昔の名前で
「さて、本格的な交渉を始める前に、幾つか確認させて欲しいことがある。もちろん答えられないことは秘密にしてもらってかわまない。どちらかというと、こっちの事情でどこまでどこに話せばいいかの確認だ」
「ええ、僕はかまいませんよ」
「ではまず、基本的なことから。貴殿はダンジョンマスターとしてこの、オークの丘と呼ばれている地域を支配している、でいいのかな?」
「ですね、大体あってます」
「ふむ、では以前にここに不躾に入り込んだアイスオークとツンドラエルフの部隊の生存者は居るかね?
ああ、勿論、そのことについて非難したり損害賠償を私が求めることはないから安心してくれ。エルフの里の総意であるとはとても約束できないのが心苦しいが、煩型には黙っておくから」
どうやらスノーホワイト家の立場は、主流派ではないらしいね。しかもクルスは上層部には煙たがられているらしい。
「アイスオークには居ませんね。ツンドラエルフは2度目の来襲部隊に6名の捕虜が出ています」
実は、第2小隊と名乗る6人は、4人が瀕死状態で、小隊長を含む2人が、降伏していたんだ。ロザリオが、性根を見据えてから訓練し直すと言うので、現在は牢屋に監禁中だったりする。
「そうか、彼らを身代金などで開放してもらうことは可能かな?」
「それが、任務に失敗したので、里に戻っても居場所が無いって、本人達が帰りたがらないんですけど」
「ああ、なるほど、それはあるかもな・・・ふむ、今のは私は聞かなかったことにしよう」
クルスがニッコリと笑った。
その笑みを見た護衛のエルフ達は、青ざめて居たけれど。
「最後に、ロザリオ・スノーホワイトの存在をエルフの里に知られて構わないかという話なのだが・・」
その話にロザリオが割り込んで来た。
「私は、里に戻る気はないぞ!ここが私の守るべき家だ!」
「いやいや、ロザリオ、その姿じゃ里帰りは出来ないでしょう」
「それが、そうでもないんだ、マスター殿」
クルスが衝撃の事実を告げた。
「ばばーん」
いや、コア、盛り上げるためのBGMはいらないからね。
「ご存知かもしれないがエルフの里には、そのクラン毎の聖樹があって、それを守護する銀の守護者という存在がいるのだ。その方々は歳を経たクランの長老であり、肉体は森の土に還っても、精神を銀の器に移して未来永劫、聖樹を守り続ける」
「それがロザリオに似ていると・・・」
確かに、僕がロザリオを眷属化したとき、エルフの肉体を持たずにスケルトンの姿になったのは、そういう謂れがあったのなら納得がいくね。
「なのでこの事実が里に伝わると、強制連行の可能性もなくはないのだ」
「だから私は戻る気はないと・・」
「この場合、ロザリオ姉さんの意志は微塵も考慮されません。里に帰れば説教と折檻を受ける立場なんですよ!」
「クッ、だから帰りたくないのだ・・・」
珍しく騎士口調から、素の姉妹喧嘩になっている。
「無論、成り立ちが異質な為に、異端扱いで火あぶりに処せられる可能性も否定できないので、お勧めはしないのだが・・」
「外で待機している3人の中のどなたかが納得しないかも知れないと」
僕の指摘を聞いて、護衛の中の3人がピクっと反応した。
「さすがマスター殿には隠し事は出来ないな。いや外で待っているのは苦労性のベテラン戦士で、我が家とは仲が良いので、頼めば秘密は守ってくれるだろうが、直接会わせないと文句をいいそうでな」
「貴女の証言を信用しないと?」
「私が、騙されている、洗脳されている、脅迫されているといった疑念は拭えないだろうし、何より自分の目で見ないものは信用しないタイプだ」
ああ、叩き上げの士官に良くいるタイプだね。自分の目しか信じないし、判断は自分でする。
「いいですよ、その方にも話を聞いてもらいましょう。あとで質問攻めに合うのはクルスさんもいやでしょうから」
「そうか、気を使ってもらってすまないな、どうも彼は私の保護者を自任しているような所があってな。二人ほど連絡に行かせたいのだが、良いかな?」
