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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第6章 エルフ編
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捕まったのはワザとさ

 「ぴんぽーん」

 地下墓地の階段に侵入者があった。例の6人組みたいだね。何かに追われるように階段を移動している。

 「主殿、ワタリには風の囁きで状況は伝えておいたぞ。返事は受け取れない呪文なので、向こうの様子はわからないが」

 「ありがとう、ワタリなら上手くやるでしょ」

 生き延びる事にかけては、名人級だからね。


 問題は、冒険者と争っているエルフの集団だよね。前回の行方不明者の探索だとすると、なぜ冒険者と戦いになったのか良くわからない。エルフってそんなに排他主義なんだろうか。


 「武力で解決しようとする勢力もいなくはないな。脳筋というより、交渉や権謀術数だと相手が有利な時は、武力で優位に立ってから折衝するタイプだ」

 だとすると冒険者を追い詰めておいて取引でもする気なのかな。

 「もしくは彼らもエルフ失踪にかかわっていると見たかだな」

 どちらにしろ、ちょと様子を見るしかないね。ワタリが戻ってきたら詳しい状況を聞こう。



 階段を癒しの泉への分岐まで駆け下りた冒険者達は、反転すると反撃にでた。


 「二人は泉まで移動して傷を癒して。4人で奴らを食い止めるわよ!」

 「無茶だ、幾ら狭くても壁役がいなけりゃ守りきれん」

 「守る気ないから、いつものやつで。音響は僕がやる」

 「了解、あたし主役ね。嵐の女王」

 「俺が、舞台効果と蜘蛛の衛兵」

 「そうか、頼んだぞ」

 「はいな」x4



 地下墓地へ降りる階段の手前で、部隊の再編を果たしたレッドベリー家の中隊は、盾兵を前衛に、2列縦隊で進撃していった。


 「中隊長、斥侯はよろしいので?」

 「構わん、すぐに奴らと遭遇するはずだ。範囲呪文にだけ注意して、詠唱が聞えたら前衛は突撃してキャンセルさせろ」

 「はっ!」

 その瞬間、地下通路に雷鳴が轟き渡った。


 ピシャアアーー ドンガラガラガラ ガッシャーーン


 突然の自然現象にエルフ達が動揺する。

 反射的に上を見上げる者。耳を塞いでしゃがみこむ者。とっさに弓をつがえる者などバラバラな行動をとった。

 「馬鹿者!陽動だ、階段下に敵がいるぞ!」


 さすがに中隊長は動じずに配下に指令をだす。だが、狭い空間で鳴り響いた大音響に、各兵士の聴覚が回復するのに少しだけ時間がかかった。

 その隙をついて呪文が飛来する。


 「・・・ ・・ ・・て吹き荒べ風よ、ガスト・オブ・ウィンド!」


 階段の下から強烈な風が吹きつけてきた。しかも地下通路を真っ白に染めながら。


 「なんだ、この風は!目が、目がーー」

 ただの強風を作り出す呪文のはずなのに、白く染まっており、目に激痛が走る。

 水筒の水で洗い流そうとすると、今度は肌が焼けるように熱くなった。


 「畜生め、これは石灰の粉だ!水は掛けるな火傷するぞ」

 「あいつら強風の呪文に石灰粉を投げ入れやがった」

 「追え!もう容赦しなくていい。全滅させろ!」


 視力が回復した兵士達は、怒りながらも隊列を組んで階段を駆け下りる。途中に枝道もあったが、通路いっぱいに巨大蜘蛛の巣が張られていたので無視をする。なにより階段を降りた先のホールにある両扉が開いたままだった。


