あなたはこの人を知っていますね
罠部屋まで真っ直ぐ来た魔女と骸骨戦士の一団は、3方の扉をぐるりと見回すと、農具置き場への扉を目指して進み始めた。どうやらけろっぴをビーコンにしているようだ。
「それぐらいにしといてもらえませんかね?」
どうせロザリオの代役とか立てても見抜かれるだろうから、声だけ罠部屋に飛ばしてみた。
「やっと、マスターのお出ましかい?ずいぶん声が若いが、新米ってところかね」
ダンジョンマスターの領域にいるのに、ずいぶん余裕だね。よほど自分たちの実力に自信があるみたいだ。
「すいませんね、無駄に歳食っても良いことないんで」
ピキッ
「いい度胸だ、このワタシに喧嘩売ろうってわけかい?」
割りに煽り耐性なさそうだね。
「人の家に断りも無しに上がりこんで来たのは、そちらでしょう」
「ふむ、ここは家だったのかい、てっきりワタシはゴミ捨て場かと思ってたよ」
ビキッ
「だとしたら、ゴミ漁りにきたわけですか。長い人生の終着点が、ゴミ漁りとは、泣ける話ですね」
ピキピキピキッ
「おら、坊主、表に出な!ヒキガエルにしてやるよ」
「そう言われて領域から出る馬鹿はいないですよね、貴女は出るんでしょうけど」
ヒートアップする二人のリーダーを、周囲の穏健派が宥めにかかる。
「カタカタカタ(若者に煽られて怒ったら負けですよ)」
「こっちから、喧嘩売ってどうする気っすか。暴れられたらコアルーム毎、吹き飛ぶっすよ」
「・・・ちょっと大人気なかったのう」
「・・・まず用件をお聞きしましょう」
魔女は物語で出てくるそのまんまの姿をしていた。ズタボロの灰色のローブに、紫色の三角帽子。顔は皺くちゃで、落ち窪んだ目に、長い鉤鼻、尖った耳、大きく裂けた口には、乱杭歯が並んでいる。
骸骨戦士は、全員がファントムマスクの様な奇妙な仮面をつけていて、額にサンスクリット語で数字が書かれていた。装備している武器が違うので、4体全てが前衛というわけでもなさそうだ。
「7、たぶん13、21か31、26か36」
「ほー、坊主は見かけによらず学があるようじゃな」
見てないクセに良く言うよ。
「こいつらはスケルトン・ウォーリアーに、死んだ戦士の魂を封じて造った守護者だよ」
あっさりと手の内をバラしてきたけど、本当だとしたらやっかいだね。スケルトン・ウォーリアー自体でもランク6以上ありそうなのに、そこに生前の技能や特技が上乗せできるとしたら、同じLvの冒険者よりやっかいな相手になる。
「そうやって手持ちの戦力を誇示して、威圧外交ですか?」
「素直に威圧されるタマでもないじゃろうが。しかし、仮面の守護者を率いる魔女の話も知らぬとは、これは予想以上に、ここに来てから日が浅そうじゃな」
ん?どういう意味だ。こいつ有名人なのか?
「ギャギャ(もしかして冥底湖の魔女?)」
「めっちゃメジャー級っすよ、土下座するしかないっすよ」
「やべえ、今朝の鮭を半分残しておいたのがバレたのか、ジャー」
ああ、あの鮭の骨をスケルトンに変えるって噂の魔女か・・・
「なんか失礼な事を考えてるようじゃが、一部のリザードマンに流れている伝説は嘘じゃからな」
本人も風評被害を気にしているらしい。
「とにかく、ここに蛙と蛇と子豚が逃げ込んだじゃろ。それらを引き渡してもらおうかの」
やっぱり、あの3人が目当てか。
「お断りですね。彼らはすでに眷属化しています。貴女にどうこう言われる筋はありませんね」
「威勢がいいのは良いが、自分が誰に楯突いてるのか、わかってるのかい?」
「保護を求められて、眷属化までした以上は身内です。非友好的な相手にホイホイ引き渡すほど、落ちぶれてはいないつもりですよ」
「・・・若いのに立派な志じゃないか。だが、嘘はいけないねえ。1人は確実に眷属化できなかったはずじゃよ」
魔女に痛いところをつかれた。
元の記憶がほとんどない、ハーフリングは、眷属化できなかったし、庇護の要請も受けていない。同僚のヘラが同じ待遇を希望しただけで、本人は望んでない可能性もあった。
まあ、自分を蛙に変化させた魔女に引き渡されるのを、よしとするわけもないんだけれど。
「迷ってるようじゃな。蛙を引き渡すのなら、あとの2匹は見逃してやってもいいぞ。すでに呪いも解いて、眷属化もしたようじゃしの、ひっひっひっ」
この婆さん、最初からけろっぴ狙いかよ。こっちの状態を把握していて、乗り込んできたのか。だけど、なぜけろっぴに固執するんだろう・・・
「きっと、魔しょうでしゅ。逃げるときに残りがダメになったかもでしゅ」
なるほどね。
「じゃあ、蛙もといハーフリングの装備は全てもらいますよ。うちは身包み剥ぐのが基本なんで」
「おやおや、聖人君主面して、やってることは追いはぎかい」
「観客のいない手品師より、稼げますから」
ピキピキ ビキビキ
再び、不穏な空気が漂い始めた。
「坊主、欲を掻き過ぎると早死にするよ」
「いえいえ、強欲な先人がピンピンしてるんですから大丈夫ですよ」
「ワタシを冥底湖の魔女と知って、喧嘩うってるんだろうね」
「まさか、貴女が冥底湖の魔女の名を騙っているのを知っているから、強気に出ているんですよ」
「どう言うことだい!」
うろたえる魔女に、声を掛けるメンバーがいた。
「それはこちらが聞きたいな。こんな所まで出張ってきて、何をしてるのじゃ、オババ、ジャー」
真実を知る証人、ハクジャがその場に現れた。
「ばばーん♪」
うん、そのタイミングで効果音は正しいね。




