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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第7章 冥底湖の魔女編
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ケモナー・イン・ザ・ヘブン

 宴会の隠し芸大会は、さらに混沌の度合いを深めていった。


 「それではエントリーナンバー3番、「チームシロクロ」です。出し物は「残像」だそうです」


 合図とともに、舞台に冬狼のケンが歩みだして、観客に向かって一礼する。それを見たモフモフ好きから歓声があがった。

 するとケンが右方向にささっと早足で歩き出す。その背後に一瞬だけ黒い残像が浮かび上がって消えた。

 「「えっ?」」

 いくらケンの動きが素早くても、この狭い舞台でそんな速度で動けるわけもなかった。

 驚く観客を尻目にケンは、今度は速度を増して左に走り戻る。するとケンの走った軌跡を辿りながら、2つに増えた影が現れて消える。

 「「おお!」」


 さらにケンが再度右に疾走すると、その後方に3つの影が次々に現れては、消えていった。観客の目には確かにケンの残像のように見えたのだった。

 そして中央に戻ったケンの影の中から、3体のシャドウウルフが姿を現して一緒に観客に礼をすると、惜しみない拍手が贈られた。


 「素晴しい「チームシロクロ」の演技でした!審査の方も高得点が期待されます」


 「ハイド・イン・シャドウを駆使した見事な演技でしたねー」 9点

 「ほへー」 9点

 「あれじゃな、3回目は1匹が逆向きにでると、もっと受けたじゃろうに」 7点


 「でました、25点です。現在のトップに躍り出ました!」

 「3組しかおらんのに暫定1位もないじゃろう・・」

 「細かいことはいいんです。出場選手8名なのに6位入賞で持ち上げるのと一緒ですよ」

 「あれもワシはどうかと思うぞ、言い換えれば下から3番目じゃから・・・」


 「はい!そこまでです。これ以上はオフレコでお願いします」

 「おお、あれじゃな、記者に話をしたのに記事にしてはイカンという謎の・・」

 「オババさん、どこにでも噛み付くのは止めた方が幸せですよ・・」

 「なんの、毒舌が吐けなくなったらワシも終わりじゃよ」

 「生涯、意地悪婆さんですか」

 「嫌われてこそ、浮かぶ瀬も在れ、じゃな」

 「それ違うような・・」



 「さて気を取り直してエントリーナンバー4番、「穴熊ファミリー」の登場です」

 「しかし獣率高いのう。さては、お主、ケモナーじゃろう」

 「いえ、その尊称はあちらの観客席の方に贈ってあげてください」


 ウルフチームの次に穴熊ファミリーの登場とあって、ロザリオと配下のエルフ達のテンションは最高潮だった。

 それぞれに推しメンが居るらしく、サインの代わりに肉球の押されたお面を、団扇の代わりに振っていた。


 「なんじゃ、あの連中は?」

 「親衛隊だそうです・・」

 「それは王や皇帝を護る近衛兵の俗称じゃろう?」

 「時代の移り変わりは、時として理解できない変遷をもたらすものなんです」

 「いくらなんでも変り過ぎじゃろう・・」


 遠い目をする二人を置き去りにして、舞台では穴熊ファミリーの演技が始まっていた。


 親穴熊が4匹で大きな車輪を組み上げ、子穴熊が3匹で小さな車輪を組み上げる。親車輪がゆっくり回転しだすと、その輪をくぐる様に子車輪が横切っていった。

 さらに2つの車輪が併走したかと思うと、子車輪がぴょんと跳ねて親車輪の内側に納まってしまう。

 ゆっくり回転する親車輪の内側を逆回転で転がる子車輪に観客席から大きな拍手が沸いた。

 最後にパッとファミリー全員が繋いでいた手を離すと、綺麗に親子2段で積み重なって着地してみせた。


 「「ブラボー!!」」

 ケモナー達の歓声が会場に響き渡る。

 「素晴しいよ、本当に素晴しい。ここは夢の国のようだね」

 感動に我を忘れて穴熊ファミリーをかき抱く、一人のエルフが居た。


 「ええっと、誰だっけ?」

 ロザリオの隣には配下のエルフは6人ちゃんと並んでいる。彼らが鬼軍曹を差し置いて、舞台に上がることはありえない。

 そう思ってロザリオを見ると、こそこそと不審な動きで部屋から逃げ出そうとしている。


 「ああっと、まさか・・」

 「ぱぴー」

 ああ、やっぱり・・いつの間に到着してたのかな?

 「けもなー?」

 穴熊ファミリーの演技が始まる直前ね・・ゲスト認証はだしてあるんだね。

 「もちのろん」

 それで、父親だけなのかな?

 「まみー」


 コアが示した先には、部屋から逃げ出そうとしたロザリオを片手で掴み上げる、エルフの女騎士がいた。



 宴会の会場は、急遽、説教部屋もとい親子の面会会場に替わった。

 関係のないメンバーは料理の皿や酒の壷を抱えて、それぞれの寝床に引き上げていった。

 オババも守護者を引き連れて帰るらしい。


 「ありゃあ、白雪の鬼姫じゃろう。くわばらくわばら」

 どうやらロザリオの母親はオババも避ける女傑のようだった。

 慌しく、ナイトシェイドを受け取ると、ハーヴィーを連れて出て行こうとする。


 「心配せんでも約束は果すのじゃよ」

 ハーヴィーは状況が分かっていないのか、守護者からコオロギを与えられて満足しているようだ。

 「ビスコ村の近くで解呪して、うまく冒険者に保護されるようにしてやるわい。この中で見聞きした記憶は残っておらんじゃろう」


 「ハーヴィーをよろしく」

 「けろっぴ・・」

 「ケロケロ」

 コアの名残惜しそうな声に、ハーヴィーは能天気に返事をした。


 「馳走になったのう。もう会う事もないじゃろうが、早死にするなよ」

 「婆さんより先には逝かないさ」

 「ひっひっひっ、憎まれっ子世にはばかるじゃて」


 そう言い残してオババたちは去っていった。



 「あんな人でも居なくなると寂しいっすね」

 「僕は清々したけどね」

 「そういうことにしておくっすよ」


 訳知り顔のワタリを小突きながらダンジョンに戻ると、隠し芸大会に出場したチームのリーダーが待ち構えていた。

 「そうか、なんか途中で打ち切りになったんだったね」

 「バウ」 「ギュギュ」

 「まあ、アタイ達はケンに抜かれてたからいいんだけどな、ジャー」

 「うちもそうっすね」


 あのままなら穴熊ファミリーがトップになったと思うけど、まだ演技していないチームもあるわけだし、どうしようか・・

 「さんかしょう?」

 そうだね、参加したチーム全部に賞品を出そう。数が多いからその分、DPは少なくしてね。


 「やったぜ、大頭、太っ腹、ジャー」

 「バウバウ」 「ギュギュギュ」

 皆もそれで良いらしい。


 「よし、欲しい物が決まったら順番に申請してね」

 ワイワイと騒ぐメンバーに囲まれながら、僕は何か忘れているような気がした・・・

 「きのせー」

 だよね。



 その頃、説教部屋では・・

 「主殿、ヘルプ、ヘルプ・・・」

 ロザリオの苦難が続いていたのだった。

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