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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第7章 冥底湖の魔女編
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四季の女神達

 オババ陣営 探索再開から08:01


 キャスターとランサーは2枚目の扉が開いたのを待って、南階段を降り続けた。

 3枚目の石両扉が行く手をさえぎると、躊躇無くランサーがノック(開錠)の呪文を唱えた。

 その力ある言葉により、ゆっくりと扉が手前に開き、それと同時に北階段で巨岩の落下する音が響いて来た。


 「今、3回目の岩の転がる直前に、誰かの叫び声がしなかったか?」

 キャスターは、セイバーか、誰かの声が聞えた気がしてランサーに尋ねた。


 「・・詠唱で無理だ・・」

 ランサーは術に集中していたので、他の音には気がつかなかった。

 既にこの時点で、セイバーは2回轢かれていたのだったが・・・


 3枚目の石両扉を抜けると、同じように下り階段が続いていて、踊り場に宝箱があった。ただし、その先の扉は、今までとは完全に違った造りになっていた。


 「これは大理石なのか・・見事なレリーフが彫ってある・・」

 階段の奥の扉は、総大理石造りで、両扉全体に、女神と天使が描かれていた。彼らの周囲には太陽や星、三日月が散りばめられ、時間と暦の概念を示している。


 「・・女神が4人、天使が・・13人・・」

 「四季の女神達と13ヶ月の守護天使だろうな」

 「・・この先が?・・」

 「ああ、ダミーコアルームで間違いないだろう」

 「・・どうする?・・」


 二人で進むのか、他の二人を呼ぶのか・・

 ここまで来たらノックを使ってでも強行突破してしまう手もある。だが、あけていない宝箱もあるし、戦力はまだしも、二人を除け者にするのもなんとなく気が引ける。


 悩んでいると、上の扉から順番に閉まり始める音が響いて来た。それで腹が決まった。


 「ノックで開けてくれ。ラスボスは我々だけで倒すことにする」

 「・・了解・・・ノック!」

 だが、ランサーの言葉に応じて開くはずの大理石の扉は微動もしなかった。


 「どうした?魔力切れには早すぎるはずだが?」

 「・・これは特殊な扉だ。ノックでは開かない・・」


 ダンジョンの中には条件を揃えないと開かない扉が存在する。謎を解いたり、特別な鍵を集めないと開かない種類の扉だ。これもその内の一つなんだろう。

 「そういえば奇妙な石版が2枚あったな。これが鍵なのか・・」


 レリーフをじっくり眺めると、サイズの合いそうな星と太陽のレリーフがあった。それぞれで手に持って、その場所に当ててみる。すると・・・


 何も起きなかった。


 「・・残念だったな・・」

 「いやいや、これで合っている筈だ。たぶん数が足りないのだろう、そういえば導きの光はまだ北を指しているからな」

 「・・なら戻るしかないな・・それとも・・」

 そう言って、すぐ側の宝箱を見た。


 確かにこの中に鍵となる石版入っている可能性が高かった。ただし、この宝箱を開ける鍵が無かった。

 使っていない鍵は一つあるにはあるが、それで開くなら、導きの光は北を指さずに、この箱を指すはずだ。たぶん、一度、北の階段下で最後の鍵を探す必要があるのだろう。


 アーチャーがいない現在、罠を解除する方法が無い。罠は十中八九宝箱にかかっている。なぜなら今まで全ての宝箱に「正しい鍵で開けないと発動する罠」があることを確認していたからだ。

 ただし、アーチャーが言うには、発動する罠のタイプは幾つかあったらしい。これがどのタイプなのかは分からない。まあ、流石にポイントの関係で、テレポーターや石化の罠ほど凶悪なものではないだろうが・・