「それは良いですけど、素直に来てくれますか?」
疑り深い士官だと、罠だと思うかもしれないけど。
「大丈夫だ、ロザリオ・スノーホワイトが発見されたといえば、間違いなく来る」
そういったクルスは悪戯を仕掛ける子供の様な笑顔をしていた。
クルスの予言した通り、外で待機していた3人は、ゲスト申請への返事もそこそこに、玉座の間へ乗り込んできた。
「ロザリオが見つかったってのは本当か!」
「その声は、まさか、泣き虫ミーシャか?」
「俺をその名前で呼ぶなーーー」
ベテラン士官の本名は、ミーシャ・シルバーリーフ、子供の頃は周囲から女の子っぽい名前のせいで苛められていたそうだ。今は無精ひげを生やした小父さんだが・・・
「ばばーん」
いやいや、確かに本人にとっては衝撃の暴露だろうけど、BGMつけるほどじゃ無いと思うよ。
「どうだ、姉さんに間違いないだろう?」
悪戯の成功したクルスは満足そうにミーシャに話しかける。
「ど畜生め、監禁生活で廃人になってるかと心配してやったのに、予想の斜め上をかっとんでいきやがって。ああ、こいつは前からこういう奴だったよ。間違いなくあのロザリオだ」
「ほう、あの泣き虫が一端の口を利くようになったではないか。昔は私の後ろでピイピイ・・・」
「あーーーーわかった。お互い昔の話は無しにしようぜ。被害がでかすぎる」
「いいだろう、一先ず停戦しておいてやる」
幼馴染の挨拶はおわったようだね。
「それで、俺のトラウマまで呼び起こしておいて、昔なじみの面通しだけってわけじゃないんだろ?」
「ええ、今はシルバーリーフ家の代表として話を聞きたい。今回の事件、どう決着つけたら良いと思う?」
クルスが難しい顔をしてミーシャに相談した。
「そうだなあ、前例からすると全部ぶちまけても、長老会議は問題ないと思うが・・」
「前例があるんですか?」
聞き捨てならない情報がでてきた。
「ある、それも割りと最近だ」
「主殿、気をつけたほうがいいぞ。エルフの最近は100年前とかざらにあるからな」
ロザリオは人のこと言えないけどね。
「安心しろ。4・5年前だ」
「ああ、そういえば、それくらいに長老会議から通達があったな。あれは確かゴブリン穴についてだったか・・」
あ、なんとなく誰の話だかわかったような。
「そう、それだ。エルフの里の南方に、無限にゴブリンが湧く縦穴が出現して、調査隊18名が未帰還になった。結局、そこは立ち入り禁止区域になったんだが、実はそこにもダンジョンマスターが居たらしい」
「まさか、こんな短期間に2箇所も出現するわけがないだろう」
「俺もそう思った。だから、こっちがダンジョンである可能性をうっかり排除しちまったんだ」
「となると、向こうも本物なのか?」
実在があやぶまれているけど、たぶんそれ知り合いです。
ワタリがふらふら彷徨って、この近辺の部族に吸収されたんだから、そりゃ遠くない場所にあるよね。誰かさんのゴブリン・ダンジョン。
「俺が掴んだ情報によれば、ゴブリン穴の調査隊を派遣した2家が、長老会議に何らかの情報をもたらして、立ち入り禁止で収めたそうだ。それがダンジョンマスターの実在だったなら話が通る」
「それは今回の事件にもあてはまる・・・そういうことか・・」
「ロザリオの処遇はまた別問題だけどな」
「それは本人に責任とらせますよ」
「主殿!?」
「「なら問題ないな」」
「のーぷろ」
DPの推移
現在値:3358 DP
眷属化:ツンドラエルフx3 -135
:ツンドラエルフ・クレリック -180
:ツンドラエルフ・ソーサラー -125
:ツンドラエルフ・コマンダー -180
吸収:ツンドラエルフx7 +315
:ツンドラエルフ・クレリック +180
:ツンドラエルフ・ソーサラーx2 +250
:ツンドラエルフ・コマンダーx2 +360
残り 3843 DP




