サーカスでもいける
モフモフ陣営 敵再侵入から10:41
「2体目、獲ったかな?」
「ふらぐー」
穴熊コンビが足止めしている間に、階下のバーンが水袋をプレートに投げ出すことで、落石のトラップを発動させた。
足元の2匹は速攻で地下に退避したので、敵の守護者だけ轢けた。足が抜けない状態で巨岩の直撃を受けたのだから、行動不能になってもおかしくないはず。
だけど、やはりフラグだったらしい。巨岩が転がり通った坂道から、もぞりと守護者が立ち上がってきた。
「ケン、追撃して」
「ん」 「バウ!」
「こまつは最上部で迎撃、ケンが追いつくまで2秒稼いで」
「ん」 「ギュギュ}
巨岩を避ける為に投げ捨てたのか、武器をもたない守護者は、階下からせまるケンには勝ち目はないとみて、セーフティールームへの突破を試みた。
体操の選手みたいなアクロバティックな側転をしながら、階段の最上部で立ち塞がるこまつを抜けようとする・・・
「ギュギュギュー!」
それに対して、こまつもローリングクラッシュで対抗した。
側転と縦回転、2つの回転が空中で激突する。
棍棒同士で殴りあったような派手な音を立てて、2体がお互いに弾き飛ばされた。
体重の差か、ランクの差なのか、敵の守護者は転がりながらも体制を立て直したが、こまつは弾かれて目を回してしまった。
守護者は邪魔のいなくなった坂道を駆け上ろうとした瞬間、背後からコールドブレスの直撃を受けた。
「グオオオ」
巨岩のダメージの直後に、ブレスの直撃を受けて、守護者の動きが確実に鈍くなった。
それでも諦めない守護者は、最後の力を振り絞って坂を登ろうとした・・・
その足が氷で滑った。
ケンのコールドブレスは、守護者にダメージを与えただけでなく、坂道になった階段を氷の膜で覆っていたのだ。
重傷を負った守護者にとって、この氷のスロープを登りきるのは絶望的だった。
守護者が意識が途切れる直前に感じたのは、首筋に吹きかかる雪原の死神の吐息であった・・・
オババ陣営 探索再開から11:22
「もっと、左だ、もう少し、そうそこら辺りにないか?」
「・・ブーツ・・」
「またハズレか・・」
キャスターとランサーは、落としてしまった宝箱の中身を回収していた。
落とし穴は6m近くの深さがあり、底にはご丁寧に泥水が溜まっていた。邪魔になる宝箱を最初に引き上げると、レヴィテート(浮遊)の呪文を自分に掛けたランサーが、底を漁っている。
どちらが降りるかで少し揉めたが、上に残るほうが奇襲を受ける危険があるので、ランサーが降りる役になったのだ。
ほぼ両手両足が泥水につかったランサーは、田植えをしている様な姿で、水底の雑貨を拾い上げていた。キャスターは上から、導きの光の位置を知らせる係りである。
「・・これは?・・」
ランサーが石版らしき物を拾い上げた。
「それは手鏡だ。ハズレだな」
「・・・・なら、これは?」
「それは火打石だな・・」
「・・うがあああ!」
ランサーは切れてバーサーカーになりかけた・・
結局、キャスターが交代して、水底から三日月の石版を拾い上げたのは、それから5分後のことだった。
モフモフ陣営 探索再開から12:34
「後衛は廊下の端まで下がるだよ!ベニジャ、頼むだ!」
「よっしゃあ、カラクリチームのお目見えだぜ、ジャー」
「「ケロケロ」」
ノーミンの指示でヘラと親方、テオの3人は廊下の端の小部屋に退避した。
それと入れ替わりに、ベニジャの大蛙軍団が前進してくる。
「緋牡丹と桜吹雪が前列、女郎花と曼珠沙華が後列だ、ジャー」
「「ケロケロ」」
