暗黒邪神教の恐怖
「キュキュ」
「確かに親方も掘ったよね。最初の通路は親方達の作品だ」
「ギュギュ」
「拡張したのは穴熊ファミリーだったね。最初のコアルームは穴熊ファミリーの作品だね」
「なんの話っすか?」
「え?誰がダンジョンを造ったのかって話だよ」
先日、眷属化したツンドラエルフ達に支配地域を案内した。そのときに、上部構造が手作り感が満載という感想がでて、親方達が胸を張って答えていた。
それで改修も視野に入れて、ダンジョンの見回りをしている最中だ。
もう「拡張」が自由に使えるので、広くするのは簡単なのだけれど、愛着の湧いた上層部分は、正直このままにしておきたい気持ちが強い。
コアルームだけは、地下の安全な場所に移転したいところだが、「再配置」が使えるようになったらだね。
さて、そのエルフ達だけど、彼らは今、ロザリオの元で新兵訓練をしている。
「それが、あれっすね」
ワタリが指差した先には、鬼軍曹に扱かれる子羊達が走っていた。
「モフモフ、肉球、大事だぞ!」
「「モフモフ、肉球、大事だぞ!」」
「こいつはドでかい、ご褒美だ!」
「「こいつはドでかい、ご褒美だ!」」
「「撫でる、愛でる」」 「「撫でる、愛でる」」
「女帝マリアには、内緒だぞ!」
「「女帝マリアには、内緒だぞ!」」
「「モフる、プニる」」 「「モフる、プニる」」
奇妙な訓練歌をどなりながら、エルフの一団がランニングをしていた。
鎧を着て、剣と盾を装備しているので、かなりの重量だ。何故かケンが併走してペースメーカー役をしている。
「100m通路を50周、その後は水牢へ降下して立ち泳ぎで対岸までたどり着いたらロープクライミングを10セットだ」
ロザリオ鬼軍曹の容赦ないトレーニングメニューは、まだ始まったばかりのようだ・・・
「あそこは気の済むまで、ほっておくとして・・」
「それしかないっすよね」
「冒険者ギルドが本腰を入れてきた時の為に、ダンジョンを強化しようと思う」
ハクジャによる4人組の尋問で、幾つかわかったことがある。
まず、4人組はギルドの依頼で、三日月湖のリザードマンクラン(ハクジャ達の「下弦の弓月」と思われる)を調査に来たらしい。
オークの丘の調査隊とはまったくの別行動だったので、同時に侵入してきたのは偶然ということになる。ただし、そちらに別の依頼が出ていたことは把握していた。
「エルフといい、冒険者2組といい、タイミング合わせすぎだよね」
「まったくっす」
4人組の依頼では、リザードマンの間で「冥底湖の魔女」という伝説級の死霊術師が、クランを乗っ取ったという噂があるので、それを確かめるというものだった。
「冥底湖の魔女って実在するの?」
てっきり過去の存在だと思って、「三日月の槍」を威すのに使わせてもらったけど、肖像権の侵害で訴えられたりしそう?
「肖像権が何かわかりませんが、実在すると言われていますし、騙ったのがバレたら・・・ですジャー」
ハクジャが不吉な予言をした。
それフラグじゃないよね?
それとオークの丘は、なぜか暗黒邪神教団の巣窟に誤認されているらしい。
「暗黒邪神教なんてあるんだ」
「それについては、ワシらでは分かりかねますジャ。人族の新興宗教らしいので、ジャー」
なるほど、亜人達には浸透してないんだね。
「エルフでも聞いたことはないな。まあ字面だけでロクなもんじゃないのは分かるが」
新兵訓練中の軍曹からも、情報がもたらされた。
「あ、エルフの神官なら何か知らないかな?」
ダメもとで尋ねてみた。
「ふむ、よし、全隊止まれ!」
「「イエス、マム!」」
一糸乱れぬ統率で、エルフ小隊が停止した。
「10分間の休憩とする、全隊休め!」
「「イエス、マム!」」
「なお、メディック(救護兵)には周辺事情の報告をしてもらう。前に出ろ」
「イエス、マム!」
ランク6の神官なら、エルフの里でも幹部あつかいだろうに、なんか2等兵みたいな待遇で大丈夫なんだろうか・・・
「ギャギャ(皆さん、好きでやってるみたいですよ)」
そうなんだ・・・エルフにも色々なんだね。
「人族に信仰されている暗黒邪神教って聞いたことある?」
「はっ、ここ50年程で勢力を拡大してきた非公認宗教と聞いております。邪神による現世の破壊と、理想世界の再構築を目指す過激集団で、人族の中でも殺人と放火で指名手配されているとか」
うわ、バリバリの武闘派なんだ。もっと地下でこっそり山羊の血でも捧げてるタイプかと思ってたよ。
「基本は人口密集地に潜伏して信徒を増やし、摘発されそうになると大規模テロを引き起こして、混乱に紛れて拡散するそうです」
性質悪いね。摘発されること前提で動いてるのかー。その一部がオークの丘に潜伏したと思われたのかな。
「しかしそんな破滅的な宗教で、良く信者が増えるよね?」
「なんでも、彼らが信奉する暗黒邪神は、敬虔な信徒が13の貢物をすると、あらゆる願いを3つ叶えてくれるらしく、絶望に囚われた人族が最後に縋り付くのだそうです」
あ、その話、どっかで聞いたね・・・




