勝ち取るもの失うもの
「最初に、委員会の代理としてお詫び申し上げますわ。ウチのスタッフが暴走して、ご迷惑をおかけいたしました」
「姫」の挨拶は謝罪から始まった。
「おやおや、徹底して自分たちの非は認めない委員会が、どういった風の吹き回しかのう。明日は雨が降るかもしれん」
「ケロケロ」
けろっぴは静かに・・・
「ケロ」
「委員会の管理不行き届きで、マスターの方々に迷惑をかけたなら、頭を下げるのが当たり前だと思いますわ。他の管理者はいざしらず、この「姫」が関わっているのなら、不正も粉飾もありえませんですことよ」
「真っ正直なのも時によりけりじゃよ。そんな性格では、そっちじゃ暮らし難かろうに」
「だからオババ様は、そちらに行ったっきり戻ってこないのですか?」
「ワシはこっちが性に合ってるでな、まだしばらく帰らんよ」
「それは構いませんが、「ヤンデレ」を唆さないでくださいまし。危うく、今世紀最大の不祥事になるところでしたですわ」
えらいスケールが大きくなっているんですけど・・・
「なに、たかが100年に一度起こるぐらいのアンコモン事象じゃよ」
そういわれると、千年単位で考えれば10回は起こるのか。長命種は業が深いね。
「とにかく、騒動に巻き込まれたコアのマスターさんには、後ほど委員会からお詫びの品を差し上げます」
「ワシには、無いのかのう」
「ありませんわ!本当なら、幇助もしくは志操犯として罰則の対象にしたいぐらいですのに」
「はてさて、純真な乙女をつかまえて、悪人呼ばわりは心外じゃのう。証拠でもあるのかい?」
「委員会へのコールは消去されてましたし、実行犯は黙秘を続けていますわ。状況証拠は真っ黒ですが、裁判になれば証拠不十分で罪には問えないですわね」
「じゃったら・・」
「で・す・が、罰則は科せなくても警告はできましてよ。ましてや詫びの品など、もっての他ですわね」
「姫」は、かなりお冠みたいだ。
「なんじゃ、年寄は、もっと労わるものじゃろうに。最近の若いもんは・・・」
「オババ」が部屋の隅でグチをこぼし始めた。ああなると長そうだよね。
「それと今回のダンジョンバトルですが、圧迫面接にあたりますので、無効に・・・」
「いえ、バトルはやります」
「え?」
「おお、それでこそ男というものじゃ。お主、分かっておるのう」
「僕もいい加減、怒ってるんですよ。嫌がらせだかなんだか知らないけど、先輩風吹かして押しかけてきて。しかも弱い者いじめみたいな呪いかけて。ここまでやられたら、一泡吹かせないと収まりませんよね」
「こりゃ驚いた。巣に篭っている臆病者かと思っていたら、とんだ益荒男じゃわい。じゃが、喧嘩を売る相手をよくよく考えることじゃのう」
「そうですわ、一時の感情でダンジョンバトルを受けるのはどうかと・・・」
「どうせここで断れば、粘着されるんです。それぐらいなら勝敗を決して、二度と近寄らないように一筆書かせますよ」
「なんじゃと、言わせておけば雛っ子風情が大言壮語を吐きよって。いいじゃろう、ワシが本気で相手をしてやるわい」
「おやおや、さっきまでは負けた言い訳にするつもりで、手を抜く作戦だったんですか」
「お主なんぞ、1割の力で勝てるが、冥土の土産になるように全力で叩き潰してやるわい」
「姫」はおろおろしながら二人のやり取りを聞いていたが、観念してお仕事モードになったようだ。
「それでは最終確認をいたしますわ。コアのマスターさんは、全権委任コアの「オババ」様の申し入れをうけてよろしいのですわね?」
「はい」
「そうですか・・貴方がそうお決めになったのなら、私は全力でジャッジをするのみですわ。例え、今回のバトルが、委員会のミスで引き起こされたものだとしても、貴方が受け入れた以上、判定は公正を期すことになりますですわ」
・・・そこは手心を加えてもらってもいいんですけど。
「だいなしっす」
「それではダンジョンバトルのレギリュエーションを決定します。対戦を申し込まれたマスターが希望を述べてくださいませ」
「僕はビルドバトルを希望します」
「ほう、なるほどのう。直接眷属同士の戦闘になったら勝てないとふんでの、ビルドバトルか。少しは考えているようじゃのう」
オババの言うとおり、召喚できる眷属の上限が違いすぎて、モンスター・ウォーズやクランストラテジーでは勝ち目はない。唯一同じポイントでダンジョンの構築と探索眷属の召喚をするビルドバトルなら勝負になるはずだ。
「いいじゃろう、端から勝負が見えている戦いをしても面白くないからのう。せいぜい悪足掻きをするのじゃぞ」
探索眷属にも自信のあるオババは、余裕を見せて承諾した。
「では、勝敗に賭する条件を、お互いにどうぞ」
「ワシは、そうじゃのう・・・勝ったら蛙のハーヴィーとその装備一式の引き渡しじゃな」
「僕は、蛙のハーヴィーの解呪と、これ以降の僕等に対する悪意ある行動の禁止ですね」
「その条件ですと、オババ様に追加条件が発生しますわ」
「せっかくじゃから、ハクジャも返してもらおうかの。元はワシの眷属じゃったしのう」
うっ、そうきたか。
「マスター様、ワタシの事はお気になさらず、お心のままに、ジャー」
「祖父さん、だって負けたらアイツの下僕にされちまうんだぜ、ジャジャジャ」
「元より、滅亡寸前の部族をマスター様に救っていただいたのだ。ワシの進退で事が済むなら安いものジャー」
ハクジャは、そう言ってベニジャを諭した。
「それにマスター様は勝つのでしょう。ならば誰が質になっても問題ないですジャー」
そう言われたら反論できないよね。負けて失うのが嫌なら、うかつに勝負を受けてはいけない。ハクジャは、それを僕に教えてくれているんだ。
「うん、大丈夫。僕等が勝つよ」
「びくとりー」、




