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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第7章 冥底湖の魔女編
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失われたアーク

 オババ陣営 探索チーム侵入から05:22


 「敵影無し、部屋は同じつくり、3方に木製の両扉」

 セイバーから簡潔な報告がなされた。

 西の階段を落ちて、最初の扉は念入りに罠感知をしてもらった。聖なる道程でも、行くべき道にある罠までは避けてはくれない。床にある落とし穴は踏まなければいいが、開けないと先に行けない扉に仕掛けられた罠は、解除するか、耐性の高い者が受けるしかないのだ。


 「罠はなさそうだな。なんでわざわざ耐久の低い、木製で両扉にしてあるのかが、わかんねえけど」

 アーチャーが首を捻りながら元の位置に戻ってきた。

 先頭は、盾役のセイバー。2列目がアーチャーとランサー、そして後詰がキャスターこと私になる。

 前方の索敵と、罠感知のときだけ、セイバーの横にアーチャーが並ぶ陣形だ。4人なら2-2の陣形も選択支にはあったが、後方から奇襲を受けると、ランサーが狙われやすいので、1-2-1にした。

 敵陣営に1撃で我々を倒すようなつわものはいないだろうが、連携して1人を狙ってくる可能性は高い。侮って足元を掬われるのは愚か者のすることだ・・・


 先導する光の筋は、そのまま正面の両扉を示していた。

 「両脇は探索しなくていいんだよな」

 「今は、行けるところまで進む。この秘蹟呪文も持続時間は30分だ」

 屋外なら6時間は持つが、ダンジョンだと30分に限定される。それでも、こうやって無駄足を防げるのだから、効果的な呪文ではある。


 「ほいほい、正面の扉に罠は・・無し。物音も聞えないぜ。ガーディアンはハズレ方向に固まってるのかねえ」

 「無駄口を叩いてないで、後ろに下がれ。開けるぞ」

 セイバーがそう言って、木の両扉を押し開けた。その先には、地面がむき出しの下り階段が続いていた。


 「造りはさっき降りてきた階段と同じだな。罠は・・無し。足跡も無し、まあ造りたてだし、ないわな」

 「扉はどうかな?」

 「んーー、造りは同じ、罠も無し、音もしないぜ」

 「開けるぞ」


 「敵影なし、部屋は同じ、扉も3つ」

 ほぼ同じ報告がセイバーから届く。何の変化もない探索に、嫌な予感が少しした。それはアーチャーも同じだったらしい。


 「何もでない、何も置いてない、罠もねえ。同じ階段と部屋が並んでるだけってのは、やばくねえか」

 「敵の術中ということか?」

 セイバーが危惧を口にした。


 「まだ2部屋だし、呪文の効果でハズレをつかまされていない可能性もあるが、最初の部屋から4つに分岐してるのに、こちら側だけで、さらに5箇所も開けていない扉があるんだぜ。まさか防衛用に資産を全部使ったわけもねえだろう」

 北と東はすぐに行き止まりの可能性もあるが、それならこちら側に罠とガーディアンが集中しているはずだ。ダンジョンの拡張に重点を置き過ぎて、他に回せるリソースが不足したのだろうか・・・


 「・・方向が変化した・・」

 ポツリとランサーが呟いた。

 いつの間にか光の筋が、正面から北へと動いていた。


 「ランサー、助かった。まずは右手の扉を確かめてから、考えよう」

 「・・バーサーカー・・」

 「さあ、ランサー、行くぞ」

 アーチャーの罠探知の後に、セイバーが扉を開けた。何かしらの変化があることを祈りながら・・・


 変化はあった。土の階段が昇りに変わっていたのだ。

 「なるほど、上の階層に戻るのか。ということは2階層めも無限に広がっているわけじゃなさそうだな」

 2階層の、無視してきた分岐が、こちら側には広がっていないことを、アーチャーが指摘した。それはこのダンジョンが無秩序に広がっているわけではないという証拠だ。安心して光の筋を辿る。

