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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第7章 冥底湖の魔女編
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フルムーン旅行

 大森林を抜けて、さらに2日ほど旅した先にその湖はあった。

 ヘラジカが沢山生息していたので、「ヘラジカの湖」と呼ばれていたが、それも過去のことだった。最近は、スノーゴブリンの巻き狩りから始まって、グリズリーの徘徊、アイスオークの遠征、ツンドラエルフの軍事行動と、のべつまくなしに天敵がうろつくので、ヘラジカはすっかり見えなくなってしまったのだ。

 きっとどこか他の水場に移住したのだろう。


 そんな旧ヘラジカ湖の湖畔を、優雅に進む、奇妙な二人連れがいた。奇妙といっても旅支度の二人はツンドラエルフの男女であり、女性の方が大きな剣を背中に背負っている以外は普通に見える。

 変わっているのは二人の乗騎だ。


 精悍な顔つきのエルフの女性は、白馬にまたがっているのだが、その背中には折りたたまれた翼があった。いわゆるペガサスである。

 そしてその隣でにこにこしながら相方に話し掛けているエルフの男性は、巨大な白熊にまたがっていた。

 象に匹敵するような巨体に鞍をつけて乗っているので、必然的に女性を見下ろす体勢になる。彼は行く先は白熊に任せたきりで、女性に話しかけることに熱中していた。


 「でもロザリオが見つかって、本当によかったねー。もちろんあの子が簡単に倒れるとは思っていなかったけれども、それでもちょっとは、いや大分、心配はしたからねー」

 「そうだな」

 「500年ぶりかー、少しは大人になったのかなー。実は助けてくれた冒険者とロマンスが生まれたりなんかして、どうしよう、会って欲しい男性がいますとか言われたら」

 「そうだな」

 「やっぱりあれかな、娘はやらん、欲しければ我妻を倒してみせろ、って啖呵たんかをきるべきかな。私だと簡単に倒されちゃうから、そのときはお願いするね」

 「そうだな」


 延々としゃべり続ける男性は、どうやらロザリオの父親らしい。そして適当に相槌をうっているのが母親のようだ。

 おしゃべりな夫と寡黙な妻は、傍から見ると仲むつまじく旅する熟年夫婦ではあったが、妻が職業軍人で、夫が主夫という、エルフには珍しい逆転夫婦であった。


 「でもクルスの話によると、すっかり容姿が変わってしまったらしいから、見ただけではロザリオと気付かないかもしれないって。どんなに変っていても、親が娘のことを見間違うなんてありえないのにね」

 「そうだな」

 「黙って家宝を持ち出したことは、もう無かったことになってるらしいから、そのことでロザリオを折檻したらダメなんだよ」

 「それはどうかな」


 聞いていないようで、ちゃんと夫の話を聞いていた妻であった。



 その頃、何も知らないダンジョンでは隠し芸大会が開催されていた。


 さあ始まりました、恒例の第一回ダンジョン隠し芸大会です。まずは審査員の皆様の紹介です。


 「ルカです、よろしくお願いしますー」

 おっといきなりゲスト審査員です。しかも何故か観客の一部からブーイングの嵐です。波乱の人選ですが大丈夫なんでしょうか?

 

 「こあこあ」

 おおっと、次はダンジョンコアの登場です。自己紹介できるようになったコアを見つめるマスターの目が父兄参観に来たお父さんのようであります。


 「オババじゃ、つまらん出し物は蛙変化の刑じゃ」

 なんと、さらに掟破りのオババ様の乱入です。ご意見番の登場に、会場が一瞬盛り下がりました。

 「失敬な、じゃが恒例というわりには第1回なのか?」

 そこは突っ込まないでください・・・


 さて気を取り直して、審査の方法をお知らせします。参加チームの皆さんには、この部屋で隠し芸を披露していただき、それを3名の審査員にそれぞれ10点満点で採点していただきます。

 合計点が一番高いチームにはダンジョンマスターより豪華景品が送られますので頑張ってください。


 それではエントリーナンバー1番、「ベニジャとカラクリモンモン」チームどうぞー。

 

「1番、カラクリ・モンモンチーム、ジャンピング・ピラミッド、いくぜージャジャ」

 「「「ケロケロケロ」」」

 ベニジャの合図によって、床に三角形を描くように並んでいた大蛙達が、一斉に跳躍すると、見事なピラミッド型に着地した。

 

 おっといきなり大技の組体操です。昨今は安全性から高さ基準が設けられたピラミッドですが、これは天井すれすれまで積み上げた、見事な技です。それでは審査の結果を見てみましょう。


 「10体なら良かったんですが、12体で組んだのでバランスが微妙ですー」 5点。

 「ケロッピ!」 9点

 「最初から蛙なら変化されないと思ったら間違いじゃぞ」 3点


 合計17点でした。ちょっと点がのび悩んだように思えますが、チームリーダーのベニジャさんどうでしたか?


 「チーム間の連携が甘かったぜ、鍛え直すぞ、お前ら付いて来い!ジャー」

 あくまで体育会系のベニジャさんでした。


 続きまして、エントリーナンバー2番、「チーム隠密同心」です、どうぞー。


 「2番、チーム隠密同心、目隠しをしたまま、的にナイフを投げます」

 そういって部屋に持ち込まれたのは、目隠しと猿轡をされて丸太に括りつけられたワタリであった。その頭にはリンゴが1つ乗っている。


 えっと、目隠しをするのは的になるワタリさんなのですか?

 「ギャギャ(やですね、それだと隠し芸にならないじゃないですか。もちろん投げる側も目隠しします)」

 その言葉を聞いて、ワタリが激しく何かを主張するがモガモガとしか聞き取れなかった。

 アズサ、アサマ、シナノの3人が目隠しをして、ナイフを構えた。

 「ギャギャ(それではきます、3・2・1・ハイ!)」


 3人の投げたナイフが一直線に頭上のリンゴに向かわずに、ワタリの身体に突き刺さった。

 「「えっ」」

 観客が呆気にとられた瞬間、その場には2本のナイフで縫い止められたリンゴが転がっていた。


 「あぶなっ、ギリギリっすよ。3本同時は無理っす」

 変わり身の術で危機を脱したワタリが3本目のナイフを手で掴んだまま、冷や汗を流していた。


 おっとこれもパフォーマンスだったらしいぞ。採点をどうぞ!


 「ちょっとビックリしましたねー」 7点

 「あぶないよー」 6点

 「最後の1本は額に刺したままの方がインパクトがあったのう」 6点


 合計は19点です。ワタリさんが身体をはったわりには評価が低いか?


 「ギャギャ(ワタリさんですからねー)」

 「ギャギャ(やはりアズサが九の一姿で的になる案が良かったか)」

 「ギャギャ(それより術に失敗して、全部刺さる方がうけたかも)」

 「これオイラの身代わりの術のお披露目っすよね・・・」


 隠し芸大会は、まだ続きます。


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