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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第6章 エルフ編
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雪原の死神

 レッドベリー家の捜索隊、第3小隊は十字路の左端で待機するしかなかった。


 「小隊長、この場で留まる意味がありますでしょうか?」

 隊員の一人が、痺れを切らして上奏した。小隊長も中途半端な位置取りに不安があったが、中隊長からの指示が無い限り、持ち場を離れるわけにもいかず困っていた。

 

 「状況に変化があるまで現状維持だ。周囲の警戒だけは怠るな」

 そしてそこに意図された変化が訪れる。


 「・・小隊長、青銅の扉の向こうで物音がします。部屋の中で別の扉が開いて、何者かが出てきた足音です・・」

 廊下の突き当たりの、覗き窓のついた扉に耳を押し当てていた隊員が、小声で報告してきた。少しだけ躊躇した小隊長だったが、覗き窓から中の様子を覗うよう指示する。

 ほんの1cmほど押し上げて、慎重に中を覗いた隊員が、驚きの声をあげた。


 「・・スノーゴブリンです。牢屋番らしいスノーゴブリンが深皿を持って、右手の青銅の扉から出て行きました・・」

 どうやらこの先に囚人が囚われている牢屋があるようだ。牢屋番が食事を運び込んでいるいまなら、扉の鍵も開いているはずだ・・・

 「・・よし、囚人の救出は最優先事項だ。第3小隊は牢屋区画に突入して囚人の安全を確保する。続け・・」


 小隊長が先頭となって元拷問部屋に雪崩れ込んだ。

 2名の隊員が左の扉を牽制し、小隊長を含む4名で牢屋番を取り押さえる手はずになった。スノーゴブリンなら制圧も簡単だろう。


 「・・いちおう牢屋に他に敵の衛兵がいないか確認しておけ。制圧に時間がかかると囚人に危害が加えられる可能性もあるからな・・」

 小隊長の指示に、隊員の一人が牢屋側の青銅扉の覗き窓を開けた。


 バタン! ガチャ  ブシューーーー


 罠が発動して十字路に戻る扉が自動で閉まり施錠された。さらに部屋中に睡眠ガスが充満する。


 「トラップです!退路の扉が開きません。毒ガスの可能性が!」

 「慌てるな、これは睡眠ガスだ、我々には効果が無い。おそらく囚人の逃走防止の機能だろう。無視して牢屋へ突入するぞ」

 小隊長は、自ら牢屋側の扉を押し開けた・・・



 その頃のコアルームにて


 「あれ?エルフって睡眠ガス効かないのか。もしかしてスリープ・チャーム・パラライズ無効?」

 「主殿はよく知っているな。エルフには睡眠の状態異常は効かないぞ。魅了と麻痺は相手によりけりだな」

 「ああ、ドライアドとかの妖精系魅了のみ無効、麻痺はグールの麻痺攻撃のみ無効だったね」

 「本当に良く知っているな。前世がエルフだったりしないか?」

 前世も別な意味でダンジョンマスターやってました。


 「対人なら睡眠も混乱も似たようなものだとコストを削減したのが裏目にでたね。エルフのリベンジは想定してなかったからなー」

 「それはいいが、アサマがピンチではないのか?」

 「おっとそうだね、ケンチーム、ゴー」

 「らっしー」 「バウ」


 牢屋番の部屋には、主力としてケンチームが全員で待機していた。エルフ達の注意が牢屋側に集中したのを幸いに突入の指示を出した。



 第3小隊視点


 扉を開けると、そこは予想通り牢屋区画だった。ざっと見渡して7つの鉄格子が見えるが、中に囚人がいるかどうかはわからない。それより牢屋番のスノーゴブリンはどこに行った・・・


 「隊長!後方の扉より敵が現れました!あれは・・まさか・・ウィンターウルフ!」

 「馬鹿な!こんな場所に雪原の死神がいるわけない・・・」

 だが、そこにいるのは紛れも無く奴だった・・・


 散開の指示を出す暇も無く、奴は必殺のコールドブレスを吐き出した。

 我々の耐寒能力では、奴のブレスを耐え切ることは不可能だ。ブレスに巻き込まれた3人が瞬時に重傷を負った。


 「固まるな、部屋の隅に散らばって弓で応戦しろ!魔術兵は威力増しで単体攻撃魔法を・・・」

 指示を出している最中に、魔術兵が喉から鮮血を撒き散らしながら倒れこんだ。


 「何が起きた・・・」

 いつの間にか接近した2頭の黒い狼が左右から魔術兵の喉を噛み切っていた。

 「シャドウ・ウルフだと・・・」


 この乱戦の最中に影に潜んだ奴らを察知するのは不可能に近い。奇襲をくらえば、士官クラスでも一撃で倒される危険がある。

 そう考えて周囲を見れば、今、まさにクレリックの足元に黒い狼の影が・・・


 「逃げろ!」

 そう叫んだはずの私の声は、ただゴボゴボと嫌な音をたてただけだった。

 部下に指示を出すのに夢中になって、牢屋番のことを失念していた。彼は音も無く私の背後をとると首筋に致命的な一撃を加えてきた。

 薄れ行く意識の中で、同じようにシャドウウルフに奇襲を受けて転倒するクレリックの叫び声を聞いたような気がした・・・


 小隊長と士官2名を失った第3小隊は、その後すぐに雪原の死神に蹂躙されて全滅した。



 その頃の第1小隊


 敵は偽冒険者6人、重装戦士2名、軽装弓兵2名、魔法使い2名だ。人族の顔の区別は本当につき辛い。どれも同じに見えて仕方が無い。だが、装備から敵の戦術は予想できる。


 「前衛で重装戦士を押さえ込む。魔術兵は範囲攻撃魔法、弓兵は敵魔術士の詠唱を阻害しろ!」

 「はっ!」


 こちらの指示と同時に敵も戦闘行動を開始した。だが、それはこちらの予想を裏切るものだった。

 「5人が詠唱だと!?」


 重装戦士の片方だけが突出して前衛となり、残りの5人はその場で呪文の詠唱を始めたのだ。

 基本的に呪文のLVが低いほど、詠唱の時間は短くてすむ。予想される敵の魔術士の範囲魔法を阻害するためにタイミングを計っていた弓兵は、5人の詠唱者に対して的を絞りきれなかった。

 結局、最初の中隊長の指示の通りにローブ姿の2人に撃ったが、詠唱を阻害することは叶わなかった。なぜなら敵の詠唱が終わる方が早かったからだ。


 「マジック・ミサイル!」

 「フェアリー・ファイヤー」

 「ブレス!」

 「ウェブ!」

 「プロテクション・フロム・ミサイル!」

 すべて呪文LV3以下の初級呪文ではあるが、その効果は侮れない。


 まずマジックミサイルで、こちらの魔術兵の詠唱がキャンセルされた。さらにフェアリー・ファイアーで回避率を下げられた。ブレスは奴らの命中率を上昇させ、ウェブでこちらの移動を阻害し、プロテクション・ミサイルで弓兵を無効化された。

 今、自由に行動できるのは前衛の我々だけだ。ならば遣る事は一つだけ。

 「この重装戦士を撃破して敵後衛に切りかかる!」


 敵の魔術士が範囲攻撃の詠唱を始めた。ファイアーボールだ。あれを撃たれたらこちらの後衛は全滅もありうる。

 「させるかーーー!」




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