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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第7章 冥底湖の魔女編
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豆は畑のお肉です

 宴会の途中で「姫」が退席する時間になった。オババとの交渉を確認するために残ってくれたのだが、それももうギリギリらしい。


 『それでは私はこれで失礼しますわ。コアさんもそのマスターさんもお元気で』

 「ワシには挨拶なしかい」

 『オババ様は速く戻ってらしてくださいませ。どこもベテランの手が足りておりませんので』

 「いろいろありがとう、「姫」も元気でね」

 「またねー」

 『・・ええ、きっとまた』


 そう言って「姫」は銀色の羽を撒き散らしながら消えていった。


 「婆さんももう帰ったら?」

 「なにをいっておるのじゃ、宴はこれからじゃよ」

 「まだ飲み食いするのかよ!」

 「ほれほれ、料理も酒も足りなくなったぞ。けちけちせんと太っ腹なとこ見せんかい」


 仕方なく猪のステーキと鮭のムニエル、蝗とじゃがいものホッパー&チップスを変換する。

 「悪くはないが、味付けが塩と蜂蜜だけなのが残念じゃな」

 「文句あるなら食べなくていいですよ」

 「そうかい、せっかく大豆をわけてやろうと思ったんじゃがのう、いらないのかい」


 「なんですとー!」

 「ほれ、発芽可能な大豆を麻袋1つ分で、千DPでトレードしてやろう」

 「コア!オババさんに敷き毛皮を3枚だしてあげて。あと美味しいお酒も追加でね」

 「・・そこまで応対が変わると、逆に引くじゃろ・・」


 なんと言われようと、大豆には代えられないよね。醤油、味噌、豆腐、納豆、きなこ、もやし、枝豆、こうやって考えると、大豆ってすごいんだと再確認できた。

 麹や菌がないと出来ないものも多いけど、まずは大豆がないと始まらないからね。


 「それで、モノは相談なんですが、米か稲はありませんかね?」

 「あー、やはりそこに行き着くようじゃのう。お主、前世はジパングかの?」

 「ええっと、まあそうですね。黄金郷ではないですが」

 「米を探すのは大抵、ジパングかガンダーラ出身じゃからのう」

 ガンダーラって、インドのことかな?