 「仕方ない、ランサー、離れて宝箱にノックを掛けてくれ。範囲属性攻撃でないことを祈ろう」

 「・・いいのか?・・」

 「ああ、今は時間が惜しい」

 「・・わかった・・・ノック!」

 ランサーの言葉とともに、宝箱の蓋が勢い良く開いた。


 そして落とし穴の罠が発動した・・・


 「「あっ!」」


 蓋の開いた宝箱は、中身を撒き散らしながら深い穴に落下していった。



 その少し前、アーチャーは目の前を通り過ぎる巨岩を眺めながら周囲を警戒していた。

 「期待してたのに敵が出てこねえじゃねえか。こっちは壁にもたれて呟くセリフまで用意したっていうのによ」

 本人、死ぬ気満々のようだった。


 「まあ本物のバーサーカーでも出てこない限り、俺様を倒すのは無理だろうけどな」

 そして、次々にフラグを立てまくっていた。


 そんなアーチャーの耳に、巨岩が転がる音に混じって、パキャだかペキョだか聞き慣れない音が飛び込んできた。いや、あれは確かどこかで聞いたことがあるような・・・

 「おいおい、セイバーのやつ、また轢かれたのかよ・・」


 遠いからすぐには気がつかなかったが、あれは誰かが巨岩に轢かれた音だろう。そして、この体制で該当者はセイバーしかいなかった。

 「どんだけ鈍臭いんだよ、あいつ」


 埋まっている可能性もあるので、持ち場を離れて見に行こうと思ったアーチャーの視界に、奇妙なものが映った。

 それは、西階段を登っていくようについた土の盛り上がった筋だった。


 「なんだぁ?モグラでもいるのか?」

 それでもアーチャーは弓を構えて慎重に様子をうかがった。すると、かなり先の方で、モコモコと土の中を進む何かを見つけた。


 「なるほどな、ああやって土の中を移動して隠れていたってわけだ。ただ、階段を登ったのは失敗だったな。移動の痕跡が丸見えなんだよ!」

 そう言って、矢継ぎ早に射た。


 2本の矢が移動中の何かに向かって真っ直ぐ飛んでいったが、盛り土が邪魔をして、傷を与えるには至らなかったようだ。ただ、突然の攻撃に驚いたように、土中から穴熊が飛び出して、一目散に階段を駆け上がっていった。

 「ちっ、逃がすかよ!」

 アーチャーは全速で逃げた穴熊の後を追った。


 しかし、1階層登った部屋で足が止まる。

 「へへっ、ちゃんといるじゃねえか、歯ごたえのありそうな奴がよ」

 そこには雪原の死神、ウィンター・ウルフが待ち構えていた。


 「おら!先手必勝だぜ」

 アーチャーは距離を詰められる前に弓をつがえた。

 だが、放たれた矢は、冬狼に届く直前で、ブレスのカウンターを受けて失速してしまう。さらに勢いを弱めることも無くアーチャーにせまった。


 「危ねっ!」

 アーチャーは危険察知を働かせて床にダイブするようにブレスを避けると、弓を捨てて小剣に持ち替えた。

 「やべえな、冬狼と殴り合いとか、セイバーじゃないと勝てねえぞ・・」

 盾役さえ居れば、多少のダメージは受けるだろうが、勝つ自信はある。だが、ソロはまずい。良くて相打ち、相手の防衛圏であることを加味すれば、負けの可能性が高かった。


 「どうやらフラグを立て過ぎたってわけかよ・・」

 冬狼を牽制しながら、慎重に立ち上がった。

 周囲に目を配って、他に敵がいないのを確認する。


 「こうなりゃ、一か八かだ!」

 そう叫びながら、冬狼に向かって小剣を腰だめにして突撃を敢行した。


 余裕をもって回避する冬狼の横を、そのままの勢いで通り過ぎていく。

 「と、見せかけて、おさらばよ!」

 背中に一撃くらったが、軽業でバランスを維持すると、セーフティールーム目掛けて一目散にスロープを駆け上がろうとする。


 その瞬間、足元に何かが絡みついた。

 さすがに立ち止まるアーチャーの足元に、地面から顔を出す穴熊が見えた。

 「邪魔するな!放しやがれ!」

 そういって蹴り飛ばそうとする軸足が地面に沈み込む。

 「馬鹿な、何匹いやがる!」

 もう1匹の穴熊が、軸足側に落と穴を掘ったのだ。


 あせるアーチャーの耳に、聞き覚えのある音が届いた。下の部屋のプレートに、何か重たいものが乗せられた音だ。

 「馬鹿野郎!お前らも巻き添えだ・・ああ?」

 足元の穴熊は完全に土の中にもぐりこんでいた。

 「汚ねえ、俺だけかよ!!」


 アーチャーの叫びは、天井から落下してきた巨岩の転がる轟音にかき消されていた・・・


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