壁に耳あり、障子にメアリー
モフモフ陣営 探索チーム侵入から00:15
「皆、無事だか?」
チームリーダーのノーミンが、周囲のメンバーに安否をたずねた。
「へっちゃらっす」
「オデ、いる」
「ヘラでしゅ。大丈夫でしゅ」
「キュキュ」
「問題ないであります」
残りの5人が返事をして、無事を伝えた。
「兵士Bさんは、名前なんだべ?」
「はっ、本名はテオド-ルでありますが、Bでもテオでもお好きなように呼んでください」
「そしたら、テオって呼ぶだよ」
「キュキュ」
探索チ-ムが召喚されたのは、コアルームと同じサイズの四角い部屋で、4方に石の扉がついていた。
「セーフティールームはいじれないって聞いたっすけど、扉は付けられるすかね?」
ワタリが特徴のない石扉を見渡しながら、呟いた。
「キュキュキュ」
「親方によると、扉は壁1枚分、へこんでいるそうです」
もともと地下トンネルの中を、獲物を捜して徘徊するために発達したアースソナーの技能は、エキドナに進化した親方にかかれば、ダンジョンの空間把握もできるようになっている。
注意しなければわからない扉のずれも、土木建築のプロフェッショナルには、あきらかな歪みに見えるのだろう。親方が共通語を話せれば、
「べらんめえ、手抜き仕事しやがって」
ぐらい言いそうであった。
「なるほどっす、部屋と廊下の境界線上ではなく、廊下側に扉をつくったっすね」
「だとしゅると、扉に罠があるかもでしゅ」
セーフティールームには罠は設置できない、けれどそこから拡張された廊下には可能だ。もちろん廊下に設置された石の扉にも罠は仕掛けることができる。
「さて、どこから行くだべか」
ノーミンが迷っていると、親方が鳴いた。
「キュキュキュ」
「一つ以外は、1マスで行き止まりだそうです。その扉だけ、奥が長い廊下になってるみたいだと」
親方のアースソナーは、石の扉越しでも5mは空間把握が可能だ。これが木の扉なら10mは探知できる。
「3方向が1マスで行き止まりなら、残りが本命っすね。親方、この扉の向こうには動く奴等はいないっすよね」
親方は、ギリギリまで扉に近づくと、向こう側の気配を探っている。
「キュキュ」
「大丈夫だそうです」
「なら開けるっすよ、後ろに下がって欲しいっす」
ワタリの警告でメンバー4人は後方に下がったが、グドンは戦斧とラウンドシールドを構えて、扉の正面に立った。
「そこだと罠があったら巻き込まれるっすよ」
「オデ、敵から皆、守る」
どうやら遠くからの射撃や、突撃してくる敵がいたら、立ち塞がるつもりのようだ。
「了解っす、頼りにしてるっすよ」
そう一声掛けて、ワタリは石の扉を押し開いた。
割と、すんなり開いた扉の向こうには十字路が繋がっていて、正面にはやはり、石の扉が見えた。
「キュキュ」
「動体反応ないそうです」
もちろんアースソナーでは、身動きしない魔物と置物の区別はつかない。ただアンデッドやリビング・ドール系のモンスターでない限り、呼吸音や足踏みの音で探知が可能だ。
「ヘラ、頼むだよ」
「はい、でしゅ」
リーダーに指示されて、ヘラがディテクト・アーストラップの呪文を掛けた。
「正面、十字路の中央の床に罠がありましゅ」
「基本に忠実っすね」
オーク男爵の遺跡でも、あの位置に落とし穴があった。一昔前は流行ったのだろう。
ヘラの集中が切れる前に、ワタリが気配を隠して十字路の左右を覗きに行った。安全が確認されると、グドンが片手で抱きかかえて、ヘラを移動させる。
十字路の左右の床には罠が無いことを確かめて、呪文を取りやめた。
「あのう、わたしゅぃの呪文では床の罠しゅぃか見破れないでしゅよ?」
「高Lvの罠探知技能持ちがいないので、仕方ないっす。落とし穴と毒針だけ避けられれば大丈夫っす」
「はあ」
「マスターが言うには、オババは罠よりも眷属を召喚して防衛するタイプだろうから、罠探知に時間をかけない方針でいいらしいっすよ」
ワタリはしゃべりながら、十字路の落とし穴の周囲に炭で黒線を引いていた。
「ここは踏んじゃダメっすよ」
おっかなびっくりで、罠を避けて進むと、正面の扉の前まで移動できた。
「左右にも扉があるっすね」
横切った左右の通路の奥にも石の扉が存在していたが、まずは正面から調べてみる。
扉なので、今度はディテクト・ポイズンの呪文だ。これは元々、野外で採集した木の実やキノコに毒がないか調べる術だが、食事に毒が盛られていないかや、毒蛇や毒蜘蛛の判別、そして毒を使った罠の探知にも役立つ。
「この扉には毒の反応はないでしゅ」
同じく、左右の扉も見てもらうが、毒はなかった。
「キュキュキュ!」
「正面奥に動体反応あり!蛙の鳴き声と巨体が撥ねる水音がするそうです」
「ハクジャの言ってた通りだべ。オババは蛙好きなんだと」
少し意味合いが違うような気もするが、メンバーには意図は伝わったようだ。
「オデ、蛙倒す」
グドンが戦闘体勢をとるが、ノーミンが諌めた。
「だめだ、ここは後回しにするだよ」
「まずは周囲の状況確認っすね」
「キュキュ」
「正面奥には2体以上が、かなり広い部屋に散らばっているらしいです」
ジャイアント・トード3体ぐらいまでなら、このメンバーでも突破できると思うが、ノーミンは大事をとって、迂回することに決めた。
30分後の第二次探索チームが来るまで、できるだけ戦力は温存する。それがノーミンに託された使命だと信じて・・・




