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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第6章 エルフ編
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開拓村の夜は更けて

 ビスコ村の夜も早い。日が沈めば、明かりは門の両脇に掲げられた松明と、家々の窓から漏れる暖炉の光ぐらいだ。村の外を見渡せば、月明かりに沈む鬱蒼とした森と湖、風に揺れる木々と、聴き慣れた動物の鳴き声だけ。

 開拓村にしては頑丈な作りの石造りの外壁は、日没を過ぎると固く扉を閉ざす。夜行性の凶暴なモンスターの侵入を拒む為だ。この近辺には危険な飛行生物はほとんどいないので、外壁を乗り越えさせなければ村は守れる。運悪く日没までに到着できずに締め出された旅人の安全は、自己責任となる。


 ただし、この規則にも例外はある。

 一つは貴族が入場を要請した場合。地位とは特権を振りかざす為にあるようなものだ。100人の村人の安全よりも1人の貴族の快適さが優先される。長いものには巻かれろということである。

 もう一つは冒険者がギルドの依頼で遠出をしていた場合。これは往々にして緊急事態が関わっている為に、時刻に関わらず、門が開かれる。

 今もそんな例外が訪れようとしていた・・・


 「開門!開門!」

 閉ざされた大門のノッカーを叩きながら、声を張り上げる者がいた。今は日付も変わろうかという真夜中である。

 見張り番の衛兵が、扉の横に造られた覗き窓を、慎重に持ち上げて外を見た。


 そこには、麻の茣蓙ござを身体に巻いて、ロープで腰を縛った、物乞いが4人、佇んでいた。

 衛兵は、そっと覗き窓を閉めると、何事もなかったかのように警戒に戻った・・・


 「ちょっと、今、こっち確認したでしょ。何、見てみぬ振りしてんのよ!」

 声を張り上げてビビアンが門番に文句を言った。

 

 「ここはビスコ村だ。村に用があるなら、明日の日の出を待って出直して来い!」

 門番も負けじと大声をだす。


 「はあ?あんた馬鹿?アタシが誰だか知らないの?その目も耳も飾りなの?」

 「どこの誰だか知らないが、入村税の銅貨5枚も払えないような、貧乏人は、門が開いていても入れないぞ」

 4人組の格好を見た門番は、物乞いと判断して取り合わない。そしてその対応にビビアンがぶち切れる。


 「ふふふ、いい度胸ね。この真紅のビビアンを、物乞いに間違えるとは・・・どうやらこの大門を燃やされたいようね・・・」

 「やめろ、ビビアン、賠償金で奴隷堕ちだぞ」

 ハスキーが背後から羽交い絞めにして必死にビビアンを止める。


 「スタッチ、門番に言って開けさせてくれ。このままだとヤバイ」

 ハスキーに言われて交渉役がスタッチに代わった。


 スタッチは、門番のシフトを思い出しながら親しげに声を掛けた。

 「今晩の夜警は・・確かロドリックだろ」

 「・・・そういうお前は誰だ?」

 「俺だよ俺、言わなくてもわかるだろ?」

 「最近その手の詐欺が多いんでな。明るくなってから来い!」

 「俺だよ、スタッチだよ」

 「戦士のスタッチなら、俺から借りた金の総額を言ってみろ。あといい加減に返せ」

 「・・すいません、人違いでした・・」


 「なんで、態々怪しげな態度をとるんだよ・・・」

 ハスキーは相棒の行動にため息をつく。

 「結局、アタシがやった方が早かったさね」

 満を持してソニアが門に向かう。


 「ほら、とっとと門を開けな。こちとらギルドの依頼で調査に出てたんだ。すぐに報告しないと報酬がでないんだよ」

 「・・それを証明するものはあるのか?」

 そう言われると、依頼票は装備と一緒に剥がされており、証明するものは手元には無かった。


 「ギルドに行けば依頼票の控えがあるはずさ。ここでアタシらを足止めしてるとギルド長からお小言くらうよ」

 「例え冒険者ギルド長でも、村の安全の為の規則は曲げられないはずだ。証明できないなら朝まで待つんだな」

 「この調査依頼は、ギルドの受付嬢から直接頼まれたんだけどねえ・・・」


 すると、微妙な間が空いたあと、大門が少しだけ開いた。

 「・・とっとと入れ・・・」


 「「「どんだけ恐れられてるんだよ、あの受付嬢」」」



 4人揃ってギルドに押しかけると、件の受付嬢が窓口にいた。

 彼女は、おこもさん姿の4人を見かけると、額を指先でもみながらため息をついた。

 「また、ですか・・・」


 「面目ない・・」x4


 「とにかく無事で何よりです。他のパーティーには重傷者がでていて今夜が峠だそうです」

 「それってオークの丘の調査に行った?」

 ビビアンが依頼票を思い出して聞いている。


 「はい、遺跡の探索途中で、外部のエルフと交戦したとか。そちらはどうでしたか・・・と言っても、大成功とは思えませんけど」

 一見すれば、4人の装備が失われていることがわかる。今度はどこで失敗したのか・・


 「お話は奥の個室でうかがいます」



 その頃、ギルドの診療室では、六つ子の1人が、生死の境を彷徨っていた。

 エルフとの戦いの後、すぐに泉の水を飲ませたり、神官が治癒呪文をかけたりして、一命は取り留めた。だが、胸に刺さった2本の矢のうち、1本が危険なほど深く刺さっていて抜くことができなかったのだ。


 仕方なくそのまま村まで運んできたが、2日間で患部が化膿してしまったらしい。

 高熱を出してうなされているが、体力が回復しないと鏃を引き抜くことが出来ない。残った5人はただ見守ることしか出来なかった。


 「・・ギルドマスターに報告しに行かなくていいの?・・」

 「ここは俺たちが見てるから・・」

 「そうだな、頼んだぞ・・」

 「うん・・」x4


 六つ子のリーダーは、弟の看病の為に、後回しにしてもらった報告をしに、ギルドマスターの私室に向かった。


 「ツンドラエルフに襲われるとは災難だったな」

 六つ子の話を聞いて、ギルドマスターが労いの言葉を掛けた。

 「結局は、支配者の正体は不明のままか・・」


 「申し訳ありません。あのまま調査を続行することは不可能でした」

 「いや、今回の遭遇戦はこちらも予想していなかった。君達に落ち度はない」

 東の大森林から出てこないツンドラエルフが、態々部隊を編成して遠征してくるとはな。いったいあの丘に何が隠されているというのだろうか・・


 「私達と交戦したツンドラエルフの部隊長の発言から察して、彼らはあそこに暗黒邪神の信徒が隠れてるとは思っていないようでした。どちらかというとアイスオークの様な、クランの天敵を想定していた気がします」

 「なるほど・・」

 それは悪くない情報だ。ギルドとしては村の近くに奴らの拠点を造られるのが一番まずい。暗黒邪神教団でなければ、大抵のものは受け入れ可能だ。


 「とにかく今は静養に努めてくれ。しばらくは調査の依頼もださないでおく」

 「はい、ありがとうございます」


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