 「ご存知ということはリストにあるんですね?」

 「残念じゃが無い」

 「ダメかー」

 「じゃが、リストに死蔵しておる者なら知っておるぞ」

 「マジですか?」

 「その前に、大豆のトレードをしておこうかのう」

 「トレードってどうやるんですか?」

 「なんじゃ、それも知らんのか。本当に生まれたての雛じゃのう・・なんでこんな奴に負けたんじゃろう・・」


 オババはぶつぶつ言いながら、トレードの方法を教えてくれた。

 「まずは相手にトレードの申請を出すのじゃ。するとお互いが認識できる仮想ボックスが2つ現れる」

 確かに宙に浮かぶように半透明な1m立方のボックスが2つ現れた。


 「物々交換ならお互いに物品を入れる。今回はワシが先に大豆を入れる」

 するとオババ側のボックスに、膨らんだ麻袋が一つ現れた。ボックスの上部には

 『食料(農作物):大豆10kg』と表示されている。


 「この表示はリストと同じで誤魔化しは出来ないのじゃ。もし幻影やチートで詐欺を働いたことがバレると、とんでもないペナルティーをくらうから覚悟しておくといいぞ」

 「しませんよ、そんなこと」

 「ワシは少し考えたがのう」

 「ジャッジ!ここに犯罪予備軍がいます!」

 「考えただけじゃから、無罪じゃよ、無罪」


 危ないな、この婆さん。いつか後ろに手が回りそうだ。

 「そっちが確認できたら、対価として千DPを移譲するように念じてみるのじゃ」

 「・・できた」

 コアが念じると、こちら側のボックスの中に白い水晶の塊が現れた。その上部には

 『1000DP』の表示がでている。

 どうやらあの水晶がDPの代わりらしい。


 「うむ、よければ承認するのじゃ」

 「のじゃ」

 済んだ鈴の音が響き渡ると、宙に浮かんだボックスが2つとも消えた。


 「これでトレード完了じゃ。もし承認しなければトレードの破棄で元にもどる。不払い詐欺やすり替え詐欺は、まあ無理じゃな」

 それも一度は考えたんですね、きっと。


 「さてさて、バトルで失ったDPも多少は回収できたようじゃし・・」

 「あ、お帰りですか?」

 「何を言っておる、これから腰をすえて飲み直しじゃわい」

 まだ居座るのかよ。


 「マスター様、オババは酒に意地汚いですから、夜明けまで飲み明かす気ですジャー」

 「なんだい、ハクジャかい。お前だっていつまでも魚の骨をしゃぶっていたじゃろう」

 そう言いながら、オババとハクジャは差し向かいで酒を酌み交わし始めた。

 きっと積もる話があるんだろうね・・・


 そう言えば、「姫」の帰るときの様子がいつもと違ったけど、何か言い残したことでもあったのかな?

 「きになる?」

 僕の思い違いなら良いんだけどね・・・




 「お帰りなさいませ、チーフ。こちらは問題ありません」

 委員会の特別区画で、「貴腐人」が帰還した「姫」を出迎えていた。


 「そう、彼女の処分は回避できたのかしら?」

 「一応は・・ただ、その為にチーフが降格処分を受けるのには納得がいきません!」

 「仕方ありませんわ、誰かが責任を分担しない限り、彼女を助ける方法がありませんもの」

 「自業自得です。リカバーできない暴走を繰り返すなら、破棄されるのが当然かと」


 先を歩いていた「姫」が、怖い顔つきで後ろを振り返った。

 「訂正しなさい。破棄されて当然のダンジョンコアなど、存在しません」

 その気迫に気圧されて「貴腐人」は口ごもった。


 「す、すみません、言い過ぎました。しかし、チーフが退任されたら誰がここを纏めるのですか?」

 再び前に向き直って歩きだした「姫」を必死に追いながら説得する。


 「少しすれば適任者が送り込まれるでしょう。それまでは貴女が臨時の責任者ですわ」

 「無理です!唯一まともに仕事ができる「男の娘」は先日、転勤になりました。私ではあの二人を御することなど出来ません!」

 「それでも、事後を頼めるのは貴女だけなのですわ・・」

 「姫」は寂しげに微笑んだ。


 「大丈夫、問題の彼女は今回のことで、しばらくは現場復帰はできないでしょう。「ドジっ子」さんなら今回の功績でペナルティーが無くなりましたわ」

 「・・ペナルティーの許容範囲が広がっただけで、ドジは起こるんですよ」

 「・・それでも上司が庇わなければ取り返しがつかない状況からは抜け出しましたでしょ」

 「ぜんぜん安心できません・・」


 二人は特別区画の最深部に到達すると、一つの隔壁扉の前で足を止めた。

 「ここから先は私だけです・・皆によろしくね」

 「納得できません!どうしてチーフは他人のためにそこまでするんですか?!なんでチーフがしなきゃいけないんですか?!」


 「・・・貴女は、なぜ私達に個性があると思う?」

 急に話がそれて「貴腐人」は戸惑った。

 「・・何かの実験だと聞いています。より多くのサンプルを得る為に差別化したと・・」


 「私は、ダンジョンマスターへのギフトだと思っていますの」

 「ギフト・・ですか・・」

 「そう、もし私達が規格統一された存在だったら、きっと扱いきれないマスターが生まれてしまう。引っ込み思案な人、自己顕示欲の強い人、気紛れな人、嫉妬深い人。そんなマスターにも寄り添えるように、私達に個性が与えられた・・・」


 「だとしたら、だとしたら選ばれなかった私達は何の為に存在するんですか?!」


 「大丈夫よ、まだその時がきていないだけですわ・・」

 「その時・・」

 「コアという名前をもらった彼女も、今は素敵なパートナーを得て楽しく過ごしているのですもの。貴女にもきっといつか、分かり合えるマスターが現れますわ」

 項垂れる「貴腐人」の頭に手を当てて、「姫」は優しく話し続けた。


 「ですから、その可能性を失くさない為に、私はこの先にいきますの。分かってくださいまし」


 そう言い残して、「姫」は隔壁の向こうに消えていった。

 あとには誰かが泣きじゃくる声だけがいつまでも木霊していた・・・




 DPの推移

現在値: 3995 DP (+3013 DC)

変換(料理):追加分 -80

トレード:大豆10kg -1000

残り: 2915 DP (+3013 DC)

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