奴は四天王の中で・・
オババ陣営 探索再開から05:55
セイバーは周囲を警戒しながら、東階段下のプレートの前でその時を待っていた。
「襲ってくるなら、このタイミングだと思ったが・・」
骸骨戦士達が襲撃されて破壊されたのと同じ状況になったはずなのに、敵は姿を現さなかった。
「こちらの戦力を把握しているとでもいうのか」
スキャンされた記憶はないが、どこかで我々のランクを計測できるガーディアンが配置されているのかもしれない・・セイバーは、さらに警戒の度合いを高めた。
だがセイバーは忘れていた・・彼女は既に2回も巨岩に轢かれていたということを。それでも生き延びている彼女は猛者としてマークされていただけだった。
そして、こうも思われていた。
「3回轢いたら倒せそうだ」
遠くから地響きが聞えた。アーチャーが西側のプレートを作動させたようだ。1拍置いて、セイバーも足元のプレートを踏んだ。
カチッ という作動音がして、上の方で巨大な何かが落下する音が聞える。余裕を持てその場から離れようとしたとき、目の端に北側の扉が開くのが映った。
「敵か!」
身体を捻って、そちらに足を踏み出した、その瞬間、地面を踏み抜いた。
「なんだと!」
バランスを崩して咄嗟に右手を着くが、そこも体重を支えきれずに崩落する。
「落とし穴だと、いつの間に掘った!」
「ギュギュ」
呼びかけにつられたように、扉の影から大きなアナグマが顔を出した。
「お前か!この穴を掘ったのも、骸骨戦士を倒したのも!」
片足、片手が埋まった状態から、必死に起き上がろうとするセイバーに、アナグマは深く頷いた。
「ギュ」
「そこから動くなよ、私がこの剣で・・へぶしっ」
セイバーは転がり落ちてきた巨岩に綺麗に轢かれた。弾き飛ばされるのではなく、固定された状況で通過された為に、ベキバキと骨の折れる音が響いた。
ゴロゴロゴロ
巨岩が遠ざかると、半ば地中に埋もれるように押しつぶされたセイバーの姿があった。
だが、彼女はこれぐらいでヘコタレない。
埋まっていない片手、片膝を使って、ゆっくりと起き上がろうとした。
「ふふふ、この私を3度も這い蹲らせるとは・・許さんぞ・・・へぶしっ」
もちろん通り過ぎた巨岩は、突き当りの坂を登りきると、再び元のルートを逆走する。
ルート上で恨み言を呟く暇があったら、とっとと逃げるべきだったのだ。
それでもセイバーは沈まなかった。
すでに四肢は埋まり、肋骨は折られ、化石標本のようになろうとも、彼女の闘志を消すことはできやしないのだ。
渾身の力を振り絞って、首だけをもたげ上げると、扉の影のアナグマを睨み付けた。
「例え私がここで倒れたとしても、残りの仲間がきっと・・」
そこまで叫んで、敵であるはずのアナグマが自分を見ていないことにセイバーは気づく。
アナグマの視線の先には、ゆっくりと戻ってくる、巨岩があった。
「やめろ、くるな、これ以上は無理・・ぷぎゅう・・」
進路上に障害物があった為に、勢いを殺がれた巨岩は、その障害物の真上で回転を停止した・・・
モフモフ陣営 敵再侵入から06:34
「よし、獲った!」
「げっちゅ」
4人組の一角を落とすのに成功した。戦士装備だから罠感知や危険察知能力が低いだろうと思って即席落とし穴を、やんまーに掘ってもらったけど、うまくいったみたいだね。
次は西階段の先、W2にいる盗賊風の守護者を狙おう。罠は効きそうに無いから、正攻法だね。
「コア、東と北の穴熊チームをW1に集合させて。あとケンをW1に転送」
「もふもふ」 「ギュギュ」 「バウ!」
「西のこまつは、守護者をW1に誘導」
「もこもこ」 「ギュ」
これで4対1になるけど、相手は格上だし、保険で誰か送っておいた方がいいかな・・
「コア、残りDPは?」
「ななじゅう」
ランク3もランク2x2も無理かー。とはいえ探索チームにはもう増援は考えなくていいはずだから、つかっちゃえ。
「コア、W2から守護者が動いたら、W2N階段にバーンを転送して」
「ばにんぐ」
いや、オーラロードは開かなくていいから。
モフモフ陣営 探索再開から07:47
「ああ、この壁に隠し扉があるっすね。床にも落とし穴があるので、踏まないように注意するっすよ」
大蛙からの情報で、正しいルートを把握した探索チームは、十字路の左奥の小部屋の北壁に隔し扉を発見すると、押し開けた。
そこは右側の小部屋が連なった通路を左右対称にした形をしていた。もちろんそれぞれの小部屋には骸骨弓兵が弓を構えて待ち伏せしていた。
「オデ、マモる」
グドンが黒鋼の盾を振りかざして、後衛に届きそうな矢を防ぐいだ。その横からロザリオが飛び出すと、骸骨弓兵を次々に切り倒していった。
「ぬるいな」
「反対側にもあったっす。時間かせぎのつもりっすかね?」
「案外、召喚ポイントが足りなくなったのかもしれん。ここもランク4ぐらいの兵で固めれば、かなり持ちこたえるだろうからな」
「ですかね」
倒した骸骨弓兵から弓矢だけ回収して、あとは邪魔にならないように隅に押しやっておく。
通路の奥の石の扉を呪文で調べた。
「毒針の罠がありましゅ」
「ボス部屋の扉に罠とは、無粋だな」
「そうすか?効果的だと思うっすけど」
「こういうのは、勢いで突入するのが相場だろう、そこに水を注されるのは好かないぞ」
「刺されるのは毒針っすけどね」
ロザリオは無言でワタリの手を掴むと、扉に押し付けようとした。
「ああ、オイラが悪かったっす、勘弁して欲しいっす」
「冗談はさておき、どうやって解除する?」
「目が笑ってなかったっす・・・」
「オデが盾でオス」
「ふむ、それもありか、グドン頼んだぞ」
「オウ」
グドンが体重を乗せて盾で扉を押すと、ギンッという音がして金属製の針が盾に弾き返された。それと同時に、扉がゆっくりと押し開かれていった。
そこは良くあるコアルームのような9マスの部屋で、中央に台座置かれ、その上に真っ黒いオーブが安置されていた。
その台座の向こう側に、1人の守護者が控えていた。
黒いローブを羽織り、ねじくれた木の杖を持ち、その眼窩には青白い炎をゆらめかせている。
「お前が最後のガーディアンか?」
ロザリオがローブの守護者に問いかけた。
「くくくく」
守護者はただ、くぐもった笑い声を響かせるだけだった。
「ああ、やばいタイプっすね」
「そうだな、友人にはしたくない類の奴だ」
「どうみても死霊使いだで、みんな、周囲に警戒するだ!」
ノーミンが叫ぶと同時に、メンバーの足元から黒い影が立ち上がった。
「「シャドウ・マスターだと!」」
ダミーコアルームの攻防が始まった・・・