 「ホールには敵影なし。扉の向こうは十字路になっているようです」

 「奴らの足取りは掴めるか?」

 「階段は石灰が舞ったために足跡は消えています。ホールには複数の出入りした跡がありますが、やや古い様な」

 「なるほど、やつらは囮というわけか。こうやって誘っておいて遺跡の中で各個撃破するつもりだな」

 「いかがいたしますか」

 「どちらにしろ敵の罠は食い破らねば目的は達成できん。装備を確認後、防御呪文を掛けてから突入する」

 「「はっ!」」



 エルフの中隊が戦闘準備をしている頃、六つ子は泉の側で一息ついていた。


 「どうやら遣り過ごせたようだな」

 「治癒呪文とか掛けてバレないかな?」

 「ウェブの手前に静穏の結界を張ってある。音で気付かれる心配はない」

 「その代わり、向こうの状況もわからないけどね」

 「今は回復の時間が欲しい。上手くいけばエルフが勝手に遺跡に突っ込んでくれるはずだ」

 「でもなんでいきなり襲ってきたのかな?誰かエルフに恨みでもかった?」

 「いや」x5


 「山賊に間違えられたか、人族嫌いのエルフだったか、どちらにせよもう穏便に済ますのは無理だな」

 「めちゃ怒ってたしね」

 「二人の矢傷もほぼ癒したし、次はどうする?」

 「ウェブの効果時間が切れるまで待機だ。手が空いてたら薬草を採集しといてくれ」

 「おお、そっちの依頼もあったね」

 「よし、ちゃっちゃと終わらしとこう」

 「あいよ」x3



 その頃コアルームでは


 「うわ、見事にこっちにエルフを擦り付けてきたね」

 6人組が逃げ込んだ癒しの泉を通り過ぎて、エルフの中隊は目標を地下墓地に切り替えたみたいだ。


 「主殿、こちらまで雷鳴のようなものが聞えたが、何があったのだ?」

 ロザリオの待機する中央ホールにまで、あの音は聞えたらしい。


 「幻聴の呪文を使った大音響で、他の呪文の詠唱を隠したみたい。今はエルフは冒険者を見失って、地下墓地に突入する準備してる」

 強風の呪文に目潰し混ぜたり、通路にウェブ張って蜘蛛の巣に偽装したり、芸が細かいね。両扉が開いているのはノックの呪文かな?あれでエルフの意識が正面に向いたかんじだね。

 それで今は傷を癒しながら、薬草を採集してるのか。群体召喚して誘導すればエルフを再度ぶつけられるけど、どうしようかな・・・


 「どげざー」

 え?ワタリと念話が繋がった?戻ってきたんじゃないんだ。

 「すいませんっす。エルフの別働隊に捕まったっす」

 ワタリの現在位置は・・・土竜穴3番の第5観測点?ああ、つま先だけ土竜塚につっこんでるんだ。

 エルフは6人で隊長は女騎士っぽいんだ。そっちが本命かな?


 「違うみたいっす。なんか先の一団を監視してるというか、仲が悪いから潰れるまでほっとく的な事を言ってるっす」

 ありゃー、さらに複雑になってきたよ。


 「コア、とにかく気付かれない様に、蜜蜂偵察機を出して。まだ他にも隠れてるかも知れないから」

 「はにー」

 「ワタリはどうする?やばそうなら転送するよ」

 魔方陣が出るからダンジョンだってバレるだろうけど、ワタリの安全が優先だからね。


 「こっちのエルフは話が通じそうなんで、大丈夫っす。それとちょっと気になることがあるんで、地下墓地まで案内していいっすか?」

 「そりゃまあ、ダンジョンまで引き込むのは構わないんだけど、ゲスト扱いした方が良さそうなの?」

 「いえ、それはまだいいっす。ヤバくなったらサクッとお願いするっす」

 「了解、無茶しないように」

 「らじゃーっす」


 「ギャギャ(ワタリさん、大丈夫でしょうか・・)」

 「ギャギャギャ(あいつは捕まり慣れてるから大丈夫さ)」 

 「プランCとはワタリも成長したよね」

 「すねーく」



 丁度その頃、三日月湖の湖畔に冒険者の4人組がたどり着いた。


 「やっと来たわね、三日月湖。リザードマンの妨害ですごい時間がかかったわ」

 周囲の景色を見渡しながら、ビビアンが文句を言った。


 「いやいや、見かけたリザードマンに片端から喧嘩吹っかけたのはビビアンじゃねえか」

 スタッチがつい突っ込みをいれた。確かに今回の指定依頼は、三日月湖の部族の動向を探る仕事だ。途中の獲物は無視した方が、より安全に遂行できる。

 だが、もちろんそんな正攻法をビビアンが受け入れるはずもなかった。


 「馬鹿じゃない、目の前に銀貨2枚が歩いてるのよ。拾わずに通り過ぎるとか、何よ、お貴族様気取りってわけ?誰かさんは借金残ってるの忘れてないわよね?」

 一言言えば、3倍になって返ってくる。それが分かっていてなお、言わずにいられないほど寄り道をしたのだ。

 まあ、美少女に詰られるのが嬉しいというのもあるのだが・・・


 そしてそれをソニアかハスキーが宥めるというのもお約束だった。

 「まあまあ、兎に角ここまで来たんだ。気を引き締めて探索しよう」

 「ハスキーの言うとおりさ。へたすると本物の魔女とご対面することになるんだろ?」


 魔女の話がでると、急にビビアンのテンションが下がった。

 「ありえないわよ。冥底湖の魔女はこんな場所には姿を現さないわ・・・」

 「おいおい、まるで魔女を知ってるみたいなそぶりだな」

 スタッチが囃し立てるが、ビビアンはそれには答えなかった。


 湖を北へ向かって半周すると、そこに元「下弦の弓月」と呼ばれた部族の集落があった。

 ここに至るまで、リザードマンの姿を1体も見ていない。それはこの地域の湖畔ではありえない事態であった。


 「空白地帯か・・・」

 ハスキーがポツリと呟いた。

 「嫌な雰囲気だねえ」

 ソニアも低い声で答える。

 「どうやらあれが入り口らしいな」

 スタッチが半分、地下を掘り下げたような住居の入り口を指して言った。

 「・・・・・」

 ビビアンはあれから何もしゃべらない。普段から煩いぐらいに話続ける彼女も、この雰囲気に飲み込まれているのだろうか。


 4人全員が住居の入り口に立てられた、杭に刺さった頭蓋骨を見つめていた。


 「「「「・・・帰ろうか」」」」


 期せずして4人の声がハモッた瞬間であった。

  

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