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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第6章 エルフ編
143/478

1匹の刺客

 癒しの泉の攻防は、六つ子有利で始まった。


 「魔術兵の詠唱はキャンセル。あとは任せた」

 「エルフ後衛4人はウェブの効果範囲だ」

 「隊長さんはレイピアに小盾、横のお付は長剣に小盾。この隊長さん出来るよ、気をつけて」

 「PFM張ったよ。弓隊は無視してOKよ」

 「戦神の祝福は降りた。盾に換装する」


 ここで六つ子のリーダーは、2つの選択で迷った。

 1つはこのまま後衛がウェブから脱出する前に前衛を集中攻撃する。

 もう1つは可燃性のウェブに火炎系の攻撃を加えて、後衛を一網打尽にする。

 エルフの隊長の隙のない構えを見て、後衛への攻撃を選択した。


 「チャンスだ、火炎弾を叩き込んでウェブごと燃やせ」

 「はいよ」

 魔術士がファイアーボールの詠唱を始め、戦士と神官でエルフの前衛二人を足止めする。ドルイドは防御補助呪文、レンジャーとローグ/メイジはウェブを脱出しようとする後衛の牽制に回った。

 ファイアーボールが直撃して、ウェブに火が回れば、耐久力の低そうなエルフの弓兵や魔術兵は、重症を負って戦闘不能になるだろう。

 6対2になれば幾ら向こうの隊長が強くても押し切れる。その勝利の確信が六つ子達に油断を招いた。


 「させるかあーーー」

 叫びをあげて隊長が、手にしていたレイピアを魔術士に向かって投擲したのだ。

 渾身の力を込めて投げつけたレイピアは、前衛の防御も、対弓矢用の防御も突破して、魔術士の胸に突き立った。


 「ゲハッ」

 「なんだって!」x5

 予想だにしなかった反撃をうけて、六つ子達に動揺が奔った。火炎弾の詠唱も、もちろん阻害されてしまった。

 その隙にウェブに囚われた魔術兵の詠唱が終わる。


 「剣には剣を、魔力には魔力を!この場に留まりし全ての魔力を拭い去れ、ディスペル・マジック!」

 力ある言葉により、ウェブ、フェアリーファイアー、プロテクション・フロム・ミサイルの呪文が掻き消された。

 それを待って弓を引き絞っていた弓兵が、一斉に奥義を解き放つ。


 「「「ツイン・シュート!」」」

 魔術士、盗賊/魔術士、ドルイドの3人にそれぞれ、2本ずつ矢が突き立った。

 「「「ぐはっ」」」

 形勢が一気に逆転した。



 その頃、十字路を封鎖する第2小隊は。


 「小隊長、第3小隊に続かなくてよろしいのですか?」

 何かを見つけて独自に侵攻を開始した第3小隊を、気にした隊員が上奏してきた。


 「我らに与えられた命令は、この場所での待機と警戒だ。余計な欲をかいて陣形を乱す必要はない」

 なのに第3小隊長は何を考えて行動したのか。スタンドプレーは立派な軍紀違反だ、帰ったら必ず責任を取らせる・・・

 そう考えた第2小隊長へ、さらなる報告が入る。


 「小隊長!階段を降りて何かが近づいてきます!」

 「何かとはなんだ?敵か味方かはっきり報告しろ!」

 「それが・・・ハリネズミと思われる動物が1体、歩いてきます・・・」

 「はあ?」


 隊員の指差す方を見れば、確かに山嵐のような、ハリネズミのような生き物が、トコトコと歩いてこちらに来る・・・かと思ったら玄関ホールでフンフン何かを嗅いでいる。

 「小隊長、いかがいたしますか?」

 「いかがも何も、あれは野生動物が紛れ込んだだけだろう」

 「しかし中隊長からはエルフ以外は全て敵と見做して攻撃せよと・・・」

 そういえばそうだったな・・・しかしあれを攻撃するのか?


 「中隊長は、「この先にいるのは」とおっしゃっていたはずだ。あれは後ろから来たのだから除外だろう」

 この小隊長もモフモフ好きらしい。


 「しかし、敵の術者の召喚獣かも知れませんが・・・」

 部下の反論もどこかしら弱々しかった。

 「ならば、矢で威嚇して追い払え、ただし当てるなよ」

 「はっ」

 玄関ホールをうろうろしながら近づいてきた謎のハリネズミに、威嚇射撃が行われた。


 「「あ、怒った」」

 近距離に突き立った数本の矢に、ハリネズミ(仮)は驚いて逃げ出さずに、身体を丸めて威嚇のポーズを取って来た。


 「小隊長が威嚇射撃なんか命じるから怒ってますよ、どうするんですか」

 「敵かも知れないと言ったのはお前達だろ、責任とって宥めてこい」

 「そんな横暴です」

 責任の擦り付けあいを始めたエルフ達に向かって、ハリネズミ(住所不定無職)が背中の棘を逆立てた。


 「あ、まずい、総員伏せろ!」

 危険を察知した小隊長の号令と、背中の棘の射出は、ほぼ同時だった。


 「「あぶなっ!」」

 ギリギリで飛んできた棘を避けたエルフ達であったが、外れた棘が放物線を描いて奥の両扉まで届くのを見て焦った。

 「「そこはまずい!」」


 カツンカツン  乾いた音をたてて棘が扉に当たって跳ね返る。突き出す槍衾、開く落とし穴、そしていつもの惨劇が繰り返される・・・


 かに思えたが、さすがは俊敏なエルフ。足元に開いた落とし穴に落ちかけた仲間の手を、とっさに掴んで支えきった。

 しかし俊敏なゆえに豪腕にはほど遠く、落ちかけた2人の隊員を残りの4人で支えているような状態だった。時間さえあれば引き上げられる、ただし、目の前の怒ったハリネズミが次の斉射を行わなければ・・・


 「しょ、小隊長、どうしましょう」

 「あ、慌てるな。今、バランスを崩されると全員が落ちる。大丈夫だ、ハリネズミだって話せば分かる・・・かも知れない」

 「あ、俺、ハリネズミ語なら話せます」

 「「なんだとー、早く言ってよ」」


 「兎に角、宥めて帰ってもらえ」

 「はっ」

 第2小隊の期待を一身に背負って、説得交渉が始まった。タイムリミットは近い・・・皆の腕の筋力が限界なんだ。


 「キュキュキュ」

 「キュキュ?」

 「キュキュー」

 「キュ」

 傍で聞いているとまったく意味がわからないが、何かしらのコミュニケーションはとれているようだ。


 「小隊長!わかりました!」

 「どうなった?」

 「彼はハリネズミではなくてハリモグラだそうです!」

 「「そこじゃないだろ!!」」


 あっ・・・


 ツッコミに気をとられて、うっかり握った手を離してしまった・・・


 「「小隊長ーーーー」」

 底の見えない落とし穴に落下していく仲間を呆然と見送る我々を尻目に、ハリモグラは悠々と階段へ向かって帰っていった。



 鉄格子が降りているから出られなかったけれども・・・


 「キュキュー」

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