モフモフ愚連隊
オババ陣営 探索チーム侵入から25:30
「よし、セイバー、作動させてくれ!」
セーフティールームにいるキャスターが階下で準備しているセイバーに声を掛けた。
返事は聞き取れなかったが、南側の階段下に待機していたアーチャーからは報告が聞えた。
「よし、扉が開き始めたぜ。光はどうだ?」
「まだ南を指している。奥はどうなっている?」
「部屋じゃなくて下り階段だな。突き当たりは扉っぽいが、踊り場に宝箱が置いてあるぜ」
その会話中に、西の階段の天井から巨岩が地響きを立てて落下すると、セイバーの方へ転がっていった。
「まあ、この音で巨岩が接近してるのはわかるだろう」
キャスターは、セイバーがちゃんと回避してくれることを祈りつつ、転がる大岩を見送った。
南階段の下では、アーチャーとランサーが手前に開いた石の両扉をすり抜けて、宝箱を観察していた。
「・・魔法反応はない・・」
「あいよ、罠はありそうだが、鍵が合えば発動しないタイプだな。それでは・・」
西階段の奥で拾った青銅の鍵を試してみると、カチャリという音とともに錠が外れた。
「おっ、素直に開いたぜ。お宝拝見としゃれこもうか」
慎重に蓋を引き上げると、箱の中にはガラクタが入っていた。
「うぜえ、ダミーだらけじゃねえか」
西階段の踊り場がそうであったように、初心者冒険者の装備品セットとでも呼ぶべき雑貨が、納められていた。中身を漁ると、丸い円盤状の石版と四角い石版は出てきたが、鍵は見当たらない。
「キャスターちょっと降りてきて・・おいおい、扉が閉まるぞ!」
振り向いたアーチャーの先で、ゆっくりと扉が閉まり始めていた。慌ててランサーと一緒に階段を駆け上がる。ギリギリですり抜けると、一息ついた。
「ほぼ1分間しか開いてねえな。やっかいだぜ、まったく」
「・・こちらからは開かないのか?・・」
「ちょっと無理っぽいな、構造からすると手前にしか開かない。閉まると手掛りも取っ手もない、まっさらな石の扉だぜ」
「・・ノックのの呪文ならどうだ?・・」
「そいつは・・いけるかも知れねえな」
「・・試してみよう・・ノック(開錠)!」
「あっ、馬鹿、やめ・・」
アーチャーが止める間もなく、ランサーの呪文が発動した。
石の扉は、力ある言葉に従って、ゆっくりと手前に開き始めたが、それと同時にどこかで重たいものが落下する音がした。
「「あっ」」
「へぶしっ」
運悪く、西階段で登攀の訓練をしていた、誰かが巻き込まれてようだった。
「・・怖ろしい罠だった・・」
「お前、それで済むと・・いや、そうだな、そういうことにしておいた方が良さそうだぜ」
セイバーに真実がばれれば、止めなかった自分にも火の粉がふりかかる。そう判断してアーチャーは、二重の罠があったことにした。
状況のつかめないキャスターを無理やり呼び寄せると、宝箱の中をチェックしてもらう。
「石版は丸い方しか使わないようだな。あと空に見せかけた小袋の中に鉄の鍵が入っていた」
「うっかり見落としたら、鍵を探して右往左往だな」
「光は上を指すようになった。戻ろう」
3人でセーフティールームに戻りながら、今後を話す。
「ランサーの呪文で、からくり扉も無理やり開くんだから、このまま南下するのも手だぜ」
「鍵と奇妙な石版はどうする?」
「ちっ、そうか、そうだよな。そんな単純な手で突破できるようには造ってねえだろうなあ」
セーフティールームで、泥まみれになったセイバーと合流すると、この先の打ち合わせをする。
キャスターに治癒呪文をかけてもらいながら、にらみつけるセイバーの視線を、二人はそ知らぬ顔でやりすごす。
「配置換えを希望する!」
セイバーの宣言に、負い目のあるランサーが頷いた。
「・・わかった、アーチャーが適任だ・・」
「おい!」
「そうだな、アーチャーなら私のように坂を登るのに苦労はしないだろう。鍵を開けるのはまかせておけ、罠が発動しても耐えればいいのだからな、あの巨岩のように」
「ちぇ、どうなっても知らねえぜ」
「まあ、今までの探索で要領は掴めたはずだ。分担して進めていくぞ、もう時間がない」
キャスターの指示で4人は一斉に動き出した。確かにもうすぐ30分を経過する。増援を頼むにも、敵ガーディアンの戦力さえ不明だ。
もしかしたらガーディアンは居ないのかも知れない。そんな気さえする4人であった。
モフモフ陣営 敵侵入から28:14
「大丈夫、ちゃんと防衛メンバーは配置してあるから」
「主殿、独り言か?」
「皆が心配してるかと思ってね」
「確かにな、私も果たして出番があるのか心配になってきたぞ」
ロザリオの心配は尤もだよね。まあ、ポイントの都合で、希望者を全員、転送することは不可能だし、あきらめてもうらう可能性も・・・
「うっ」
視線を感じて後ろを振り返ると、そこには完全武装して出発を待つ、メンバーの長い列が出来上がっていた。
「新人のエルフ兵士Bが選抜されたのでな、リザードマンの下っ端までチャンスありと思って参加表明してきたぞ」
「・・すごい人数だね・・」
「さあ、主殿、こちらの準備は万全だ。いつでもいけるぞ」
「「ウィーース」」
これで、このままバトルが終了したら、暴動が起きそうなんですけど・・
『探索チームの再転送可能時間まで、あと1分ですわ。召喚・転送には3分間のインターバルが与えられますから、その間に、先の探索チームと情報交換をして、増援する眷族を決定してくださいませ。それを過ぎると、再び30分経過するまでは、探索チームを送り込むことはできなくなりましてよ』
「姫」のアナウンスが流れてきた。こちらの残りポイントは1000ちょっと。それで相手の防衛ダンジョンを突破する必要がある。ロザリオやベニジャを送り込むと、固定武装の追加ポイントまでかかるしどうしようか。先発部隊と同じように汎用武装で戦ってもらうしかないのかも。
「マスター様、少々お時間よろしいですか?ジャー」
「ハクジャ、手短にね」
「はい、以前、元のダンジョンでバトルを挑んできた者が、裏技を使ってきまして、ジャジャ」
「裏技?」
「固定武装を・・・」
「それ、ありなんだ・・・」
「特に罰則もなく・・」
「よし、やってみよう。成功すればポイントの大幅な節約になるからね」
「仰せのままに、ジャー」
『時間ですわ。ただいまより3分間の作戦タイムに入ります』




