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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第6章 エルフ編
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高さ制限あり

 初っ端から串刺し頭蓋骨のお出迎えで、テンションだだ下がりの4人組だったが、ここで引き下がるとギルドから違約金を取られる可能性があった。

 「雰囲気が暗くて、何かが潜んでそうでした」では調査依頼を放棄したと言われても仕方ない。しかしやっと装備品を買い直した彼らにとって、違約金は絶対に払いたくない代物だった。


 「しゃあねえな、何か出るまでは行くとするか」

 スタッチが空元気を出して前へ進もうとする。


 「何かって、何よ」

 いままで黙りこくっていたビビアンが呟いた。


 「何かだよ。リザードマンか、その死体か、それの成れの果てか」

 「アンデッドは勘弁して欲しいね。ゾンビぐらいならいいが、ワイトやレイスは面倒さね」

 ソニアが前衛らしいボヤきを入れた。

 切り倒せる敵なら強くても構わない。それどころか歓迎するが、魔法の武器でしかダメージが入らないような相手とは戦いたくなかった。あの斧さえ手元にあれば・・・


 「とにかく慎重に進むしかないな。罠は俺が調べるが、魔法の罠だと見落とす可能性が高い。それはビビアンに頼めるか」

 「いいわよ、・・・ディテクト・マジック!」

 さっそくビビアンが入口の串刺し頭蓋骨に探知魔法を掛けた。


 「魔力の反応有り・・・「幻術」・・「付与」・・ね。どうやら何らかの幻影を見せるみたい。その後の「付与」が、杭に掛けられてるのか、幻覚を見た対象に掛かるのかは不明・・」


 「おいおい、そこが肝心なとこだろうが」

 スタッチの突っ込みにビビアンが苛立たしげに答える。


 「わからないから不明なの。元々、ディテクト・マジックは魔力探知であって、罠探知じゃないんだから、何をどうしたら何が起きるかまで分かりっこないじゃない」

 少し調子が戻ってきたビビアンだった。


 「なんにせよ、迂闊に触れたり、破壊したりしなければ・・って、おい、スタッチ!」

 ハスキーが止める間も無く、スタッチが、剣の先で頭蓋骨をピタピタと叩いていた。


 「大丈夫だって、幻覚なんだろ?お、紫色の煙がでてきたぜ、へへ、種が解ってりゃ怖くねえぜ」

 ドヤ顔で振り返るスタッチだったが、他の3人にはしっかり彼の背後で睨みつける、巨大な髑髏が見えた。

 確かにあの髑髏は幻影かも知れない。だが、その後に来る「付与」が致命的な何かであったらどうするのか・・・

 「なんだよ、皆して葬式の参列者みたいな顔つきしやがって」

 一人だけ事情が分からないスタッチの肩を、3人が順番に優しく叩いて通り過ぎた。


 「アンタの度胸の良さだけは覚えておくよ」

 「短い間だったけど、パーティー組んでくれてありがとう」

 「お前は良い相棒だったよ」


 キョトンとするスタッチを置いて、3人は居住地跡に入り込んだ。

 「おい、どういう意味だよ、なんで過去形なんだよ!」

 3人の後を追いながら、スタッチは叫び続けていた。



 最初の部屋は、思いのほか広く、三角形で、荒れ果てていた。

 「なるほど、これは部族が全滅したと言われても納得する荒れ方だな」

 床や壁を丹念に調べながら、ハスキーは呟いた。


 「壁の文様や文字になんか意味があるのかい?」

 ソニアは部屋の奥にある扉の前で警戒しながら聞いた。


 「文章どころか文字にもなってないわね。魔力反応もほとんど無し・・でもこの反応どっかで・・・」

 ビビアンは、この空間全体を覆うような微弱な魔力反応をどこで見たか思い出そうとしていた。


 「めぼしいものは特にないな。死体も武器もお宝も、何も無しだ」

 部屋を家探ししていたスタッチは、収穫の無さにボヤいていた。何げに他の3人に距離を取られていたが、それには気付いていないようだ。


 一通り探索を終えて、奥の扉を慎重に開ける。この扉に罠が無いのは確認済だ。

 「ここは通路のようだな。左右に分岐が山ほどあるのを見ると、中央通路みたいな場所だろう」

 「ここもまた壁中に落書きがあるねえ」

 「リザードマンが発狂でもして書きなぐったのか?」

 「ちょっと静かにしてよ、集中できないでしょ!」


 ビビアンの一括で黙り込む3人。

 実は壁の文様の異様な威圧感に、しゃべってないと居た堪れなくなったのだが、それは大人の威厳を保つために内緒にした。


 「魔力反応・・強く有り・・「結界」・・「付与」・・これ以上は読み取れない・・」

 ぐったりと倒れそうになるビビアンをハスキーが咄嗟に支えた。

 「すごく強い魔法の結界がかかってる。私じゃ解除できないほどの奴。たぶん状態異常の付与結界だと思う・・・」


 ビビアンは見て分かるほどに衰弱していた。

 魔力探知の為に、廊下で精神集中をし続けていた結果、混乱の状態異常に掛かりかけた為だが、それは4人には分からなかった。

 

