それ以上は止めてあげて
「あっと、うん、なんだろう、ロザリオの関係者?」
他のエルフとは一線を隔する反応をした女騎士について、ロザリオ本人に確認してみる。
「い、いや、私は知らないぞ、見たことも無い」
「じゃあスノーホワイト家については?」
「それは・・・私の実家だ・・・」
やっぱり関係者でしょ。
「オークの墓に囚われていたエルフの女騎士・・銀の守護者・・白雪の十字架・・間違いない、貴女はロザリオ・スノーホワイト。ロザリオ姉さんですね!」
「「ええっ!?」」
僕と、ロザリオ、そして護衛のエルフの声が重なった。
「オイラが最初に既視感を覚えたのは、クルスさんの首に見たことのある様な十字架がかかっていたときっすね」
第一証言者のワタリが解説をする。
「どっかで見たなって言っても、十字架なんて一つしか知らないから、すぐにロザリオさんのを思い出したっす。最初見たときは雪の結晶に十字架かー、北のエルフの貴族っぽいなーとしか思わなかったすけど、同じものをエルフの女騎士様がつけているとなると、関係者かな?って。それで案内する許可を取ったっす」
「ワタリにしては良く気を利かせたね」
「ギャギャ(さすがワタリさんです。偶にすごいです)」
「褒められてる気がしないっす・・」
女騎士の名前を聞いたときに確信したらしい。十字架はクロス、地方によってはクルスと呼ぶ所もある。そして護符になるとロザリオ・・・きっと両親が、生まれた子供に家紋の十字架を贈って、それにちなんだ名前をつける風習がある家だったのだろう。
問題はロザリオを姉と呼ぶ、クルスと名乗る女騎士だけど、ロザリオには妹はいないという。どうなってるの?
「だから私は確かに生前はロザリオ・スノーホワイトではあったが、今は一人の守護者にすぎない。しかも私に妹はいない!」
「生まれたんです、姉さんが行方不明になってから、あと3人!」
「「えっ?本当?」」
エルフは長寿種族だから確かにそういうこともあるかもね。長寿種族だから小子化というイメージがあったけど、戦や災害でどんどん死ぬので、それなりに出産はするそうだ。
ただし、出産適齢期もすごい長いので、長男と末っ子で500歳離れていることもあるらしい。
「だが、それなら何故、私の事を知っているのだ?」
「両親に教わりました。歳の離れた姉がいるって。同僚を助けるといって、家宝のミスリルソードとミスリルチェインを勝手に持ち出した無鉄砲な姉がいるんだって」
「クッ」
あれ勝手に持ち出した家宝だったんだ。
「囚われた同僚は、捕虜交換で無事に戻ってきたのに、1人だけ行方不明になったままの不憫な姉がいたんだよって」
「ククッ」
ああ、囚われた仲間は無事に戻れたんだね。だとすると本当にロザリオの独り相撲か。
「モフモフが可哀想と言って、狩の獲物の雪ウサギを見逃したのに、晩の食事ででたウサギ肉のステーキは美味しそうに頬張っていた、偽ベジタリアンの姉を忘れないでいてくれって」
「クッ、殺せ!もう一思いに殺してくれー!」
黒歴史を暴かれて、ロザリオが転げまわっていた。
うん、あれだね。そういうダメな過去は忘れてあげた方が良いよね。
それともご両親は、天真爛漫な姉のエピソードを語ることによって、妹達に常識を教え込もうとしていたのかも知れないね。
というわけで、ロザリオが機能停止状態になったので、クルスさん達をゲスト認定したあとで、僕が直接合う事にした。
「初めまして、ロザリオのマスターです」
「ダンジョンマスターだったのか・・・やはりと言うべきか、まさかと言うべきか」
クルスは僕がダンジョンマスターだったことより、ここがダンジョンであったことの方に驚いていた。
「いや、失礼、アイスオーク2個中隊、ツンドラエルフ2個小隊、1個中隊を次々と退けた実力からして、ダンジョンマスターの可能性も考えなかったわけではないのだ。だが、ここに通される間に、それはないなと・・」
「なぜです?」
クルスは言いにくそうにしていたが、やがて答えた。
「失礼だが、ダンジョンにしてはショボイなと」
直球だった。
「「ぐふっ」」
僕とコアが見えないダメージをうけた。
「あー、やっぱり分かる人にはわかるっすね」
「確かに普通のダンジョンとは言えませんかな、ジャー」
はぐれとして他のダンジョンの記憶があるワタリとハクジャが頷いていた。
「アタイは好きだぜ、こじんまりしていて、ジャー」
「ギャギャ(そうですよ、ちょっとぐらい変でも気にしません)」
「「げふっ」」
メンバーの微妙な優しさが、追い討ちをかけてきた。
「ああ、すまない。やはり正直に言わない方が良かったかな?」
いえ、貴女がロザリオの妹だという事が、良くわかりました。
恐るべし、スノーホワイト家。