 ところが・・・


 「ん?こいつが本命なのか?」

 階段を昇り切った所にある木の両扉ではなく、途中の踊り場に散乱していた、ガラクタの一つを光が照らしていた。


 「松明、陶器のゴブレット、ランタンの油、水晶、水袋、火打ち石と火打ち金、青銅の鍵、星型の石版、銀貨3枚、矢が2本・・・冒険者の遺品かあ?」

 「いや仮想ダンジョンで死ぬ冒険者はいないだろ」

 「容赦ないツッコミありがとよ。だがどう見てもそんな風情だぜ、こりゃ」


 アーチャーの言いたいことは良くわかる。何かの偽装にしても意味ないだろうに。いや、必要な物を紛れ込ませるなら、ありなのか。この呪文の前では無力だが。

 「その青銅の鍵が必要らしい。アーチャー拾ってくれ」

 光は、この先で必要なアイテムさえも指し示してくれる。この場合は文字通り、青銅の鍵がキーになるようだ。


 「ほいよ」

 気軽に言って鍵を拾おうとしたアーチャーの手が止まった。

 「危ねえな、ここで罠かよ」

 どうやらアイテムのちらばっている階段の踊り場、全体が落とし穴になっていたようだ。踊り場に踏み入らなければ鍵が取れない以上、呪文はその危険を無視する。必要なリスクというわけだ。


 「解除できないのか?」

 「無理ゆうな。落とし穴ってのは大抵は作動させてから、再稼動しないようにするもんなんだ。その上に大切な物が載っていたらうかつなことが出来ねえよ」

 「なるほどな、よく出来た罠だ」

 「ああ、向こうのマスターの性格がわかるぜ。こりゃ本腰入れたほうが良さそうだ」


 危うくその罠にかかりそうになったアーチャーの雰囲気が変わった。今までも舐めていたわけではない。だが、新人マスターだからとほどほどに見積もっていた難易度を、上方に修正した。

 「さて、どうするかねえ」


 落とし穴が作動してしまうと、上に乗ってるアイテムは全部下に落ちるだろう。底が深かったり、濁った水でも張ってあれば、回収するだけで大幅な時間のロスだ。なんとか鍵だけ遠くから手に入れたい。

 「オレがやろう・・」

 そういってランサーが呪文を唱えた。


 「見えざる魔力の手よ、我が意のままに動け、メイジ・ハンド(魔術士の手)」

 すると、半透明の手袋のようなものが浮き上がり、宙を漂うと、青銅の鍵を無事に摘まんで戻ってきた。

 その鍵をキャスターに手渡すと、光は今度は星型の石版を示す。

 「・・これもか?」

 そういってランサーは、謎の石版も拾ってみせた。


 すると先導の光は、さっきの部屋に戻れと指示してくる。

 「この先はいいのか?」 

 セイバーが階段の上の両扉を指すが、キャスターは首を振った。

 「光が指さない以上、この先はハズレだろう。戻ろう」

 「なるほどな」

 4人は、鍵と石版を手にして、後戻りした。



 「それで、これかよ」

 隣の部屋に戻って、先に進もうとすると、光は中央の床を照らして止まってしまった。アーチャーが丹念に床を調べると、どうやら中央にプレッシャープレートが埋まっているらしい。


 「つまり、ここに誰か乗れということか」

 「いや、人で無くてもいいだろう。重さがあれば」

 ということで、近くの壁を削って、それなりの重量の土塊を手に入れると、指定された場所に置いてみた。

 すると、どこか遠くで何かが作動した気配がする。光の筋はなぜか急激に部屋の隅へ移動した。

 ズンッ  と突き上げるような振動が足元に伝わると、セーフティールームの方向から、何か巨大な質量が転がってくる音が響いて来た。


 「まずい!部屋の隅に避けろ!!」

 キャスターが叫ぶのと同時に、4人がそれぞれ近い部屋の角に散開した。

 そこに巨大な岩の砲弾が転がり込んできた。


 ゴロゴロゴロゴロ ズバーン ガラガラガラガラ ズパーン ゴロゴロ・ゴロ・


 目と鼻の先を、直径3mはありそうな巨岩が走り抜けて行くのを、4人は呆然と見送っていた。


 最初に我に返ったのはキャスターだった。巨岩の過ぎ去った方向を見ると、扉は破壊され、上に昇る階段が、見えていた。

 「まだだ、戻ってくるぞ!」

 ふらふらと部屋の中央に戻りかけたアーチャーを引き止める。


 そこへ、先ほどよりはゆっくりと、しかし圧倒的な重量感をともなって、巨岩が転がり戻ってきた。さらに、途中まで反対側の階段を昇ると、ゆっくりと部屋の中に転がり込んで・・・そして停止した。