 「どうする?入ってすぐ掛かるんじゃないなら、突っ切る手もあるぜ」

 「左右の分岐にモンスターがいたら危険だ、偵察を出す」

 「一人で行く気かい?それなら全員で固まったほうが生き残れるんじゃないのかい」

 ソニアが斥候を出すのを危険だと主張するが、ハスキーは首を振った。


 「どちらでもない、そんな危険は犯さない」

 そう言うと、ハスキーは呪文を詠唱し始めた。

 「サモン・ウッドランド・ビーイング・・森の生物召喚ね。ハスキーがその呪文を使ったの初めて見た・・」

 ビビアンが詠唱の出だしを聞くだけで何の呪文を唱えているのかを当てた。


 「こいつ、初めて召喚したウサギが速攻でモンスターの餌食になってから、トラウマになって使わなかったんだよ」

 スタッチが相棒の黒歴史をあっさりばらしてしまう。 

 「ハスキーらしいじゃないか、優しい男は嫌いじゃないよ」

 ソニアのからかいに、何故かビビアンが頬を膨らませた。それを目敏く見つけた2人はニヤニヤと笑みを浮かべる。


 「・・出でよ、鳥でもなく獣でもない者どもよ!」

 ハスキーの召喚に応えて現れたのは3体の蝙蝠こうもりだった。

 「この先の空間の探索だ。ゆけ!」

 手元から放たれた蝙蝠たちは、目では追いきれない複雑な軌跡を残しながら飛び去っていった。


 「アタシは呪文はからっきしなんで、あれなんだけど、なぜ蝙蝠なんだい?」

 ソニアが素朴な質問をした。他の2人も疑問に思っていたので、ハスキーの答えを静かに待った。


 「この先の結界の効果が、壁に書かれた文様から発生するなら、それを見ないで音で空間把握できる蝙蝠なら影響を受けない可能性がある」

 「「「なるほどー」」」

 確かに蝙蝠達は、特に状態異常に掛からずに、左右の分岐を行ったり来たりしていた。やがて最奥の下り階段を見つけると、それを降りるかどうか迷って、天井に止まった。


 それまでの偵察で把握できた内部構造を、地面にダガーで描いて他の3人に説明する。

 「やはり、この正面通路を中心にして左右に通路と部屋が並んでいるようだ。扉があるところは先に何があるかは、わからない。ただし、物音はしないから生物が潜んでいる可能性は低い」


 あっという間にできあがった平面図を覗き込んで、ソニアは感心していた。

 「ほうほう、なるほどね。この造りだと、1階部分で怪しいのは一番奥の突き当たりの扉だね。むろん地下はもっと怪しいけどさ」

 「だろうな、左右は歪だが、ほぼ均等に部屋が配置されている感じがする。全部開けて回る気がないのであれば、奥の部屋が本命で間違いないだろう」

 ハスキーもソニアの意見を支持した。


 「それでどうするんだ?目を瞑って奥まで行くのか?」

 「途中の床に細工されてると厄介だ。そこを召喚獣でチェックしたら、一気に奥まで行こう」

 そう言って、ハスキーは蝙蝠を送還すると、新たに土竜もぐらを3匹召喚した。


 「これも結界対策かい?」

 「ああ、土竜も弱視で、音に敏感なんだ。通路の先ぐらいまでは持つだろう」

 3匹を横一列に並べて歩かせて、床に罠が無いか調べてみた。

 

 「よし、大丈夫そうだ。目を閉じて俺の後について来てくれ」

 ハスキーは自分も目を瞑ると、同調した土竜の聴覚を頼りに、通路を先へ進んだ。残りの3人も言われた通りに何とかついてきた。


 通路の端までたどり着くと、ハスキーが小声で囁いた。

 「・・ここが一番奥だ。今から扉を開けるが、中に複数の生物の呼吸音がする。戦闘になると思っていてくれ・・」

 「「「・・了解・・」」」


 「・・3つ数えたらいくぞ・・3・・2・・1・・Go!」

 ハスキーが扉を開けると、すかさずソニアとスタッチが部屋に入り込んで壁をつくる。ハスキーとビビアンはその背後に移動して、詠唱と弓の準備をした。


 しかしそこには、三角形のホールの壁に、ぎっしりと積み重なった巨大蛙のピラミッドが待ち構えていた。


 「「「「 なんじゃこりゃあ! 」」」」


 「「ケロケロ」」


 



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