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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第6章 エルフ編
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一矢騒然

 ワタリが3本目の大木にとりかかろうとしたとき、すぐ側を蜜蜂が弾丸の様に飛びすぎていった。

 「巣に向かって一直線、なんかやばそうっすね」

 本能で危険を察知したワタリは、重くて嵩張る戦斧を、切り株に突き立てて放置すると、その場から離れて隠密を働かせた。

 それと同時に身体を包む様に纏ったエルヴン・クロークにより、周囲の景色に完全に溶け込んでしまった。この状態のワタリを見つけ出すことは、よほどの探知能力が無ければ不可能だろう。

 その場で佇みながら、何が来るのかを見届けようと待ち続けた。



 「あれ、こんなとこに切り株があるよ。それも真新しいやつ」

 六つ子の斥侯役が、不自然に新しい切り株を見つけた。


 「なるほど、まるでついさっきまで樵が居たような感じだな」

 「とはいえ、周囲にそれらしき人影もないし、逃げ出したかな?」

 「この斧で切ってたのかな?でもこれ戦斧だよね、樵斧じゃない」

 「切り倒し方も雑だな。素人とは言わないが、見習いぐらいの腕前だ」

 「切り出した後、牙猪3頭に引かせて運び去っている。後を追うぞ」


 何気なく戦斧を担いだまま、六つ子は橇と猪の跡を辿っていった。



 「痕跡を消す時間がなかったのは、まずかったっすね。もう五郎ちゃんはダンジョンに着いてるだろうけど、冒険者が裏口に行きそうっす」

 気付かれないように後を追おうとしたワタリは、自分以外に冒険者を覗う者がいるのに気がついた。


 「危なっ、うっかり見つかるとこだったっす。まさかエルフまで来てるなんて・・・」

 六つ子を監視していたのはツンドラエルフの斥候だった。さすがに人族の冒険者より、探知と隠密に優れるようで、気付かれない様に追跡することに成功している。

 ただ、じっと動かないワタリを感知することはできなかったようだ。


 エルフの斥侯の後を、距離を置いて本隊が追従していく。

 「ひの、ふの、3小隊、18名すか。この間のリベンジすかね?」

 エルフだけなら1個中隊でも問題ないだろうが、冒険者と手を組まれると面倒なことになりそうだった。


 「ここはおいらの出番っすね」

 エルフの本隊が十分先に進むのを待ってから、ワタリは静かに動き出した。


 しかし、ワタリも気がつかなかった事があった。

 エルフの本隊をさらに遠くから監視する一団がいたことに。


 

 「あの人影はどこから現れた?」

 遠くから監視していた女騎士が、突然視界に入ってきた不審な人物を差して尋ねた。


 「どうやら樵が最初から潜んでやがったな」

 「樵の動きとも思えない見事な穏形だが」

 「森の加護のマントを着ているようですな」

 「ほう、同胞が譲ったのであれば無碍にはできぬし、強奪したのであれば罰を与えねばならぬな」

 「とにかく少し泳がせて様子見だな。そのうち正体を現すだろうぜ」

 ベテラン士官の合図で、ゆっくりと移動を始めた。



 その頃、六つ子は橇の跡を辿って、オークの丘にたどり着いていた。


 「こっちにも洞窟があるんだ」

 「麦畑とは反対側になるのかな」

 「丘の中腹に地下墓地への階段開口部も見える」

 「どうする?伐採したのドルイドさんかもよ」

 「召喚した牙猪に牽かせたなら、ありうるな」

 「・・・どちらにしろ確認が必要だ。邪神教団が建造物の為に運び込んだのではないという確認が」


 リーダーの一言で、洞窟に偵察に入ろうとした六つ子に、突然、矢が降り注いだ。

 大半が足元に突き刺さったが、1本が、女性冒険者の首筋に突き立った。

 「キャアアア」

 「敵襲!」

 「包囲されてるぞ」

 「傷を治す」

 「煙幕張るぞ」

 「対空防御急げ」

 重戦士が盾を掲げて後衛を守ると、術者二人が呪文を唱え始めた。


 「誰だ当てた奴は!威嚇射撃だと言っただろ!」

 レッドベリー家の中隊長は、指示に従わなかった部下を叱りつけた。だが、今は人族に対応するのが先だ。もはやこうなっては情報を聞き出すのは戦闘に勝ってからだと腹をくくった。


 「一人だけ生かしておけば良い。次は倒す気で狙え、撃てー」

 再び降り注ぐ矢の雨を、重戦士が身体を張って防ぎきった。前衛の二人は矢傷でボロボロになりはしたが。


 「我と我らを飛び来る悪意より守りたまえ、プロテクション・フロム・ミサイル!」

 「大地に蓄えられし水達よ、霧となりて我らを隠せ、フォッグ・クラウド!」


 前衛の稼いだ貴重な数瞬を使って、矢の防御と霧の雲が発動した。視認が困難になり、さらに遠距離攻撃の命中率が極端に下げられたために、ツンドラエルフ側の第3射は、効果が無かった。


 「いまのうちに地下墓地の泉まで下がるぞ」

 「すぐぞこに洞窟あるじゃん」

 「馬鹿だな、何が居るかわからないとこに追われて入ったら死ぬだけだぞ」

 「しかし、あそこも行き止まりでは?」

 「傷が治せるだけ有利だ。大部隊の展開も防げる」

 「急げ、ここに留まっていると範囲魔法が飛んでくるぞ!」

 「ひえーー」x5


 

 「中隊長、煙幕で敵が視認できません」

 「構わん、矢で牽制しつつ、ウィンド・バーストを叩き込め」

 「了解です!」

 しかし詠唱が完成する前に、冒険者の集団は脱兎のごとく丘の斜面を駆け上がっていった。


 「目標変更、逃げる奴らに撃て!」

 「「「ウィンド・バースト!」」」

 風の範囲攻撃魔法が、冒険者を追いすがったが、ギリギリで射程外に逃げ切った彼らは、階段を転げ落ちていった。


 「ちいっ!逃がしたか。だが、手傷は負わせたはずだ。このまま追撃に移行する!」

 「「はっ!」」


 六つ子の後を追いかけて、エルフの中隊が地下墓地の階段を降りていくのを確認したワタリが、そっと木の陰から姿を現した。


 「うまくいったっすね」


 「ああ、見事だったよ」

 「誰っすか!」

 独り言に返事を返されて、あせって振り向いたワタリは、自分を取り囲む6人のエルフを見て観念した。

 その中の隊長格らしい女騎士が、ワタリに話し掛けてきた。


 「威嚇射撃に紛れて冒険者に命中弾を放ち、なし崩しに戦闘に突入させる。言葉にすれば簡単だが、両者に気取られないように成功させるのは難しい。樵にしておくにはもったいない腕だ」


 「最初からつけられてたっすね」

 「さあ、どうだろう。とにかく君と話がしたくてね。悪いようにはしないから、抵抗しないでもらえるとありがたい」

 「下っ端なおいらは何もしらないっすよ」


 「おいおい、マジックアイテムまで装備している君が、下っ端はわけないだろう?」

 どうやらこの女騎士は、最初からワタリを重要人物としてマークしていたらしい。周囲の兵士も微塵も油断していない。逃走は絶望的だった・・・


 「こうなったら・・・奥義をだすっす」

 ワタリの言葉に兵士が殺気を放つ。止めようとする女騎士に構わずワタリは地に伏せた。

 

「奥義!土下座!!すいませんしたー」


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