最後の部屋で待つ敵は
オババ陣営 探索再開から16:10
「急げ、だいぶ時間をロスした。もうギリギリのはずだ」
キャスターが落とし穴の底から上がってくると、焦ったように言った。
ランサーと二人で、大理石の扉の前に立つと、鍵となる石版を当てはめていく。3つの石版を押し当てるレリーフは、星と太陽と三日月。
それぞれ両扉の右上端、中央下、左上端に見つかった。
「これを一斉に押し当てれば扉は開くはずだ!」
「・・どうやって?・・」
「どうって、両手で・・・足をつかって・・・畜生、届かない!」
もともと3人で開ける造りなのか、左右の上端も背伸びをしなければ届かない位置にあり、1人で二つは体勢的に無理だった・・・
「これはレギュレーション違反なのではないか?」
3人いなければ開かない扉は、突破不可能なダンジョンに該当するとキャスターは憤慨する。
だが、ランサーは首を振った。
「・・もともと6人で入れるのを4人に絞ったのはこちらだ・・」
「・・そうだな、途中で増援も受けられたわけだし、分散したのは我々のミスか」
「・・召喚という方法もある・・」
「だが、私もランサーも召喚呪文は無かったはずだ」
「・・メイジハンドなら・・」
「それだ!」
左右の石版を2人で押さえて、中央の石版をランサーがメイジハンドで運ぶ。メイジハンドのコントロールに微妙な調整が必要だが、何回かトライすれば成功しそうだった。
何も邪魔が入らなければ・・・
それは地響きと扉の開く音で始まった・・
「・・誰かが1枚目の扉を開けた・・」
「セイバーかな?」
「・・・・」
すぐに2度目の地響きが聞えてきた。
「セイバーとアーチャーが同時に作動させた?」
だが、二人だけでは、ここまで合流できないはずだった。
「・・キャスターはこの仕掛け扉が開いたら中に入れ・・」
「ランサーは残るのか?」
「・・3枚目は二人なら開かない。もし開いたら・・」
「敵か」
焦る気持ちを落ち着かせながら、メイジハンドで中央の石版を押し当てるのに成功した。大理石の扉が、ゆっくりと手前に開いていく。
それと同時に3つめの石扉が、音をたてて開きだした。
「・・キャスター行け!・・」
ランサーは、階段の踊り場まで駆け上がると、上から来る敵に呪文を唱え始める。
「ランサー、死ぬなよ!」
キャスターは石の扉が開ききる前に、大理石の扉の奥へと姿を消した。
何が来るのか・・どちらにしろ3つのプレートを稼動させたということは、あの二人は排除されたということだ。
「・・敵は獲らせて貰う・・」
半開きの石扉の奥に、盾を構える人影が見えた。セイバーでないことを瞬時に判断すると、得意の呪文を解き放つ。
「・・くらえ、ファイアー・ランス!」
第7階位の火炎系単体攻撃呪文が、敵の守護者に向かって飛翔する。
咄嗟に盾で身体を隠すが、炎の槍はそれすらも貫通して敵本体に直撃した。
はじけ飛ぶ炎で目が眩むが、敵はまだ、ゆっくりと接近してくるようだ。
「・・何発耐えられるかな・・」
ランサーは容赦なくファイアー・ランスを連射する。3発目で、ついに守護者が崩れ落ちた。
「・・セイバーと同等の守護者か・・」
ファイアーランスを2発は耐え切った相手に驚きながら、ランサーはキャスターの増援に行く為に階段を降りようとした。
その背中目掛けて、白い影が躍りかかる。
「グアッ、いつの間に!・・」
ランサーの延髄に牙を立てた冬狼が、身体を錐もみさせて骨ごと食いちぎった。
「・・けはっ・・」
体重をかけて押し倒したランサーを放っておいて、冬狼はキャスターを追って奥に走ろうする。
「・・見くびるな・・」
大ダメージのショックから抜け切れないランサーではあったが、震える指を持ち上げて、呪文を唱え始めた。
冬狼は危険を感じて飛び退ったが、ランサーの狙いは別にあった。
「・・扉よ、錠を下ろして敵を阻め、・・ウィザード・ロック(魔術師の施錠)・・」
その言葉とともに、大理石の扉が勢い良く閉じた。
「・・キャスター、あとは頼んだ・・」
目の前に、扉を閉ざされて怒り狂った冬狼が立ちはだかっていた。この近距離では呪文を唱えるそばから、噛み付かれてキャンセルされていまうだろう。
ランサーは諦めて目を閉じた・・・
その頃、キャスターは、ダミーコアルームに侵入することに成功していた。
9マスの普通の部屋は、中央に黒いオーブの置かれた台座があるだけで、他に何もいない・・
「どういうことだ、ガーディアンが1人もいないとは・・」
DPを節約するにしても、最後の部屋ぐらいは守り手を配置するはずだった。なにより、終了のアナウンスがない。
「まさか、ここもブラフなのか?」
しかし、ファインド・ザ・パスの光は、この部屋に入ったときに目的を達成して消滅した。だとしたらここが目指したダミーコアルームで間違いないはずだ。
「透明化しているのか・・」
周囲を慎重に見回すと、・・・いた。
台座の影に隠れて、1匹のバッタが・・・
「なんでバッタ?」
疑問に思いながらも、メイスで叩き潰してみた。
だが、それでは占有条件を満たさなかったらしい。
よくよく目を凝らすと、天井や壁のあちこちにバッタが止まっているのが見えた。
「あれを、全部倒しきらないといけないのか・・・」
メイスで1匹ずつ潰す労力を考えて、キャスターはめまいがした。
「誰だ、こんな陰険なガーディアンを配置した奴は!」




