるのかい?」

 「狭い下りの洞窟が続いていて、かなり深い場所でまた縦穴に合流してるって」

 「ねるほどね、無茶するんでなければルートは一つってわけさね」

 壁を這ったり、飛びついたりした馬鹿は無視しても、ロープをスライムに切られたり、飛行の呪文を消去された先人がいたから、比較的安全なルートが開拓されていた。

 ソニアは心の中で冥福を祈ると、3人に語った。


 「堅実策でいくで、いいんだね」

 反対意見はでなかった。



 その頃のゴブリンホール


 「ん?敵性反応か・・深度0に4体・・どうやら冒険者のようだな」

 ダンジョンコアのボンが、早々に侵入者を探知した。


 「マスター、久しぶりのお客さんだ。4人組の冒険者で侵入経路は正規ルートだな」

 その報告に対する反応は、少し遅れてやってきた。


 『いま手が離せないから、適当にあしらっておきなさい』


 「了解した、マニュアル通りに歓待する」


 『じゃあ切るわよ。 カアーーン よし、抜けたわ、回れ回れ!』


 「・・・うちのマスターは何やってるんだ?・・・」

 


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