 「アーチャー、罠を作動させてどうするのだ」

 セイバーが文句を言うが、アーチャーは反論した。

 「この巨岩は、そこの機構を動かしたから発動したんじゃねえ。何か他のトリガーがあるはずだ」

 確かに、光の筋は元来た階段をセーフティールームの方へ上がるように伸びている。道は開けたらしい。

 だが、巨岩が転がり落ちてきたルートを遡るには勇気が必要だ。しかも土で作られた階段は、大きくえぐれていて、ほとんどスロープに変形していた。


 「ダンジョンが土でできているのは、こういうことかよ」

 階段の段が、綺麗に潰された坂を見上げて、アーチャーが呟いた。


 しばらく次の巨岩が転がってこないのを確認してから、意を決して坂を昇ろうとした4人だったが、いつの間にか部屋にあった巨岩が消失したのに気がついた。それとともに、光が、再び床の中央を指している。


 「おいおいおい、リセットされたらやり直しなのかよ」

 どうやら巨岩が消えて、再装填されるまでに先に進まないとダメなようだ。だが、転がってる最中は危なくて昇れるわけもない。

 直系3mの球体は、階段をほぼ埋め尽くして転がり落ちてくる。さらに行き過ぎてから10秒ほどで戻ってくる。それが安全な速度まで落ちてから、あの坂を駆け上るのだ。


 「さっき使った土塊は、ものの見事に粉砕されてるな」

 セイバーが部屋を縦断する巨岩が残したラインを指差した。

 床もくっきりとへこんでいるが、階段ほどは削れていない。ただしその通過した後には何も残されていなかった。


 「どうせ吹っ飛ばされるんだ、誰かが踏んでも一緒だろうぜ」

 アーチャーがそう言った時には、すでに他の3人は部屋の隅に張り付いていた。

 「おい、ずるくねえか!」

 アーチャーは文句を言うが、キャスターは取り合わなかった。

 「試すにしろ、一番反射神経が良いのはアーチャーだからな」

 「踏んで、避けるのに反射神経はいらねえよ。まあいい、うっかりタイミングのがして、牛に踏まれたヒキガエルみたいになるんじゃねえぞ」

 「・・それフラグ・・」

 「うるせい!不吉な事を、不吉な面で呟くな。いくぞ!」


 掛け声とともにアーチャーが圧力感知版を踏み込んだ。

 さきほどと同じ、何かが作動する気配とともに、突き上げるような振動が響いて来た。


 「おでましだぜ」

 吹き飛ばされて、木っ端微塵になった木の扉がないので、巨岩が、かなり上方から転がって来るのが見える。これが石の階段なら、角で撥ねたりして軌道がずれる可能性もあるのだが、土では逆に押しつぶされて出来た溝がレールの役目を果して、スムーズに転がってくる。

 最初より少しだけ速度を速めて、巨岩が目の前を過ぎていった。


 「このタイミングで駆け上っちまえば良くないか?」

 アーチャーの案にキャスターは首を振った。


 「全員がミスなしで登攀に成功すればいいが、失敗すると悲惨だぞ」

 後ろから押し寄せる巨岩に轢かれる未来予想図を描いて、アーチャーは顔をしかめた。

 「だな、賭ける物がでかすぎるぜ」

 「そういうことだ」


 話している間に、戻ってきた巨岩が、目の前の階段をゆっくりと昇って、踊り場まで乗り上げ、そしてそこで止まった・・・

 「おい!聞いてねえぞ」

 「さきほどより、速かったから、踊り場まで戻ってしまったようだな」

 「邪魔だろう、あれ。隙間がねえぞ」

 重量で階段を押しつぶした分、天井付近の両隅が一番空間が広いが、金属鎧を着込んだ二人は難しそうだ。よじ登っている最中に巨岩が転がりだすのも怖い。


 「消えるまで待つか・・・」


 まだ敵のガーディアンと戦闘すらしていないし、罠にかかって被害がでたわけでもない。なのにすでに経過時間は15分になろうとしていた。


 「我々はいったい何と戦っているのか・・・」


 キャスターは、言い知れぬ不安に襲われていた。



 モフモフ陣営 敵侵入から15:01


 「いい具合に足止めできてるね」

 「れいだーす」

 踊り場で岩が止まったのは偶然だけどね。


 「ギャギャ(あれどうやって抜けるんですか?)」

 「おれまかー」

 コアの言うとおり、誰かが「ここは俺に任せて先に行け」でいいんだけどね。まあ4人しかメンバーがいない時点で、このダンジョンの難易度が上がったから。

 さすがに序盤で1人残していく判断は出来ないだろうから、もうしばらく悩んでもらうとしよう。


 「ギュギュ」  「ん」

 穴熊チームの出番はもうちょい後になりそうだよ。

 


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