大蛙は隊列を組みながら、召喚された骸骨格闘家に向かっていった。
迎え撃つ格好の骸骨格闘家は、身体を斜に構えて、軽快なフットワークを刻み始めた。
「拳闘士・・いや東方拳法っすね」
「知っているのかワタリ」
骸骨格闘家の構えを見て流派を見破ったワタリの呟きを、ロザリオは聞き逃さなかった。
「東方に獣の動きを取り入れた拳法が伝わってると聞いたことがあるっす。5つの流派があって、それぞれ一子相伝だそうっす。まさかここでその継承者に出会うとは・・・」
「それが4人ともなると、厳しい戦いになるな・・・」
「「ケロケロ」」
緊張するワタリとロザリオを他所に、大蛙は舌を繰り出して正面にいた骸骨格闘家の2体を飲み込んでしまった。
「あれ?弱いっすね」
「・・伝承者みたいなことを言ってたが?」
「よく考えたらシャドウマスターが呪文で造ったスケルトンに、そんな技能つくわけないっすね」
「おい」
その間にも、後列の2匹が残りの2体も飲み込んでしまった。腹の中で暴れているようだが、やがて消化されて動かなくなる。
それを見て、シャドウマスターが次の呪文を唱えた。
「影に潜みし我が眷属よ、我の呼びかけに応えて姿を現せ、サモン・シャドウ!(シャドウ召喚)」
すると再び、探索チームの足元からシャドウが3体出現した。
「限が無いだ、なんとかシャドウマスター自身を叩かねえと!」
ノーミンの叫びにロザリオが応える。
「背後のシャドウはなんとかしてくれ。これより突撃を敢行する」
「我は主の剣にして盾なり、我が名はロザリオ、守護騎士にして闇を打ち払う者なり!」
雄叫びをあげて突き進むロザリオを背後から2体のシャドウが追いすがろうとした。
「オデに任せろ!」
その2体に身体ごとぶつかるようにグドンが割り込みをかける。
1体をシールドバッシュで倒すと、残りの1体の攻撃は自らの身体で受け止めた。だが、筋力を吸われたグドンは脱力して膝をついてしまう。
「グドン、しょれ以上受けたらダメでしゅ!」
廊下の端から様子をうかがっていたヘラが悲鳴をあげる。これ以上シャドウに触られるとグドンがシャドウ化する危険があったのだ。
「オデまだ戦える、オデまだ守れる」
上半身だけで弱弱しく盾を振りかざすグドンに、シャドウが組みやすしとみて集まってくる。
「ケロッコバリヤー!」
ベニジャの謎の掛け声とともに4体の大蛙が一斉にジャンプすると、グドンの周囲に壁のように着地した。
シャドウの攻撃は全て、大蛙達が肉の壁となって引き受けたのだ。
そしてベニジャが三つ又矛を振り回しながら乱入する。
「オラオラ、アタイの三つ又矛は魔法の武器なんだぜ、ジャジャー」
蛙コントローラーとしてしか使われていなかった三つ又矛だが、命中やダメージに修正が無いだけで、立派なマジック・ウェポンであったのだ。
不利を悟ったシャドウ達は、目標を後方のヘラ達に変えた。
影を伝って移動するシャドウに、背負い袋から飛び出した親方が立ち塞がる。
「無理ですよ、シャドウには魔法しか効かない」
テオが慌てて止めるが、親方は何かを信じるようにシャドウに狙いを定めていた。
「・・森の守護精霊よ、爪に宿れ牙に宿れ、マジック・ファング!(魔力の牙)」
ノーミンのドルイド呪文が親方の身体に魔力を呪付した。それを待って必殺のスキルが放たれた。
「キュキュキュ!(シューティング・スパイク!)」
親方の背中から何本もの棘が飛び出し、シャドウの潜む影に突き刺さった。
「オォ・・・・・・」
声にならない声をあげながら、シャドウは消滅していった。




