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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第6章 エルフ編
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さらば我が愛剣

 その昔、東の大森林を支配するツンドラエルフのグランドクラン「静かなる冬の樹々」は、500年前のハインランドオークとの戦いで甚大なる被害を受けた。その結果、グランドクランは小規模化された3つのクランとしてなんとか存続したという。

 その内の1つが、そのまま大森林に根付いたクラン「静かなる冬の木立」らしい。

 ゆっくりと勢力を回復したクランは、今では大森林の大半をその支配下に治めたが、かつての隆盛には程遠い。グランドクラン当時は10あった血統家も、傍流も含めて7つしか残らず、構成員も往年の2割に欠けるぐらいだそうだ。


 「スノーホワイト家は、その7つの血統家の一つなんだ?」

 ミーシャが堅苦しい喋り方を嫌ったので、いつもの口調で話かけた。

 「以前は10家の中でも影響力の強い方だったのだが、最近は廃れるばかりで発言力もほとんどないな」

 クルスが苦笑しながら話す。


 「それでも格式はあるからまだマシで、うちなんか本家は別のクランに移ったから、傍流扱いもいいとこだぜ」

 ミーシャは日頃の長老達からの扱いに不満があるらしい。

 「ちなみにスノーホワイト家の発言力が弱まった理由の一つに、精霊王由来の家宝を紛失したというのがあるんだが・・・」

 皆の視線が横で正座しているロザリオに向けられた。


 「面目ない・・・」


 「まあ、やっちゃった事をとやかく言っても仕方ないしね。家宝はそちらにお返しします」

 「そうしてもらえると助かる」

 クルスは頭を下げて、こちらの好意という名の取引材料を受け取ってくれた。


 「主殿!それは私のメイン武具で・・」

 空気読まないロザリオを、ミーシャがはたいた。


 「このド阿呆!家長の許可なく持ち出した物は、今でもクランに所有権があるんだ。家宝の返還と持ち出し犯の身柄引き渡しを要請される前に、自発的に持ち主に返却したという名目がいるんだよ!」


 500年以上、返すに返せなかったけど、呪縛が解けた時に丁度持ち主が現れたから、お返ししますね。

という建前でスノーホワイト家に返却する。

 エルフにとって500年の延滞は、特に問題にはならないらしい。

 古代ハイランドオーク帝国の亡霊(まさに亡霊にもなったわけだけど)が浄化されて、失われた宝物がクランに戻された。この1点だけで、残りのしがらみは有耶無耶にしてくれるそうだ。


 「壊滅しちゃったレッドベリー?の方は大丈夫なのかな?」

 嫡男までコロコロして遺体も吸収しちゃって返せないけど怒られないかな?


 「それはどうしようもないな。どう言い繕っても、説得しても、レッドベリー家は納得しないだろう。ロザリオ姉さんが失踪したことも含めて、スノーホワイト家の陰謀説を主張するだろうな」

 それって本当だったら、ものすごい策謀だよね。500年越しの罠を仕掛けるために、末娘に家宝を持たせて敵に送り込むって、有り得ないでしょう。


 「だが、見方を変えれば、レッドベリー家は嫡男を含む戦闘力の大半を失い、スノーホワイト家は家宝を取り戻して万々歳、どこが得したかって言われると陰謀説もあながち否定できないぜ」

 うわ、エルフって割とドロドロした陰謀好きなんだ。


 「ああ、長命種族も良し悪しでな、人生長すぎて陰謀さえも娯楽の一種にしてしまうのだよ。嘆かわしいことに」

 「というわけでレッドベリー家の奴等は無視するしかねえな。好都合なことに、向こうの軍事力は壊滅状態だ。実力行使がお家柄のレッドベリーだけに、しばらくは大人しくするしかないはずだ」

 まあ、実質、5個小隊を削ったことになるしね。


 「たぶん、完全に押し込めることはできないだろうから、こちらにちょっかいを出してくるかも知れない。申し訳ないが、それは一部の分らず屋の暴走なので、不問に伏して欲しい」

 「敵対してきたら容赦しないけど?」

 「もちろん構わない。死んだ方がマシな目に遭わせてやってくれ」

 「了解」


 それでクルス達との会談が終了した。

 「お前達もここで見聞きした事は、他言無用だ。わかったな」

 「「はっ!」」

 クルスとミーシャが配下のエルフ達に厳しく緘口令をひいていた。これからエルフの里に戻って、長老会議に報告するようだ。


 「たぶん、ダンジョンとクランで相互不可侵条約を締結することになるだろう。決定したら、私かミーシャが調印に来る。それでいいかな?」

 「僕は構わないけど、エルフ的にはダンジョンマスターって潜在的な脅威に認定されないの?」

 かなりこちらの都合が良い話し合いだったので、気になって聞いてみた。


 「ああ、我々は森林地帯を支配圏に置くので、ダンジョンマスターとは争いになりにくいのだ。鉱山や地下洞窟、遺跡などを本拠地にする種族は、敵対するか隷属するかだがな。なのでこちらからダンジョンに押し掛けない限り、戦いも起きない。共存というと語弊があるが、無関心な隣人ぐらいの扱いだな」


 なるほどねー。ならしばらくはエルフは警戒しなくて良さそうだね。


 「ロザリオ姉さんも世話になっていることだし、我が家とは友好関係でいて欲しいものだがな」

 「こちらこそ、何かの時はよろしく」

 「承った」


 クルスは騎士の礼をとると、ミーシャ達とともに去っていった。


 正座したままの姉を放置したままで・・・


 「私のミスリルソード・・・」

 うな垂れるロザリオの骨ばった足を、親方が慰めるようにテシテシと叩いていた。、




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